173話 黒き地平線
(この黒髪のお姉さん、見ず知らずの私を助けてくれるんだ……)
クロエがそう思いながら、紫音を見ていると冒険者の1人が対峙している黒髪少女の正体に気付く。
「くっ、黒髪ポニーに宝玉の付いたカタナを持った剣士……。こいつもしかして、シオン・テンカワか!?」
「シオン・テンカワ!? あの今話題の獣人軍の四天王を倒した超大型新人、その実力は『四騎将』や、あの『王国騎士団の双剣』にも匹敵するかもという……」
「付いた二つ名が『
その二つ名を聞いた紫音は、黙って構えた刀にオーラを溜めた。
刀に溜まったオーラの量は素人が見ても、当たれば只では済まない程強力に見える。
それを見た三人の冒険者は「おぼえてろよ~!!」と、これまたお約束の捨て台詞を吐いて走り去っていった。
紫音は刀のオーラを開放して、鞘に収めるとクロエに話しかける。
「大丈夫だった?」
紫音のその問いに、クロエは目を輝かせてこう答えた。
「ありがとうお姉さん! ところで、私現実で二つ名を呼ばれている人を始めてみたよ! 二つ名が付いているなんて、お姉さんカッコイイね!」
厨ニのクロエには二つ名は大好物であり、それが付いている紫音が羨ましくもあり、カッコよく見えたのだ。
「あっ、ありがとう……」
紫音は、いつの間にか付けられていたこの二つ名は正直嫌だったのだが、折角年下ちゃんが褒めてくれているので、表面的には喜んでいる事にしておく。
「ところで…、えーと…」
紫音はこの年下の少女の名前を聞いていなかったので、そこで会話に詰まるとクロエはそれに気付いて自己紹介する。
「私の名はクロエだよ。お姉さんはシオン・テンカワさんだったよね?」
「えっ…、うん。よろしくね、クロエちゃん」
紫音は偽名で呼ばれたので、一瞬戸惑ったがすぐさま肯定の返事をした。
(このお姉さん、真悠子さんが言っていたシオン・アマカワって人と名前が似ているけど別人だよね? 真悠子さんに聞いた黒髪のポニーテールまでは合っているけど、名前も違うし何よりヒンヌーだって聞いていたけど、このお姉さんはヒンヌーじゃなさそうだし……)
クロエは、紫音が着ている服の胸元に付いたフリルによるかさ増しにまんまと騙されて、サイズを誤認する。
「こちらも自己紹介するね。私がシオンで、この見るからにツンデレなのがソフィーちゃん。そして、こっちがエレナさん」
「誰がツンデレよ!! コホン…。ソフィーよ、よろしくね」
「エレナです。よろしくね、クロエちゃん」
一同が自己紹介を済ませると、ソフィーがクロエに話しかける。
「ところで、人を探しているって言ってなかったかしら?」
「そうなんです! 私と一緒に街に買い出しに来ていた11歳の妹みたいな子が、いつの間にか居なくなっていて、それで探していたんです!」
「それは、大変だね! 早くその幼気な少女を確保…、いや、保護しないと!!」
紫音は本音が出そうになった所を、ギリギリで止めて体面を何とか保つ。
「クロエちゃん、その子の名前と容姿を教えて下さい」
エレナがクロエに、迷子になった少女の情報を聞き出す。
「名前はアンネで、髪はプラチナブロンドで青色の目で、オコジョのぬいぐるみを持っているよ」
「じゃあ、私とクロエちゃんがアッチを探すから、ソフィーちゃんとエレナさんは向こうを探してください」
紫音がアンネの特徴を聞いて、ソフィーとエレナに指示を出すと、二人は二つ返事でその指示に従う。
「お姉さん達、一緒に探してくれるの?」
クロエのその言葉を聞いた紫音達はこう言い返す。
「困った時はお互い様ですから」
「そんな小さな子が、迷子になっているって聞いたら、黙って見てられないわね」
「勿論だよ! さあ、クロエちゃんはおねーさんと一緒に向こうに探しに行こうね!」
「ありがとう、お姉さん達!」
こうして紫音達は二手に分かれて、アンネを捜索することになった。
(こっちの世界は、この前のお姉さん達といい、良い人が多いな……。今度から戦いにくいな……)
クロエは紫音と捜索しながら、この世界の人々の優しさに触れて、心の中に戦いへの迷いを芽生えさせる。
紫音達がクロエと出会った少し前、気分転換に街に二人で遊びに来ていたリズとミリアは、リズの要望でカードゲームの売っているおもちゃ屋に来ていた。
勿論カードゲーム購入のためである。
「また、レアカードが出なかったッス…。仕方ない、もう1パック行くッス!」
「リズちゃん…、お金大丈夫なの…?」
「…………」
リズがミリアの質問に答えるまで少しの沈黙が流れた
そして、彼女はその沈黙を打ち破る言葉を口にする。
「大丈夫ッス。要塞防衛戦は矢が貰えるから!!」
「それって…、矢玉代を使うってことだよね!?」
その言葉を聞いたミリアが必死に (ノ>ω<)ノ( ゚д゚)ノ□ こんな感じで、カードを購入しようとするリズを止める。
ミリアに購入を止められたリズは、仕方なく追加のカード購入を諦め店から出ると、店のショーウィンドウの前に入店する時には居なかった、11歳ぐらいのプラチナブロンドの髪をした少女が腕にオコジョのぬいぐるみを抱いて、今にも泣きそうな感じで立っていた。
「どうしたッスか?」
リズはその泣きそうな少女が小さい時のミリアに重なって、つい声を掛けてしまう。
「ここにいたクロエお姉ちゃんがね、アンネがお店の中のぬいぐるみを見ていたらいなくなっていたの~」
どうやら、アンネはクロエがこのショーウィンドウでフィギュアに夢中になっている間に、自分は店の中のぬいぐるみを見ていたようだ。
そして、我に返ったクロエはアンネが店の中に入ったとは知らずに、迷子になったと思って他の場所に探しにいってしまう。その間にリズとミリアが店に入り、入れ違いで店の中から出てきたアンネはクロエがいたはずのこの場所に戻ってきて、彼女がいないのでどうしたら良いか解らずに、ここで彼女が戻ってくるのを待つことにしたのであった。
「お家はどこかわかるかな?」
ミリアがアンネに尋ねると、彼女は首を横に振ってこう答える。
「アンネはね、クロエお姉ちゃんとこの街に昨日来たばかりなの~。だからね、道がわからないからここでクロエお姉ちゃんを待っているの~」
「なるほど、確かに迷子になった時はむやみに動かずに、その場で待っている方がいいって聞くッス。アンネちゃんはお利口さんッス」
「えへへ~」
リズに褒められて嬉しそうに微笑むアンネ。
「ミリアちゃんなら、テンパってすぐにその場から離れて、更に迷子になりそうッスね。でも、ケットさんがいるから大丈夫ッスね」
「酷いよ、リズちゃん。私だって、もう少し冷静に動けるよ…」
ミリアはリズにそう自己弁護してみたが、正直そうなるかもしれないと心の中で思った。
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