135話 



 前回のあらすじ


 今回もアリシア・アースライトが前回のあらすじをおこないます。

 みなさんの頑張りで、何とか戦況を好転させました。

 ところで、四騎将って最近レイチェルが当たり前のように参加していて『五人揃って四天王』になっていますよね……


 ######


 グリフォンに乗って、上空から右の戦場でトロールが全滅したのを見たクナーベン・リーベは、残ったルウェンゾリにデナリの所まで後退するように命令を出すが、この命令は裏目となった。


 エドガーによってダメージを負ったルウェンゾリを、好機と見た紫音とレイチェルが追撃して、デナリの元に向かっているルウェンゾリの背後から先に追いついた紫音が攻撃する。


「やあっ!!」


 ルウェンゾリも紫音の接近に反応して振り返るが、紫音は既に右の足元に到達しており掛け声と共に女神武器で斬りつけた。


 魔法によってダメージを受けていたルウェンゾリの右足は簡単に切断され、その場で地面に右膝を付いて動けなくなってしまう。


 そこに追いついたレイチェルが左足を切断する。

 あとは前回のトロール戦と同じで彼女達は、二人でルウェンゾリをフルボッコにして魔石に変えた。


 そして、二人はすぐさま味方のところに戻って、迫りくるデナリに備える。


「しかたない、次の手で行くしかないわね」


 その様子を見て上空にいたリーベは、地上の人間側に自分の動きが気付かれないためにグリフォンに更に上空に上がるように命令を出すと、トロールの本拠点から500メートルの地点に設営されている人間側の補給物資の置いてある陣営に向かう。


「敵の兵站を狙うのは兵法の基本よね」


 このリーベの動きをミーのレーダーが捉えていた。


「ホーー!」

「えっ!? 上空から後方に向かっている物体があるッスか!? それは、一大事ッス!」


 リズは後方に向かって走り出す。


「どうしたの、リズちゃん!?」


 突然後方に走り出したリズにミリアが話しかける。


「後方に、上空から向かっている物体があるそうッス! 私が迎撃に向かうッス!」


 そうミリアに言い残して、リズは後方に走っていった。

 リズは上空の物体を追いかけて、50メートル後ろにいた回復役のいる後方を走り抜ける。


「上空の物体の目標は、回復役のいる後方ではないッスか? じゃあ、補給物資のある陣営か拠点キャンプ?」


 冒険者の回復をしていたエレナは、今リズが走り抜けていった気がして顔をあげるが、リズは既に走り抜けたあとで走る後ろ姿が小さく見えた。


「リズちゃん、どこへいくのかしら?」


 エレナは走っていくリズのことが心配になったが、不負傷者の回復を中断するわけにはいかないので、後ろ姿を見送ることしかできなかった。


(予測より陣営も拠点キャンプも、後ろに設営されているわね……)



 陣営の上空に到着したリーベは、予想よりも後方に設置されていることに心の中でそう呟く。


 何故ならば、リーベは昨日のうちに陣営とキャンプが設営される場所を予想して、その真ん中にロックゴーレムを2体作り出し岩に偽装させておいた。


 そして、両施設を一体ずつ使って同時に攻撃して、迎撃が間に合わないようにするつもりだったからだ。


 しかし、彼女の予想より後方に設営されていたため、陣営近くにロックゴーレムが待機する形となる。これでは拠点キャンプにロックゴーレムが到達するよりも早く、足の早い冒険者が先に到着して迎撃されるという面倒なことになるかも知れないと思ったからだ。


「まあ、しかたない」


 陣営の横100メートルの上空に到着したリーベはそう言って、いつものようにグリフォンから華麗に飛び降りる。


「ミ―! あの落下してくる物体に、GC(ゴッデスクロスボウ)ファミリア一斉発射ッス!」


 リズはミーに攻撃命令を出すと、自らもグシスナルタを構えて狙い撃つ。

 落下していたリーベは、自分に飛んできた矢に気付きギリギリの所で、薙刀で矢を振り払うがGCファミリアの魔法の矢は薙刀で捌けず、さらに自由落下中であるため回避行動が取れないため全弾命中する。


「痛い! 痛い!」


 リーベは魔法の矢を受けて、そう声をあげてそのまま地面に着地した。


「GCファミリアが命中して、”痛い! 痛い!“で済むッスか!?」


 リズはリーベの頑丈さを目の当たりにして、驚きながらも焦っている。

 それはすなわち、自分の攻撃があまり通用しておらず戦えば負ける可能性が高いことを意味しているからだ。


 リズは今になって、迂闊にリーベに手を出したことを後悔し撤退しようとする。


「絶対に許さないわよ、チビッコ! いけっ! ステュムパリデス!!」


 リーベは、ようやく作り直したステュムパリデス8体全てを用いて、逃げようとするリズを攻撃させた。ステュムパリデスは獲物を狙う猛禽類のごとく飛翔して、リズ目掛けて高速で追撃する。


「やばいッス!」


 逃げ切れないと悟ったリズは、ミーにステュムパリデスの迎撃命令を出す。


「ミー、あの飛んでくるのを迎撃ッス!」

「ホーー!」


 ミーは飛んでくるステュムパリデスにGCファミリアで射撃するが、紫音ですら翻弄されるほどの機動性を有するステュムパリデスには魔法の矢は中々当たらず、命中してもオリハルコンで作られたそのボディに飛行を止める程のダメージを与えることができなかった。


 宙を舞いリズに接近してくるステュムパリデスに対して、ミーはGCファミリア2体を制御から外し、GS(ゴッデスシールド)ファミリア2体を鞄から出撃させる。


 リズの魔力が低いため、ファミリアを6体しか操れないためであった。

 ミーはGSファミリアでステュムパリデスを防ごうとするが、ステュムパリデスの攻撃力は予想以上でGSファミリアに突き刺さって相打ちになってしまう。


 GSファミリアをあっけなく失ったミーは、リズを守るため最後の手段を取る。

 ミーはリズ目掛けて突進してくるステュムパリデス6体に、周囲に展開させている残りのGCファミリア4体を突進させ次々と相打ちにしていく。


 ミーが先程制御から外して地面に落としたGCファミリア2体を、残り2体のステュムパリデスにぶつけようとするよりも早く、ステュムパリデスがリズに迫った。


「うわぁ!!」


 リズがステュムパリデスに貫かれたと思って目を閉じた瞬間、金属と金属が激しく衝突する音が目の前で発生する。


 リズがその音で驚いて目を開けると、目の前にはステュムパリデス2体が体に突き刺さったミーの姿がそこにあった。


「ホー……」


 ミーはそう力なく鳴くとそのまま地面に落ちてしまう。


「ミー!!?」


 リズが慌てて近づくと、ミトゥルヴァは最後の力を振り絞る。


「ホー…」


(私は止まらないから、リズが止まらないかぎり、その先に私はいる。だから、止まらないで……)


 そう言ったあと、ミトゥルヴァは光の粒子となって空に舞い上がり消えていった……


「ミー! いなくなっちゃ嫌ッス! ミー!!」


 リズは空に舞い上がる光の粒子を、そう言いながら拾い集めようとするが掴むことはできない。


「ミー!!!」


 リズはミトゥルヴァを失った悲しみのあまりに、その場で泣き出してしまった。

 14歳の少女にとって相棒であり友達であったミトゥルヴァの喪失は大きく、戦場で泣いて動けなくなるという愚をおこなわせてしまう。


 だが、リーベは泣き崩れる少女に攻撃しなかった。


「そのフクロウ? の頑張りに免じて、アンタは見逃してあげるわ……」


 リーベはそう言うと、ゴーレムを待機させている場所に向かう。

 彼女がリズを見逃したのは、少女が号泣している姿を見て不憫に思ったのか、それとも、大切な存在を理不尽な理由で失った過去の自分と重なったからかはわからない。


 135話 玉子梟還らず



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る