140話 援軍到着





 前回のあらすじ


 突如森の中から現れた黒いスーツを着た人物、自称『ネゴシエーター』ロール・スイスはその美味しそうなスイーツの様な名前とは裏腹に、アイアンゴーレムに拳による交渉を始め激しい説得の結果、見事アイアンゴーレムにこの世界から退去する事を受け入れさせた。


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 左側でアイアンゴーレム同士の戦いが行われていた頃、右側では紫音とレイチェルが交代でデナリの注意を引いて、ミリアが最高位魔法で耐久値を削る作戦を行っていた。


 紫音がレイチェルと交代して休憩していると、左側から金属同士の衝突音が聞こえてきて、彼女はその轟音に驚いて音の聞こえてきた左側の戦場を見ると、黒い金属光沢を放つ造形の凝ったゴーレムが、アイアンゴーレムと殴り合っている。



「アキちゃんが戦いに来てくれたんだ……。ワタシも頑張らないと!」


 紫音はその黒いゴーレムを見て、アキのゴーレムだと確信して気合を入れ直す。


 レイチェルと交代した紫音は、デナリの間合いギリギリまで近づくと、来る前にオーラを溜めておいた刀を鞘に納刀して、居合の構えでデナリを迎え撃つ。

 デナリの攻撃を回避した紫音はすぐさま居合の構えに戻り、居合斬りオーラウェイブを放った。


 居合斬りオーラウェイブはデナリの膝辺りに命中し、それなりのダメージを与えたが、続けて放たれるはずのミリアの魔法が発動しない。


 紫音はどうしたのかと思って、ミリアの方を見ると彼女は涙目になりながら高級魔法回復薬を頑張って飲んでいるが、デナリに魔法を撃ち初めて既に三本目であるために、なかなか飲み干せずにいた。


「もう飲めないよ……」


 三本目の魔法回復薬の前に、ミリアの心はもう既に折れかけている。


「レイチェルさん! ミリアちゃんはもう限界です! こうなったら、女神武器の特殊能力を使うしかありません!」


 紫音はこれ以上涙目のミリアを見てはいられず、レイチェルにそう言って特殊能力を使う為に女神武器を構えた。


「駄目だ、シオン君!」


 レイチェルは紫音の腕を掴んで、構えを解かさせて能力発動を阻止する。


「でも、このままでは……」


 紫音の言葉にレイチェルは悩んだ、トロールの王との戦いの為に紫音の力は温存しておきたいが、彼女の言う通りミリアは頼れそうになく、かといって自分の女神武器の特殊能力は接近しないと威力は発揮しない。


 まだまだ、元気なデナリに近づくスピードは自分にはなく、他の後衛はまだ復帰してこないし、他の前衛職で近づけそうな者がいない事も事実である。


 この状況を打開するには、紫音の言う通り彼女しかいない……


「仕方ない、シオン君。君の…」


 レイチェルがそこまで言いかけた時、後方から複数の馬の近づいてくる足音が聞こえてきたので、二人がその方向を見ると遠くに複数の人馬の影がこちらに向かって、駆けてくるのが確認できた。


 馬に乗って近寄ってきたのは、スギハラ、クリス、そして”月影”所属のメンバー達で一団は二手に分かれて、デナリ、キリマンジャロ戦に向かう。


 キリマンジャロ方面の部隊を率いていたカシードは、ユーウェインに近づくと援護する事を伝える。


「援軍に来ましたよ、カムラードさん」

「どうしてここに!? オーガはどうした!?」


 そのユーウェインの質問に、カシードは説明を始めた。


「それはですね……。俺達はオーガの数を減らすために奴らの拠点に向かって進んでいたんですよ。そしたら、後方から馬を走らせて、俺達を止める人物がやってきたんですよ」


 それは、クラン”竜の牙” 団長のダーレン・ウィンターであった。


「待たれよ、スギハラ殿!」

「アンタは確か……、”竜の牙”団長のダーレン・ウィンター殿。私に何か用ですか?」


 スギハラは、ウィンターの呼び止めに馬を止めてそう聞き返した。

 ウィンターは、馬に乗ったままスギハラに用件を語りだす。


「スギハラ殿、貴殿のクランはこれから任務で、オーガの拠点に奴らの数を減らしに行くそうですね?」


「そうですが、それが何か?」

「その任務、是非とも我がクランに譲って貰いたい」


 その申し出は、トロール本拠点侵攻作戦に参加したかったスギハラ達にとって、渡りに船の申し出である。


 だが、今まで”龍の牙”は稼ぎにならないこの様な任務は受けてこなかった。

 その為スギハラは、この申し出に何か裏があるのではないかと疑って、直球で疑問を投げかけることにする。


「別に構いませんが、どうして今回受けることにしたんですか? 失礼ながら貴殿のクランは、今までこの様な任務は受けてこられなかったはずですが……?」


「スギハラ殿のおっしゃるとおり、我がクランは今まで受けてこなかった。だが、今回は少し事情がありましてな……。スギハラ殿は我がクランが、壊滅状態になった事はご存知ですかな?」


「はい、聞き及んでいます」


「実はその時の相手がオーガでしてね。本拠点のモノたちとは違いますが、オーガ共に復讐したいと私を含めて、クランメンバーの総意なのです。それが、今回の任務を譲ってもらいたいという理由です。それに人類の命運のかかった作戦に、少しは役立ちたいと思いましてね……」


 ウィンターがそこまで説明すると、”竜の牙”のメンバーが追いついてきて口々に自分達に譲るように願い出てきた。


「俺達にオーガ共をぶっ殺すのを譲ってくさい!」

「あの日から、俺達はオーガに復讐する機会を窺っていたんです!」


 メンバー達の目には、オーガに対する復讐の炎が宿っている。

 特に魔王城に捕虜として、連行された者たちの怒りの炎は激しく、オーガ絶対コロスマンと化していた。


「わかりました、そこまで言うならこの任務をお譲りします。正直我らはトロール本拠点の援軍に行きたいと思っていたので、この申し出は願ったり叶ったりだったんです」


「ありがたい、感謝する!」


 スギハラの返答にウィンターと“竜の牙”メンバーは、口々に感謝の言葉を述べる。


「壊滅して弱体化したとはいえ、数を減らす作戦ぐらいはこなしてみせるゆえ、安心していただきたい」


 ウィンターがそういった後に、団員達は堰を切ったように、オーガへの復讐心を言葉にして吐き出していく。


「よーし、あの時に恨みを晴らすぞ! ついにこのバトルアックスでオーガのケツを真っ二つにしてやれるぜ!」


「俺はこの日のために磨いてきたこの剣を、オーガのケツに突き刺してやる!」

「だったら、俺はこの極太槍を奴らのケツにぶっ刺してやるぜ!」

「じゃあ、俺はこのグレートソードをケツにぶち込んでやるぜ!」


 そして、捕虜にされてオーガに酷い目に合わされたメンバー達が、復讐に満ちた狂気の目で次々と自慢の武器を掲げて物騒なことを口走っている。


(余程オーガに酷い目にあわされたのね……。それにしても、どうしてターゲットがお尻ばかりなのかしら?)


 その様子を見ながら、クリスは心の中で同情しながらそう疑問に思っていた。


(かわいそうに、掘られたのか……)


 カシードは全てを察して、心の中で哀悼の意を表する。

 こうして、スギハラ達は”竜の牙”にオーガを任せて援軍に来たのであった。


 カシードの説明を聞いたユーウェインは彼らに指示を出す。


「なるほど、”竜の牙”が……。それなら、援護を頼む。それと、あのトロールは魔法を使ってくる! 密集せずに常に魔法に警戒するようにしてくれ!」


「魔物が魔法を!?」

「マジか……!?」


 時を同じく魔物が魔法を使うことをレイチェルから聞かされ、スギハラとクリスは驚きの声を上げていた。


 クリスはすぐさま散開指示と魔法への警戒をクランメンバーに出す。

 こうして、右側の戦況が動き出すことになる。



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