139話 地に轟く豪腕!
森の中から出てきた、自称『ネゴシエーター』を名乗ったロール・スイスがゴーレムを呼び出し、腕を胸の前でペケの字にして待っている。
「そのポーズは何なのよ!?」
ソフィーはロールのポーズにツッコミを入れるが、彼女は自分の世界に浸っているのか無視して待機を続ける自称『ネゴシエーター』。
暫くする、と森の中から7メートルぐらいの全身が鉄で構成されたゴーレムが、轟音を響かせて出てきた。
『ビッグ・フォー(巨大な4号)』と名付けられたこのゴーレムは、四番目に考えたゴーレムであり三番目のタイターン3号での反省を元に作られている。
タイターン3号は岩で出来ていたため、召喚時のMP消費量と召喚時間は少なくて済むが、耐久値と攻撃力はあまり優れていなかった。
そこでアキは一段階上の鉄で出来たアイアンゴーレムをベースとして、そこに装備を追加して召喚することにしたのだ。
そして、造形にも拘ったため召喚に時間とMPを消費するアイアンゴーレム召喚に、更に時間とMPを費やす事になってしまい開戦に遅れる結果となった。
このゴーレムの特徴といえば、全身鉄で構成されている他に、上腕に比べてかなり太くなっている前腕であろう。この前腕にはシールド装甲が取り付けられ盾としても機能し、肘にはシリンダーが内蔵され圧縮空気によってパンチ力を上げる機能を有する。
「また、凄いデザインね……。でも、とても強そうだわ!」
その全身鉄で出来た黒鉄の巨体を見たソフィーは、呆れと期待感の混じった言葉を呟いた。
ロールはエメトロッドを掲げ、ビッグ・フォーにアイアンゴーレムへの攻撃命令を出す。
「ビッグ・フォー、アクション開始!」
ロールの命令を受けたビッグ・フォーはその全身鉄による重量から、地面を揺らしながらアイアンゴーレムに向かって歩き出す。
そのビッグ・フォーを見た人間達は、新たなアイアンゴーレムが現れたと勘違いしたが、ビッグ・フォーの胸の丸い飾りに彫られているフェミニース教の<女神の聖紋>を見て、味方なのではないかと思い始める。
そして、ビッグ・フォーがアイアンゴーレムに近づくと、その太い腕で殴りかかりその考えが正しかったことが証明された。
鉄のゴーレムが殴り合うため、戦場は鉄と鉄がぶつかる轟音が響き渡り、左側でいた人間達はそのあまりにもうるさい衝突音に思わず耳を抑える。
「鼓膜が破れちゃうじゃないのよ! アナタはどうして平気なのよ!?」
ソフィーも我慢できずに耳を抑えながら、隣で平然と立っているロールを見ながらと問い質すがロールはまたしても無視した。
「ちょっと、さっきから無視して! ちゃんと私の話に答えなさいよ!」
ソフィーは2度も無視されたことに、少し腹が立ってロールの前に立ってそう問いただす。
すると、ロールはようやくソフィーが、自分に何か言っているのだと気付き返事をする。
「ああ、ごめんねソフィーちゃん。ビッグ・フォーを呼び出したときから、音がうるさくなるのは解っていたから、防音のために耳栓をつけたの、だから気付かなかったよ。と言っても、今もつけているから何を言ってるかは聞こえないけどね」
そう答えたロールの耳には、遮音性の高そうな耳栓が装着されていた。
「うるさくなるのが解っているなら、前もって私にも言っておきなさいよ!」
それを見たソフィーはロールに抗議する。
殴り合いはシールド装甲で防御できるビッグ・フォーの優位に進み、ビッグ・フォーは左腕のシールド装甲で、アイアンゴーレムのパンチを防ぐと右手でパンチを打ち込む。
「いい子にしなさい、アイアンゴーレム!」
アキはそう言って、ビッグ・フォーに連続パンチを指示すると、ビッグ・フォーはパンチを打ち込まれてよろけたアイアンゴーレムに、更にパンチを両手で連打する。
ビッグ・フォーは防御しながら隙を窺い、アイアンゴーレムの攻撃後の隙を的確に狙いパンチを繰り出す。
これは、シールド装甲のおかげで防御が行えることが大きく、自らフィギュアを作り造形術に明るいアキだからこそ、詳細なイメージをゴーレム生成中に反映させることが出来たのであった。
実はアキは中学時代からフィギュアを自作しており、その理由はBLフィギュアが欲しかった当時の彼女にとってそれは高額であり、”買えないなら、自分で作ればいいじゃない!”というシンプルな理由であった。
それから手先の器用な彼女は、紙粘土でBLフィギュアを作り出すことになる。
そして、こちらの世界に来てからは、ドラゴンやゴーレムのフィギュアを作るようになり、更に造形師としての腕をあげていった。
そうして、ビッグ・フォーはアキの逐一の命令によって、ほぼ一方的にアイアンゴーレムにダメージを与えていく。
リーベが本拠点でリバースしておらず状況に応じて命令していれば、もう少し苦戦していたかもしれない。だが、アイアンゴーレムも頑張って反撃してくる。
「あくまで駄々を捏ねるのね!」
ロールはエメトロッドに今まで以上に魔力を込め、ビッグ・フォーに命令とともに魔力を送り込むと、ビッグ・フォーの右肘に内蔵されたシリンダー内の風属性魔法スクロールが風を起こしシリンダー内に空気を充填しピストンロッドが肘から飛び出す。
「バイバイ、アイアンゴーレム!」
ビッグ・フォーは左の装甲シールドでアイアンゴーレムのパンチを放った腕を内側から外に弾いて、がら空きになったそのボディに大きく振りかぶった右のパンチを素早く撃ち込む。
強力な右のパンチはボディに当たり、その拳はアイアンゴーレムにめり込んだ。
その瞬間ピストンロッド頂点の外側に取り付けられた風属性スクロールが、突風を起こしてピストンロッドをシリンダーに押し戻す。
シリンダー内に戻ったピストンロッドは、シリンダー内部の圧縮空気を前方に押し出し、前方に放出された圧縮空気は空気の大砲となり、パンチがめり込んで脆くなったアイアンゴーレムのボディに風穴を開け、この世界初の鉄の巨人同士の戦いに決着を着けた。
アイアンゴーレムが魔石に姿を変えて、その場に落ちると人間側からその勝利に喜ぶ大きな歓声があがる。
「オー――――!」
「やったぞーー!」
左側の戦場で起きたその歓声を聞いたユーウェインは、その光景と戦場に立つ黒鉄の巨人を見て全てを理解した。
「アレは……、そうか、アキ君がやってくれたのか!」
そして、再び戦場で戦ってくれたアキに感謝した。
勝利に喜ぶ中ソフィーはロールに尋ねる。
「これほど強いゴーレムがあるなら、どうしてもっと早く出てきてくれなかったのよ。そうすれば、もっと被害が抑えられたかもしれないのに……」
「このビッグ・フォーは鉄でできているし、あのギミックを組み込んで生成するには今まで以上に時間がかかるの。私はチート主人公ではないから、残念だけどそんなタイミングよく格好良い登場はできないの……」
現にアキは陣屋を設置している頃から、カリナと森にやってきていてゴーレム生成をおこなっていた。森の中で召喚していたのは、生成に時間がかかるのが解っていて、その間に魔物に襲われないためであった。
フィーは過度な要求を求めてしまったアキに謝罪する。
「そうね……、考えなしに言ってしまって……、ごめんなさい……。」
「わかってくれればいいよ。それじゃあ、真のチートっぽい主人公、我らが紫音ちゃんの活躍を見ようじゃない」
そう言って、彼女のいる右側を見ると、丁度紫音がスギハラ、クリス、レイチェルと供にキリマンジャロをチート主人公とは思えない複数対一でフルボッコにしていた。
「うん… まあ… 知ってた……」
二人は遠い目をしながら、その光景を見て呟く。
みんなと一緒なので、活き活きと戦うダメポニーの姿を見て……
「魔王様、空はどうしてあんなにも青いのでしょうか……。」
その頃、トロール本拠点のリーベはそう言って三角座りで空を見上げて、すっかり黄昏れていた。
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