134話 反撃せよ




 前回のあらすじ


 シオン様の最大の心腹の友・金蘭の友にして、宿命のパートナー(願望)、最近出番の少ないアリシア・アースライトが前回のあらすじをおこないます。

 トロールの本拠点に攻め込んだシオン様達は、空から突如降ってきた四天王キリマンジャロによって、大混乱となってしまいました。

 シオン様が無事に戻ってきてくれるといいのですが……


 あと、わたくしは紅茶派でして、コーヒーは見た目が泥水みたいであまり好きではありません。え?! シオン様はコーヒー派なのですか!? いいですよね、コーヒー。眠気もスッキリしますし、お洒落なカフェでコーヒーを飲みながらの読書って知的に見えて素敵ですよね。



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 丸太の投擲とトロールの追撃によって、騎士団と合流した時200人いた冒険者達は左右合わせて100人程まで減っていた。


「我々はもう少し後ろに下って、大勢を立て直す。すまないが、それまで奴らの相手をアンタ達だけで頼む」


 冒険者達はそう言って、騎士団の後方に下っていく。

 騎士団達はフォーメーションを組んで追撃してくるトロール達を迎え撃つ。


 防御柵の丸太を使い切ったトロール達も、10体ずつに分かれて左右の戦場に向かう。

 右側では紫音が副官ルウェンゾリの気を引いている間に、レイチェルと他の者がその他のトロールと戦闘して数を少しずつ減らしていった。


 そして、左側ではソフィーが副官ローガンの注意を引き、エスリンと他の騎士団のメンバーがその他のトロールと激戦を繰り広げながら数を減らしていく。

 ユーウェインはキリマンジャロの気を引くためにリディアに指示を出す。


「リディア、弓で奴の注意を引いてくれ!」


「やってみますが、ハイオーラアローの火力でどこまで惹きつけられるか……。フェイタルアローなら……」


「いや、まだ何があるかわからないからな……。ハイオーラアローでやってくれ」

「わかりました」


 リディアはキリマンジャロの頭部めがけてハイオーラアローを放つ。

 ハイオーラアローは見事頭部に命中するが、キリマンジャロはその場から動かずに自分の落下で砕けた足元の岩盤の手頃なものを拾うと、リディア目掛けて投げつけてくる。


 リディアは飛んできた岩盤を回避すると、驚きながらこう言った。


「こんな攻撃の仕方をしてくるなんて!?」


 トロールが丸太を投擲したり、足元の岩盤を投げるなどの機転の利いた攻撃を行うことは、今までは無かったことであった。


(これも、リーベの指示か……)


 ユーウェインはそう考えながら、覚悟を決める。


「やはり、私が近づいて奴の気を引くしかないか……」


 キリマンジャロの周りの地面は、落下の衝撃で岩盤が割れ隆起したり陥没したりして、足場が悪くなっており回避行動に支障が出る状況となっていた。そのため、彼は近づくことを躊躇していたのだ。


「リディア、私が近づいて気を引くから援護を頼む!」


 そう言って、彼はキリマンジャロに突進していく。


 戦場の様子を本拠点の城壁から見ていたリーベは、両サイドでトロール達が少しずつ撃破されているのを見てさらなる手札を切る。


「デナリ、アンタは天河紫音がいる左側に攻め込んで!」


 リーベは薙刀を掲げて、デナリに指示を出す。


「そして、左には今日朝から作っておいたアイアンゴーレム、アンタの出番よ!」


 リーベの命令を受けたアイアンゴーレムが本拠点から出て、左の戦場に向けてゆっくりと歩いていく。


「このままでは不味いわ! あれがここに来るまでに、もっとトロールの数を減らさないと!」


 本拠点からアイアンゴーレムが出てきて、こちらに向かっていることに気付いたエスリンは、ユーウェインの許可を得ずに女神武器の使用に踏み切る。


 エスリンは女神武器・フラガソラスを天に向かって構え、「女神の祝福を我に与え給え!」

 と祈りを捧げてからフラガソラスに魔力を込めると、鍔の部分にある宝玉が輝きその後刀身も輝き始める。


 その輝きは次第に大きく膨れ上がっていき


「神秘なる女神の力よ、女神に仇なす者共を切り裂け! フラガソラス!」


 エスリンがそう唱えると、膨れ上がった刀身の輝きは分裂し、5つの光の刃となってトロール目掛けて飛んでいく。


 飛んでいった5つの光の刃は、それぞれトロールを追尾して左の戦場に残っていた12体を的確に切り裂いて撃破し、さらに副官ローガンにもダメージを与えて光の刃はエスリンの元に戻ってきて金属の刀身に姿を戻す。


「これで、こちらの戦場の戦況は優位になったわ。アイアンゴーレムが来る前に、副官ローガンを撃破するわよ!」


「オーーーーー!」


 エスリンの指示に部下たちは声を上げて答える。

 それを見ていたリーベはすぐさまローガンに指示をだす


「ローガン! 後退してアイアンゴーレムと連携して! あ、駄目だ、電波が……魔力が届かない……」


 リーベは薙刀を高く掲げながら城壁の左端まで来きて、背伸びしながら命令してみるが、ローガンはソフィーと戦闘を続行して後退しない。


「しかたない!」


 リーベはキリマンジャロを運んで要塞内で休憩していた、グリフォンの一体に飛び乗る。


「疲れているところ悪いけど、飛んでもらうわよ」


 彼女が命令を出すと、グリフォンは翼を羽ばたかせ空に舞い上がり、ローガンの上空まで飛行した。そして、リーベが上空から後退の命令を出すと、副官ローガンはアイアンゴーレムの方に向かって後退を始める。


「なっ!? 待ちなさいよ!!」

「ソフィーさん、一人で追撃するのは危険だから追わないで!」


 ソフィーは追いかけようとするが、エスリンがそんな彼女を制止した。


 その頃、右の戦場ではレイチェルがデナリ接近に内心焦っており、その理由は彼女の戦力には左側の部隊と違ってトロールを一気に殲滅できる力を持っているのは紫音だけである。しかし、彼女の力はトロールの王との戦いの切り札として、使わせないようにとユーウェインからの厳命を受けているからだ。


 紫音の性格なら女神武器の特殊能力をここで使って、さらにトロールの王の時にも使うのは容易に想像できる。そして、体が負荷に耐えきれずにまた吐血して気を失う事にだけは絶対にさせたくないと彼女自身も強く思っていた。


 残るトロールの数は11体と副官ルウェンゾリ、冒険者達は後方でまだ体勢を整えていて動く気配がない。


(今からエドガーを呼び寄せて……)


 レイチェルがそう考えていると、紫音がルウェンゾリから一度距離をとって、彼女の側まで走ってくる。


「レイチェルさん、どうしますか? 四天王が来る前に、私がハイパーオーラバスターで薙ぎ払いましょうか?」


「いや、駄目だ。シオン君の力は後で必ず必要になる!」


「前回と同じで、ハイパーオーラバスターを使ってから特殊能力を一度止めれば、もう一回ぐらいは使えます!」


「それで君を前回のように、また吐血させて翌日まで気を失わせるわけには行かない! あの後アリシア様が君のことでどれ程、お心を痛めていたか……。私は再びアリシア様にあんな思いはさせたくはない!」


「アリシアが……」


 紫音はレイチェルの話を聞いて、前回アリシアに心配させてしまったことを悪く思う。そして、彼女がアリシアの事を本当に大事にしているんだと思っていると感動する。――が、


「そして、何より君が気を失って前回同様、今回も君とアリシア様のキャッキャウフフをお預けにされてしまったら、私は一体何を心の拠り所として戦えばいいのだ!!!?」


「人類の平和のために戦いましょうよ!!」


 紫音はすかさずこの百合愛好家残念美人の残念発言にツッコミを入れた。

 その瞬間、彼女たちの目の前の地面に超巨大な魔法陣が現れる。


「え!?」


 二人はその突然現れた魔法陣に驚く。


 それは、エドガーの女神武器ケーリュケウスの特殊能力“魔法範囲拡大”によるモノで、


「メイルストローム!」


 エドガーがそう発すると、超巨大な魔法陣が輝き超巨大な水柱が渦を巻きながら吹き上がり、副官ルウェンゾリを含めた左側のトロール11体を巻き込みながら、上空まで登っていく。


 その激しい渦に巻き込まれたトロール達は耐久値を削られ魔石に変化し、耐えきったモノもかなりの耐久値を失って遠距離攻撃でとどめを刺されていく。


 副官ルウェンゾリだけは、かなりダメージを受けたが健在であった。

 紫音とレイチェルがその光景を驚いた表情でまだ見ていると、エドガーが高級魔力回復薬を飲みながら彼女達の後ろから話しかけてくる。


「隊長の指示でトロール達に魔法を使いに来たのだが、丁度紫音君がレイチェルに相談するために、ルウェンゾリから距離を取ってくれたことでいいタイミングで魔法を放つことができたよ」


「そうだったのか……」

「では、私は隊長の援護に戻るから、後は頑張ってくれ!」


 レイチェルが何とか冷静を装ってそう返事を返すと、エドガーはそう言ってユーウェインの援護に戻っていた。


 こうして、敵の現在の戦力は四天王キリマンジャロとデナリ、副官ルウェンゾリとローガン、そしてクナーベン・リーベとアイアンゴーレムとなる。


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