132話 トロール本拠点侵攻作戦
「みなさん、おひさしぶりです。シオン様の最大の心友・知友にして、運命のパートナー、あとこの国の王女アリシア・アースライトです。今回もミレーヌ様の執務室に待機しています。わたくしのティーカップは既に一つ壊れています。シオン様に何か不吉なことがあるのではないかと、とても不安です。ちなみに前回のトロール戦でも一つ壊れてしまいました。その時はシオン様が吐血なさったそうなので、今回もそうならないかと心配です……」
「アリシア様、誰に向かって言っているんですか? あと、長い!」
ミレーヌは久しぶりの登場で、爪痕を残そうとしている若手芸人のようなアリシアの長い述懐に対してツッコミを入れた。
「それにしても、わたくし今回の危険な侵攻作戦へのミリアちゃんの参加を、ミレーヌ様は反対すると思っていました」
「アリシア様。私は公人として、他の者達を死地に送っているのに危険だからと言って、身内の参加を止めるわけにはいかないのです」
アリシアのその質問に対して、ミレーヌは複雑な表情で答える。
(ミリアちゃん、無事に帰ってきて……)
(シオン様、どうかご無事で……)
二人は大切な人の無事を心の中で祈った。
トロール本拠点はトロール達が住むため拠点の壁は高く8メートルぐらいあり、そのため内部の様子を窺い知ることはできない。
拠点の周りは平地になっており、そこに防御柵がいくつも設置されている。
平地の左右には、森が広がっており伏兵にはもってこいだが、巨体のトロールが潜んでいれば解るであろう。
「念の為に偵察を出しておくか……」
ユーウェインは左右の森に偵察を出し、敵のいないことを確認する。
戦闘態勢を整えるとユーウェインは、投石機に本拠点への攻撃の指示を出す。
「攻撃開始!」
ユーウェインの攻撃命令を受けた2台の投石機は、本拠点に向けて投石を開始する。
投石機によって放物線を描いて飛ばされた大きな石は、本拠点の壁にぶつかり少しずつ破壊していく。
すると、本拠点の大きな門が開き中からトロールが、迎撃のために出撃してきた。
「数は!?」
ユーウェインはリディアにトロールの数を確認させると、彼女はイーグルアイで数を確認する。
「数は22です。城壁に掲げられている旗の数2本と同じです」
「2は副官だな……」
そして、最後に門から四天王のデナリが出てきた。
「コウゲキカイシ!」
デナリの攻撃命令ともに、トロール20体はゆっくりと進撃を始める。
「遂に戦いが始まる!」
そう言って刀を抜いて、二刀流で構えると声をかける紫音。
「みんな! 無理せず、一生懸命戦おう!」
「言われなくても、わかっているわよ!」
ソフィーも同じく二刀流で構えながら返事する。
「行くッスよ、ミー!」
「ホ――!」
リズも弓を構えながら、ミーに声をかけた。
「ケットさん、暗示はもういいからね」
「ナー」
ミリアは勇気を振り絞って、恐怖に耐えるために杖を両手で強く握ってそう答える。
そうこうしているうちに、周りの冒険者達が迎撃のフォーメーションを取りながらすばやく前進し始めた。
「よーし、みんな私達も行くよ!」
その中で紫音もPTメンバーにそう声を掛けて、前に出ようとする。
「お嬢ちゃん達は、おとなしく後ろで待機していな!」
すると、大手クランのメンバーにそう言われて、邪魔者扱いされてしまう。
「なんですって!?」
ソフィーが反射的に言い返すが、前を見てみると大手クランメンバーによって前線は混雑気味になっていて、確かに紫音達が戦えるスペースはなかった。
大手クラン2つと小さなクラン3つ合計200人によって、前線はすっかり冒険者で一杯になっている。
「これなら無理して、私達が前に出て戦う必要ないね」
それを見た紫音はそう言って、これ幸いとあっさり投石機付近で、待機する事を選択した。
「そうッスね。無理して前線で危ない目に合う必要はないッス」
「私も……、そう思います……」
サボり魔リズと怖がりミリアが、ヘタレリーダーに賛同する。
「アンタ達ね! そんな気構えでどうするのよ!」
「じゃあ、ツンデレお姉さんだけで戦ってくればいいッス!」
リズは一人やる気のソフィーにそう言い放つ。
そして、紫音も続けてこう言った。
「そうだよ、ソフィーちゃんだけで前線を走り回って、その自慢の胸を揺らしてくればいいよ。地平線胸の私は胸と一緒で、ここに微動だに動かずに待機しているよ」
どうやら、紫音はさっきのソフィーの言葉を根に持っているようだ。
そして、動けずにいたのは騎士団も同じであった。
「どうしますか、隊長?」
「この状況では、下手に前線に加わっても混乱をきたすだけだ。少しここで警戒態勢を維持したまま待機する」
リディアの問いにユーウェインはそう答え、騎士団に警戒態勢のまま待機を命じる。
大手クランが前線を占拠したのには理由があり、トロールとの戦果で本拠点にあるであろう財宝の分配量を決定する事を、あの大会議室での話し合いの後に彼らも密談して取り決めていたのであった。
トロール達はまず前衛として10体をゆっくり前進させ、残り10体は後方で待機しており、前進したトロール達は本拠点から100メートル進んだ所で、設置している防御柵の後ろに待機する。
だが、トロール達が防御に使っている防御柵は、彼らの巨体を守るには少し小さく上半身は丸出しになっていた。
「やっぱり、獣人は頭が弱いな!」
冒険者達はその上半身に矢を射掛け、遠距離から魔法を撃ち込みダメージを与えていく。
戦場の位置関係は、冒険者の前衛が本拠点から120メートルの位置、後衛が170メートルの位置、紫音達とユーウェインが投石機と共に300メートルの位置に、そして、エレナ達重傷者の回復役が350メートルの位置になっていた。
「前線の大手クランと我々の間に、空白ができてしまいました。連携を取るためにも、我々も少し前進したほうがいいのではありませんか?」
エドガーがユーウェインに進言する。
その頃、ミーのレーダーが上空から何かが迫って来ていることに反応して「ホ――!ホ――!」とうるさく鳴き始めた。
「ミー、うるさいッス!」
後方で待機していたリズはすっかり気が緩んでいたため、即座にミーの報告を理解できずに反応が遅れてしまった。
「どうしたの、リズちゃん?」
紫音はリズとミーの会話が気になり、彼女に質問する。
「ミーが前方の上空から、何か迫ってきているって言っているッス。」
「上空から?」
紫音とリズ、そして、横で話を聞いていたソフィーが前方の空を見上げた。
「そうだな……。騎士団、前進す――」
彼がエドガーの進言を聞いて、騎士団に前進命令を出そうとした時、大きな影が前衛のいる地面を走ったと思った瞬間、何か巨大なモノが上空から冒険者達の後衛が展開していた場所に落下する。
そして、激しい地面の揺れと大量の土煙を生み出し、落下地点にいた後衛部隊は大損害を
「そんな……」
「なんだと……!?」
その揺れに何とか耐えた紫音とユーウェインが、砂煙の晴れかけてきた前方の落下地点を見ると、そこには四天王キリマンジャロが立っていた。
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