118話 激戦トロール戦







 ケットさんの強すぎる暗示によって、強気すぎる性格になってしまったミリアは苦い高級魔力回復薬を飲まないと強気に発言してきた。


 ケットさんはミリアのMPを回復させ、未だ一進一退を続ける前線に復帰させるため、器用に鞄から薬を取り出すと、これまた器用に瓶の蓋を開け彼女に飲ませようとするが、彼女は頑なに拒否する。


「ナー」


「私がMPを回復して、前線に戻らないとシオンさんやリズちゃんがやられちゃうかも知れないって?」


「ナー」

「わかったよ、飲めばいいんでしょう?」


 ミリアは大切な親友と、尊敬するお姉さんのことを言われると、強気なったとは言え元は仲間想いの優しい彼女は意を決し、一気に薬を飲み干した。


「苦い……」

「ナー」

「そうね、この怒りはトロールにぶつけるわ!」


 MPを回復したミリアは、前線に戻ることにする。


「ユーウェインさん。私も特殊能力を使ってハイパーオーラバスターで、トロールの数を減らしたほうがいいでしょうか?」


 紫音は、ユーウェインの元にやってくるとこのように提案するが、ユーウェインは悩んでしまう。彼女の特殊能力は強力で恐らく四天王戦での切り札になるからだ。

 だが、トロールの数はまだ多く、こちらの消耗も激しくなってきている。


(ここで、シオン君の力を温存して奴らに数で押し切られて、四天王戦に持ち込めなくなっては元も子もないか……)


 ユーウェインは盟友に向かって問う。


「スギハラ! これからシオン君の特殊能力を使う! 四天王2体は、俺とお前で相手することになるがいけるな!?」


「誰に言っているんだ! いけるに決まっているだろうが!!」


 スギハラからは予想どおりの返事が帰ってくる。

 その返事を聞いたユーウェインは、親友が自分の決断の背中を推してくれたと感じとると、覚悟を決めて決断すると紫音に指示を出す。


「シオン君、頼む。できるだけ、奴らの数を減らしてくれ!」

「わかりました!」


 紫音は水堀の丁度中間地点まで行くと、女神武器を大小共に抜いて両腕を前に水平に出して構えて祈りを捧げる。


「女神の祝福を我に与え給え!」


 紫音は両手に持った女神武器にオーラを込めると、打刀の天道無私と脇差の鈴無私にそれぞれの鍔に取り付けられた女神の宝玉が輝き出す。


 すると、特殊能力で戦闘能力とオーラをブーストされ、紫音はそのブーストされたオーラを2本の刀に注ぎ込んでオーラを溜める。


 紫音は体を90度ぐらい捻ると「ハイパーオーラバスター!!」の掛け声とともに、前に水平に出した両腕はそのまま横に振る。


 すると、45度くらいで巨大なオーラウェイブが刀から前方に放出され、巨大なビームのようになって軸線上にいたトロールにダメージを与えながら伸びていく。

 一定まで伸びると紫音はその巨大なオーラのビームを、45度から160度ぐらいに扇状に動かしていき、その扇状の範囲にいたトロール達に大ダメージを与える。


 160度まで来た時に、クリスは紫音の肩を叩き


「シオン、オーラをストップさせなさい!」


 紫音に刀へのオーラの注入を止めさせた。


「あっ、はい!」


 クリスにそう言われて肩を叩かれた紫音は、刀へのオーラ注入を反射的に止める。


「心の中で、女神武器に特殊能力の中止を願って!」


 クリスは紫音に続けて、指示を出す。


(女神武器さん、能力を止めてください!)


 紫音は言われるがままに、心の中で女神武器に願うと武器に取り付けられた宝玉の輝きが収まる。


「これで、女神の宝玉に溜まっているオーラが使い果たされずに済んだから、上手く行けば時間が立てばもう一度能力を仕えるかも知れないわ」


(恐らくシオンのこの武器は特別だと女神が言っていたらしいから、その可能性は高いはず……)


 クリスはそう推察しながら、紫音に説明した。

 とはいえ、オーラを大量に使ってしまった紫音は、前回のように気を失いはしなかったが、全身から力が抜けその場に膝から崩れ座り込んでしまう。


 その姿を見たクリスは紫音に心配そうに問いかける。


「大丈夫!? 立てる?」

「ダメです……、力が入りません……」


 紫音から元気のない声で返事が返ってきた。


「アフラ! シオンを一度後方まで連れて行って!」

「りょうかいー!」


 クリスに命じられたアフラが走ってくると、彼女は紫音をおんぶすると後方に連れて行く。


「今回もありがとうね……、アフラちゃん」

「いいよ、いいよ、これぐらい」


 アフラは紫音を後方まで連れてくると


「さあ、シオンさん! 高級オーラ回復薬だよ、飲んで!」


 そう言いながら、彼女は紫音の口に強引に薬瓶をねじ込む。


「大丈夫……ゴボゴボ、自分で……ゴボゴボ、飲めるから、ゴボゴボ」


 紫音はむせ返りながら、強引に口に放り込まれたオーラ回復薬を飲んでいく。


 二本目のオーラ回復薬を飲みながら、紫音が冷静に戦況を見ると他の者達もオーラやMPが無くなったものは、少し後方に下っては薬を飲んで回復させ前線に戻っていくのを、繰り返していた。


 だが、その表情には明らかに疲れが出てきている。

 薬でオーラやMPは回復できても、そこからくる精神的な疲れは回復できない。

 かくいう紫音にもオーラを大量に使った精神的疲れを感じている。


 そして、その参加者達の疲労の蓄積はユーウェインも解っていたが、そこにさらに悪い知らせが伝令により伝えられた。


「波乱万子殿より、伝令です。投擲の丸太が尽きたそうです」

「そうか……。タイロン、トロールの数は今どれくらい残っている!」

「ざっと見た所、あと100ってところですかね」


(100か……。丸太の投擲がなくても、このまま削りきれるか……)


 タイロンの報告を聞いたユーウェインは、そう心の中で算段する。


「諸君! ここが踏ん張りどころだ! ここを耐えれば勝利は我らのものだ!」


 そして、ここが正念場だと考え、参加者を鼓舞する。


「ところがどっこい、現実とはそうはうまくいないのよねぇ」


 ユーウェインのその鼓舞を聞いて、クナーベン・リーベがそう呟いた。


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