171話 大雨がもたらすもの
ずぶ濡れのノーマにリーベは、家に入って体を乾かして行くことを勧めたが、彼女は直様リーベの漫画掲載の調整や広告の段取りをするために出版社に急いで戻っていった。
隠れ家から一部始終を見ていたエマは、戻ってきたリーベに問いかける。
「よかったんですか? 気持ちはわかりますが……。作戦中に漫画なんて描けるんですか?」
「…………」
しばしの沈黙の後に、リーベはこう答える… いや、相談した。
「エマ、どうしよう?」
「どうしようって……。今すぐ魔王様に正直に言って、指示を仰ぐしか無いと思いますよ? こういう事は、早めに報告しないと後になればなるほど、どうしようもなくなりますからね……」
こうして、リーベは魔王に報告して、指示を仰ぐことにする。
一方、紫音達は午後イチで無事牧場に現れる魔物退治を終わらせた。
そして、早く街に帰ろうというソフィーの意見を”のんびり牧場でお昼ごはんを食べたい”という呑気な意見からゴネた上に却下する。
そして、暖かい日差しと草原に吹くそよ風を味わい、エレナの作ったお昼ごはんを食べながらハイキング気分を楽しんでいた。
「たまにはこんなゆっくりとした時間もいいね……」
「そうね……。草原を吹く風が気持ちいいわ……」
紫音達は草原に寝そべって、流れる雲を見ながらゆったりとした時間を過ごす。
そして、皆さんお察しのようにのんびりしていたことが仇となり、屋敷に帰る途中で大雨にあたって屋敷についた時にはびしょ濡れになっていた。
「何が”たまにはこんなゆっくりとした時間もいいね……“よ! おかげでびしょ濡れじゃない!!」
「ソフィーちゃんだって、”草原を吹く風が気持ちいいわ……“って、言ってたじゃない!」
フラット姉妹が屋敷の玄関で口喧嘩を始めると、リズがメイドさんと一緒にタオルを持ってきて彼女達に渡していく。
「びしょ濡れになった装備は、ここでお脱ぎください。そうしないと屋敷中が濡れてしまいますので」
紫音達はメイドさんの指示通りに、玄関で濡れた装備を脱ぐと受け取ったタオルで体を拭き始める。
そして、フラット姉妹がエレナを見ると雨で濡れた服が彼女の体に張り付いて、彼女達に格差社会を思い知らせた。
「…………」
「お二人共、あまりジロジロ見ないでください……。同性とはいえ、恥ずかしいです……」
エレナが二人の視線に気付くと、恥ずかしがりながらタオルで隠す。
「あっ、すみませんエレナさんー。私達には無いモノなので、見てはいけないものだとは思いませんでしたー」
「エレナさんはいいですねー、隠すだけのものがあってー」
フラット姉妹は、この世の理不尽に遠い目をしながら、やや八つ当たり気味にエレナにそう言った。
「ミリアちゃんは、今のままでいてね」
「?」
紫音は念の為にミリアを見ると、自分より小さかったので安堵して彼女にこう言ったが、ミリアは何を言われているのか理解していない感じでいる。
「甘いわね、ミレーヌ様を見なさいよ。その姪なんだから、後数年で置いていかれるわよ……」
紫音の発言を聞いていたソフィーがそう呟いた。
「ミリアちゃん、お姉さんを置いていかないで~!」
「??」
ミリアが再び紫音の発言に困惑してしまう。
「ミリアちゃんに、変なことを教えるんじゃない!」
「すいません……、ギブ…、ギブ…」
すると、丁度帰ってきたミレーヌが、そう言ながら紫音にアイアンクローをしてきたので、紫音は謝罪しながらギブアップを訴える。
その頃―
魔王に報告したリーベは、その返信を受けていた。
「話はわかったわ。アナタは漫画を描くことに専念しなさい。明日クロエをそちらに行かせるから、作戦はエマとクロエに任せなさい」
「わかりました。迷惑をかけて申し訳ありません」
「いいのよ。任務のことは気にせずに、アナタは締切りまでに漫画を完成させるのよ」
そのようなやり取りをした後に、リーベが申し訳無さそうにエマに謝る。
「ごめんなさいね、エマ。アナタにも迷惑をかけて……」
「後は私とクロエに任せてください」
だが、エマはそう言って、リーベに漫画に専念するように促した。
翌日の昼頃、クロエとアンネが隠れ家にやってくる。
「クロエ、よく来たわね。アンネも一緒に来たの?」
向かえたエマがクロエに質問すると、彼女はこう答えた。
「魔王様が明日自分も城を離れるから、そうなるとアンネ1人になるから一緒に行きなさ
いって。ところでエマ姉、真悠子お姉さんは?」
「アンネも真悠子おねえさんに会いたいの~」
両手でオコジョのぬいぐるみを抱えたアンネも、リーベに会いたがる。
「真悠子さんは今漫画のストーリーを考えていて、忙しいから一段落ついてからね」
だが、エマにそう諭されると、アンネは少しがっかりした表情をする。
「そうだ、アナタ達お腹すいてない? お菓子食べる?」
「お菓子食べたいの~」
それを見たエマが、クロエとアンネにお菓子を勧めると、お菓子と聞いた途端にアンネは満面の笑みを浮かべて嬉しそうにお菓子を食べ始めた。
その頃―
紫音達は、街から半日掛けて来た森で、薬草採取の邪魔をする魔物を倒していた。
そして、この魔物も難なく倒した紫音達は森林浴がしたいと再びゴネるが、今回はソフィーに却下され大人しく帰ることになる。
翌日の朝、3日連続で依頼をこなした紫音達は、今日は休息日とすることにして街に気晴らしに出かけることになった。
リズもミリアに誘われて、今日は鍛錬を昼からにして、二人で街に出かけることにする。
年上ズは紫音の買い物につきあわされて、服屋に来ていた。
「見てみて、ソフィーちゃん。胸元にフリルが着いていて、かさ増ししてくれるんだよ。 何がとは言わないけどね!」
紫音はそう言って、試着した服を二人に見せる。
「ココ最近こなした依頼の報酬で、買おうと思ってね」
紫音は依頼の報酬でお金に余裕が出来たために、昨日夜中まで貯金に回すか悩んだが、胸が大きく見せる服の魅力には勝てずに購入を決意したのであった。
先日の雨で感じた格差社会の件がなければ、我慢できたかも知れない。
「そんなの買うために、私達を連れてきたの?」
「ソフィーちゃんも興味あるでしょう?」
「わっ、私は別に……。でも、アナタがどうしてもって言うなら、試着ぐらいしてもいいんだからね!」
どうやら、ソフィーも先日の件で思うところがあるらしく、ツンデレ風肯定発言をおこなう。
「チェックや縦のボーダー柄の服を着用するのもいいと思いますよ」
すると、店員が何がとは言わないが慎ましやかな二人に、何がとは言わないが慎ましやかなモノを大きく見せる服を勧めてくれた。
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