174話 迷子のオコジョちゃん



「じゃあ、そのクロエお姉ちゃんが、ここに戻ってくるまで私達も一緒にいるね」

「わ~い、ありがとうなの~」


 ミリアがそう言うと、アンネは嬉しそうに答えた。

 リズが人見知りのミリアが積極的に、アンネに関わるのを不思議に思い尋ねる。


「珍しいッスね? ミリアちゃんが他人にこんなに積極的に、関わろうとするなんて…」


 ミリアは以前山にキャンプに行った時に、紫音に言われた事を思い出しながらリズに答えた。


「シオンさんが言っていたの…。私がお姉さんになった時に自分がしてもらった時と同じように歳下を助けてあげればいいって…。だから、今度は私が年下のアンネちゃんの力になってあげたいの…」


「なるほど……。シオンさんも、たまにはお姉さんらしい良い事を言うッス」


 リズは素直に紫音の台詞に感心する。

 アンネにまだ自分達の名前を教えていないことに気付いて、リズは自己紹介を始めた。


「そうだ、自己紹介するッス。私はリズ、よろしくッス」

「私はミリアだよ。よろしくね、アンネちゃん。そして、この子はケットさん」

「ナー」


 自己紹介を終えると、アンネが嬉しそうに二人と一匹にこう言ってくる。


「ミリアおねちゃん、リズおねえちゃん、ケットさん、よろしくなの~」


 アンネが二人をお姉ちゃんと呼ぶと、ミリアとリズは初めて年下にお姉ちゃんと呼ばれたことに少し感動してしまう。


「シオンさんが、私達にお姉さんって呼ばれて喜んでいるのが、少し解った気がするッス」

「少し、嬉しいね…」


 そして、二人は笑顔でこう言いながら、喜びを噛み締める。


 20分ぐらいおもちゃ屋の前で待っていた三人だったが、クロエが一向に現れないのでリズは高い所に登ってイーグルアイで探してみようと思い、アンネにクロエの特徴を尋ねることにした。


「ところでアンネちゃん。そのクロエお姉ちゃんさんは、どんな人ッスか? これから探してみようと思うので、見つける為の参考に教えて欲しいッス」


 リズの質問にアンネは無邪気に答え始める。


「えーとね~、クロエお姉ちゃんはね、14才なの~。亜麻色の髪と緑の瞳で~、黒いコートを着ているの~。それでねぇ、『闇の炎に抱かれて』とかぁ、『この眼は闇が…よく見える…』とか言っているの~」


 クロエは知らない所で、自分が厨ニ台詞を言っていることを広められてしまった。

 リズはアンネの話を聞くと、情報を纏めてみる。


「私達と同い年なんッスね。では、今度からクロエちゃんって呼ぶッス。それと亜麻色の髪と緑の瞳、黒いコートを着ていてる。あと『夜目が利く』と……。それで、他には何か無いッスか?」


 この世界では厨ニという概念がまだ確立されていないので、リズには認識できなかったので、『闇がよく見える』を暗闇がよく見えると認識し、『闇の炎に抱かれて』は意味がわからないのでスルーしておくことにした。


 アンネは更にクロエの事を思い出して、リズ達にその事を聞かせる。


「あとはね~、このウィンドウに飾ってあるお人形が好きなの~」


 アンネはおもちゃ屋のショーウィンドウを指差すと、そこにはリアルな魔物やカッコいいプレートアーマーを装着した騎士のフィギュアが飾られていた。


(この怖い人形が好きな女の子が、リズちゃん以外に居たんだ……)



「クロエちゃんもフィギュアが好きッスか!? 私も好きッス! クロエちゃんとは話が合いそうッス」


 その話を聞いたミリアが、そう思っているとリズは嬉しそうにこう言って、クロエとの出会いを楽しみにしている。


「アンネはねぇ、縫いぐるみのほうが好きなの~」


 アンネはそう言って、手に抱えていたオコジョの縫いぐるみを満面の笑顔で見せてきた。


「私もね、縫いぐるみのほうが好きだよ」

「ミリアお姉ちゃんは~、アンネと同じなの~」


 二人はオコジョの縫いぐるみを見て、嬉しそうにしている。


「では、私はこれから高い所に登って、クロエちゃんを探してみるッス」


 リズは、器用におもちゃ屋の近くに生えている背の高い木に登り樹頭からイーグルアイで辺りの捜索を開始すると、大通りを黒髪の少女と一緒に歩くアンネに聞いた特徴と一致する黒いコートを着た少女を発見した。


「クロエちゃんを発見したッス。でも、年下好きそうな黒髪の女の人と一緒にいるッス! 上手いこと口車に乗せられて一緒にいるかも知れないッス!」


「クロエお姉ちゃん、大丈夫なの~?」

「はわわわわ……、大変だよ……」


 ミリアとアンネがリズの報告を聞いて、不安にしていると彼女から追加の報告が入る。


「あっ、よく見たらシオンさんだったッス」

「リズちゃん!」


 ミリアは、リズがわざと紫音だと言わなかったことに対して怒るが、木を降りてきたリズはこう言ってきた。


「でも、あながち間違えたことは、言ってないと思うッス」


 そんな事を言ってしまったのは、彼女自身も自覚していない自分達以外にも、年下女の子に優しくする紫音への苛立ちだったのかも知れない。


 それを聞いたミリアは紫音の弁護をする。


「そんな言い方は駄目だよ、リズちゃん。シオンさんは優しいから、アンネちゃんを探して困っていたクロエちゃんに声を掛けたんだよ」


「まあ、そうとは思うッスが……。では、さっそく紫音さんに、おもちゃ屋の前で待っていると連絡するッス」


 リズは少し不機嫌な感じでそう答える。そして、栞で紫音に今までの経緯とアンネと一緒におもちゃ屋の前で待機している事を連絡すると、暫くして二人がやってきた。


「クロエおねえちゃん、こっちなの~」


 紫音と一緒に近寄ってくるクロエを見たアンネは、手を振りながら彼女に向かって呼びかける。それに気付いたクロエは、駆け寄ってきてアンネの前に立つと説教を始めた。


「アンネ、探したんだよ? 勝手に動いたら駄目だよ! 迷子になっちゃうでしょう?」


 その説教を受けたアンネは、少しムッとした顔してクロエに言い返す。


「迷子になっていたのは、クロエお姉ちゃんなの! アンネはこのおもちゃ屋さんから動いてないの~」


「えっ!? そうなの?」

「店の中にいたみたいッス」


 そんなアンネを援護するように、リズがクロエに説明する。


「アナタ達が、リズちゃんとミリアちゃんだね。シオンお姉さんから話は聞いたよ。アンネの面倒を見てくれてありがとうね。改めまして、私はクロエ! 二人共、よろしくね」


 クロエはリズとミリアにアンネが世話になったお礼をすると、自己紹介をして二人と握手した。


「ところで、アンネちゃんから聞いたッスけど、クロエちゃんもフィギュアが好きなんッスか?」


 リズが同士を得られるかもという期待の眼差しで、クロエに質問する。


「“クロエちゃんも“ってことは、リズちゃんも好きなの?!」


 彼女もリズが同士だと解ると、目を輝かせてフィギュアの話をリズと始めた。

 フィギュア好き二人がその話で盛り上がっているその横で、ミリアとアンネが縫いぐるみの話をしている。


「今日はいい日だな~。胸が大きく見える服は買えるし、年下ちゃん達が仲良く楽しそうにお話している姿が見れるし……」


 その年下達が趣味の話をしている姿を見て、紫音はそう呟きながら心の中では……


(私も混ざろうかな……。いや、ダメだよ私! レイチェルさんも言っていたじゃない、キャッキャウフフは混ざるのではなく、見て楽しむのが淑女のマナーだって! でも、混ざりたい……)


 そのような葛藤を続けながら、年下ちゃん達を暖かく見守っていた。

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