172話 数奇な出会い
前回の大雨がもたらしたものは、哀しい格差社会と冒険者には必要のない衣服購入とその他でした。
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紫音達が買い物を楽しんでいた頃、天界ではフェミニースがミトゥースの元を訪れていた。
「ミトゥース、以前より一回り大きくなっているみたいだけど、大丈夫なの?」
「はい、お姉様! ミトゥトレットで試した周囲の魔力オーラを吸収する新型の女神の宝玉、ミトゥデルードで試した魔力オーラ増幅装置の女神の水晶、そして、新型の大容量魔力蓄積器と色々と詰め込んだら大きくなりまして……。でも大丈夫です、重さもさほど変わっていませんし、何よりその分強くなっていますから」
フェミニースは出迎えたミトゥースと、彼女の制作室に移動しながら話を続ける。
「当たり前です、弱くなっていては困ります」
「しかし、設計の変更があったなら事前に報告しなさい。教えたはずよ、仕事におけるホウレンソウはちゃんとしなさいと……」
「そう言われても、完成を3日も早くするように言われたら、そんな暇ないですよ……。おかげで私はここ三日間、世界の監視とあの子の製造で大忙しだったんですよ…」
「それは、私ではなく魔王に言ってちょうだい。まさかあんな手で侵攻を早めるとは思わなかったのだから……」
そして、二人は制作台の前に辿り着く。
二人の目の前の制作台には、布をかぶった物体が置かれている。
「これね?」
「はい」
フェミニースがその布を取ると、そこには一回り大きくなった全身白色で、一部に黒い模様の入った玉子型の梟が鎮座していた。
その新しいミトゥルヴァを手に持つとミトゥースに、フェミニースはこの玉子型の梟の名前を尋ねる。
「いいできね、ミトゥース。これならリズも、三義姉妹にも引けを取らない活躍ができるでしょう。この子の名前はもう決めているの?」
「はい。新しいミトゥルヴァなので、ニューミトゥルヴァと名付けようと思っています」
ネーミングセンスの無いミトゥースが、名付けた名前なので相変わらず捻りがない。
「わかりやすくて、いい名前ね。ニューミトゥルヴァ、リズと紫音達を助けてあげてね」
だが、フェミニースは気に入ったようであった。
そして、彼女はニューミトゥルヴァを持ったままミトゥースを連れて、自分の職場に移動する。
「さっそくフィオナに送って、リズに渡すように伝えましょう」
彼女がニューミトゥルヴァを転送台に置くと、できる部下ミトゥースが布を被せた。
「布を被っている方が、リズにはサプライズになると思うので」
「そうね。さすがはミトゥース、気が利きますね」
「そんあことは~、ないれす~」
ミトゥースが敬愛する上司に褒められて、浮かれている間にフェミニースはフィオナの元に神託と共に転送する。
結局、胸を大きく見せる服を仲良く一着ずつお買い上げした紫音とソフィー。
新しい服を買うと着用して外を歩きたくなるのが人の性であり、二人はさっそく着用し胸当てを手に持って街を歩く。
「なんだろう、この服のお陰か街の景色が違って見えるよ」
「そうね、いつもより世界が輝いて見えるわ」
二人がウッキウキで歩いていると、目の前で何か騒ぎが起きていることに気付く。
「なんだろう?」
紫音達は何があったのか近寄ってみてみると、14歳ぐらいの亜麻色の髪の黒いコートを着た少女が、ガラの悪い3人の冒険者に絡まれていた。
絡まれていた少女はクロエで、彼女はアンネと共に隠れ家で暇を持て余していた所を、それを見かねたエマの指示で、来たるべき修羅場に必要になる栄養ドリンクの購入を頼まれて、アンネを連れて観光を兼ねて街に買い出しに来ていた。
途中まで、アンネが迷子にならないように手を繋いでいたが、クロエがおもちゃ屋のショーウィンドウに飾ってあったフィギュアを見るのに夢中なって、無意識に手を離してしまう。
そして、気付いた時にはアンネはどこかに居なくなっていた。
彼女はアンネを探すのに夢中で前方をよく見ていなかったため、冒険者にぶつかってしまい因縁を付けられてしまったのだ。
「ちゃんと謝ったじゃない! 私は今人を探していて急いでいるんだから、いいかげんにしてよ!」
クロエが3人に抗議すると、彼らは大声で恫喝を始めた。
「お嬢ちゃん、ごめんで済んだら警吏はいらねえんだよ! 大人の世界には、誠意の見せ方ってのがあるんだよ!!」
「取り敢えず、持っている金を全部出しな!!」
「駄目だよ! お使いを頼まれているんだから、お金は出せないよ!」
そして、クロエがそう言うと、ガラの悪い冒険者は指をボキボキと鳴らしながら、このようなお約束の脅し文句を言ってくる。
「痛い目に遭う前に、さっさとだしな!」
「これも、世の中の厳しさを教わる授業料だよ!」
(3人なら、ケルベロス装備なしでもやれるな……)
クロエの緑色の瞳が、冷徹な戦闘モードで相手の隙を探し始めた時、紫音が冒険者3人に対して声をあげた。
「ちょっと待ったーー!!」
紫音は手に持っていた胸当てをエレナに預けると、冒険者達の間合いギリギリまで近づく。
「それ以上、そんな可愛い年下ちゃんを虐めることは私が許さない! どうしてもと言うなら、私が相手になるわ!」
そして、こう言うと刀に手を掛けて鯉口を切る。
この世界に来た時の紫音なら、ガラの悪い3人相手ならもう少し穏便な態度で接したであろう。だが、オークやトロールといった強敵と戦ってきた今の彼女には、最早気後れするような相手ではない。何より自分の後ろには、頼もしいツンデレがいるので心強い。
「テメエには関係ないだろうが!?」
「そもそも、ぶつかってきたこのガキが悪いんだろうが!!」
冒険者達は、突然話に割り込んできた紫音にそう脅しを込めた暴言を吐いてきたが、年下ちゃんを虐めていることに憤慨している今の彼女には効果は薄かった。
なので、紫音は冒険者達に強気な態度でこう言い返す。
「問答無用! 年下ちゃんを虐めるアナタ達のほうが、どう見たって悪いに決まっているよ!!」
冷静に考えるとかなり無茶苦茶な反論であるが、紫音に引く気はない。
「おもしれえ、やってやるよ!」
冒険者3人は武器を抜くと、紫音も刀を抜いて八相に構える。
「シオンさん、峰打ちしないんですか?」
エレナの質問に紫音は横目でこう答えた。
「我が流派の理念には、こんな年下ちゃんを虐める悪党どもにする峰打ちはないんです。手足の腱を斬ったり、指を切り落としたりして戦闘能力と気勢を奪うんです!」
勿論そんな理念は天河天狗流にはないが、力が弱い人の為に創られた剣術である為に、峰打ちより手足の腱を斬ったり指を切り落としたりして、確実に相手の戦闘能力を奪う戦法を採用している。
そのため、紫音が峰打ちを行なってきたのは彼女がヘタレで、他人を斬るのが嫌だったからであるが、年下ちゃんを虐める者には容赦しないのだ。
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