175話 事態は着々と進む



 紫音が年下ちゃん達の会話を、頭の中お花畑で見ていた頃―


 王都にあるフェミニース大教会では、フェミニースから聖堂にある女神像の前にリズの女神武器が神託と共に転送されてきていた。

 その布の被せられた女神武器の前で、大司教フィオナとナタリーが話し合っている。


「女神武器が授けられるのは久しぶりですね、エスリン以来ではないですかね。それで神託では誰に授けるようにとなっているのですか? やはり、最近活躍しているという新人冒険者『黒き地平線ブラックホライゾン』のシオン・アマカワさんですか?」


 最近の活躍からすればナタリーの推察は当然であったが、フィオナに尋ねると彼女はこう答えた。


「いえ、リズちゃん…リズ・エドストレームにとの事です」


「たしか、四騎将リディア殿の妹さんですよね? 姉妹揃って女神武器を授かるとは、流石は200年前に魔王を倒したリーゼロッテ様のご子孫ですね」


 ナタリーが感心していると、続けてフィオナもリズを褒める。


「リズちゃんは、まだ幼いのに頑張っていたものね。そこが女神様に認められたのでしょう」


「それでは、さっそくアルトンの教会に電報を送って、彼女にこの大教会に来て貰って授与式を執り行うとしましょう。今日電報を送れば、オークが進行して来るまでには間に合うでしょう。まあ、余裕はありませんが……」


「ナタリー、それが神託には続きがあるの。女神様はリズちゃんを呼び寄せるのではなく、私達に急いでアルトンの教会まで運んで、そこで授与式をしなさいって言っているの」


「なるほど、確かにこちらから持っていけば受け渡しに掛かる日数が3日で済んで、オーク戦までに余裕が出来ますね……」


 ナタリーは、そこまで言うと過去の出来事が頭をよぎり、大司教に釘を差しておくことにした。


「フィオナ様。今度は勝手に行くのは、やめてくださいよ?」

「わかっているわ、ナタリー…。私もアナタの小言を、1時間も聞かされたくないから……」


 フィオナはあの時の事を思い出して、明らかにテンションが下がっている。


「それにしても女神様も、はじめからアルトンの教会に女神武器を送ってくだされば、異例ではありますが先にリズちゃんに武器を受け取ってもらって、オーク戦が終わってから改めて授与式という日程にすれば、余裕のある行動がとれたのですが……」


 その発言を天界で聞いていたフェミニースは、確かにそのほうが良かったという顔になっていた。


「私としたことが、授与式に拘りすぎていたわ……。確かにアルトンの教会に送っておけばよかったわね……」


(お姉様、ごめんなさい。私は気付いていました…でも、ウキウキで転送するお姉様を見ていると、言えなかったのです……。更に言うなら、以前のように直接渡しに行ったほうが良かったと思います……)


 そして、その彼女の後悔の発言を聞いたミトゥースは、心の中でそう思いながら更に“困った顔のお姉様も素敵”と尊敬する上司の表情に一喜一憂する。


 ナタリーの発言を聞いたフィオナは、ここぞとばかりにナタリーに対して説教を始めた。


「ナタリーはまだまだですね~。これは女神様が私達にお与えになった試練なのです。そんな心持ちだから、未だに私の補佐役止まりなのですよ~」


 それを聞いたナタリーは、ポンコツ大司教が自分の普段の行いを棚に上げて、マウントを取ってきた事に少しイラッとしてこう言い返す。


「そうですね、フィオナ様は普段から『無駄』な事がお好きですもんね。そのおかげで私がいつも後で調整しなければならないですけどね…」


「はうぅ!?」


 フィオナはナタリーの棘のある言葉でチクリと刺されて、ダメージを負いながらすぐさま反論しようと試みる。


「えーと、ですね…。ナタリー、いつ私が無駄な…… あうぅぅ……」


 だが、彼女の言葉に思い当たることが多すぎて反論できなかった。

 ちなみにナタリーが、フィオナの補佐役止まりなのはフィオナを補佐したいという彼女の意志であり、恐らく彼女がいなければこの大教会の運営はすぐさま滞るであろう。


 落ち込むポンコツ大主教を横目に、ナタリーは行動予定と段取りを組み始める。


「まずは、アルトンの教会に連絡して、馬車と護衛…あと宿の手配をして……」


 彼女はそう独り言を呟きながら、聖堂を出て行く前にフィオナにこう指示を出す。


「フィオナ様、明日の早朝に出発となるので、今日の内に旅の支度をしておいてください。あと、今夜はいつもより早く寝ることいいですね?」


 そう言い残すと、彼女は忙しそうに聖堂から出て行った。


 同時刻―

 もう1人のダメなお姉さん紫音が、年下ちゃん達の会話している姿を見て、“心がぴょんぴょんするわ~”となっていた所に、ソフィー達が合流してくる。


「迷子の子、見つかったようね」

「よかったですね」


 合流した二人に気付いたクロエは、彼女達に感謝の言葉を述べた。


「ソフィーお姉さんとエレナお姉さんも、アンネを探すのを手伝ってくれてありがとう」


 そして、クロエは名残惜しそうに別れ際の言葉を切り出す。


「買い出しを頼まれているから、私達そろそろ行くね。今日は本当にありがとうございました」


「ありがとうなの~」

「クロエちゃん、アンネちゃん。また、今度会おうッス」


「うん、また今度ね」

「またなの~」


 二人は手を振るとそのまま市場の方に歩き出し、暫く歩いて振り返るともう一度リズ達に手を振って、そしてそのまま人混みに紛れて姿を消す。


 リズは振り返した手を名残惜しそうに下ろすと、同じく名残惜しそうに隣に立つミリアにこう言った。


「ミリアちゃん、私以外の初めてのお友達ができたッスね」

「酷いよ…、リズちゃん…」


 ミリアがリズに反論しようとすると、紫音が二人の会話に割り込んでくる。


「そうだよ、リズちゃん。だって、私がミリアちゃんのお友達2号だからね!」


 紫音がドヤ顔でそう言うと、ミリアは思わぬことを言ってきた。


「シオンさんは…、お友達じゃないです…」

「ガーーーン」


 紫音がミリアの言葉にショックを受けていると、ミリアが恥ずかしそうにこう言葉を続ける。


「シオンさんは、私の憧れのお姉さんです」

「ミリアちゃんは、いつもなんて可愛いことを言ってくれるの! お姉さんは嬉しいよ!」


 紫音は感極まって、可愛いミリアにいつものように抱きつく。


「じゃあ、お昼少し越えたけど、お昼ご飯にしましょうよ」


 ソフィーが昼食の提案をすると、リズがツッコミを入れる。


「ソフィーお姉さん、ツンデレキャラとツッコミキャラに腹ペコキャラを追加ッスか? どこまで貪欲なんッスか!?」


 リズのツッコミにソフィーが、ツッコミキャラの真髄を見せるが如くツッコミ返す。


「誰がツンデレキャラよ! ジト目と毒舌と語尾がッスとカードゲーム好きと、誤魔化す時にあざとく可愛さを振りまくとかアナタのほうが、キャラ盛りすぎでしょうが!」


「カードゲーム好きまで言うなら、ツンデレお姉さんだってヒンヌー属性に年上お姉さん好きまで持っているじゃないッスか! キャラが渋滞しそうになっているじゃないッスか!」


「だれが、ヒンヌーよ! あとお姉さまは、素敵だから仕方ないじゃない! アナタだってシオン・アマカワの事少しは憧れているんじゃないの?!」


「いえ、まったく……。あんな半分ダメなお姉さんのシオンさんに憧れるのは、世間知らずなメルヘン少女のミリアちゃんぐらいッス!」


「「リズちゃん、酷い!!」」


 お約束どおりに、ソフィーとリズの言い争いの流れ弾に当たった紫音とミリアが、ショックの声を上げた所で今回はお開きとさせていただきます。

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