119話 ロックゴーレムをやっつけろ!
クナーベン・リーベは回復役のいる場所の側面200メートル程の場所に、身を潜めて機会を窺って待っていた。
そして、ユーウェインの鼓舞を聞いて、その機会が到来したと思い立つ。
士気が上がり前のめりになったところを、側面から襲えば敵は混乱してせっかく上がった士気も落ちるだろう。そうなれば、士気の高揚から覆い隠されていた疲労感が姿を表して、人類側は戦線崩壊するはずと考えたのだ。
クナーベン・リーベは薙刀の刃の部分の下に付いた宝玉に魔力を込めると、予め作り出して岩に偽装してあったロックゴーレム5体が立ち上がりその姿を現す。
「ロックゴーレムだ!」
「ロックゴーレムが現れたぞ!」
「五体いるぞ!」
側面に距離があるとは言え、いきなり現れたロックゴーレムに人類側は驚く。
「ゴーレムを何日もかけて数を揃えていたのは、アナタ達だけではないってことよ!」
彼女は5日間夜がふけてからこの場所に街から通い、一体ずつロックゴーレムを作って岩に偽装していたのであった。
リーベはロックゴーレムに前進の命令を降すと、自らもその後ろを歩いてくる。
「第08号ゴーレム小隊、出撃!」
アキすぐさま自分のゴーレム達に、迎撃の指示を出すと伝令にユーウェインへ次のような言葉を届けてもらう。
「迎撃に向かわせますが、数も大きさも向こうのほうが上なので、時間稼ぎしか出来ません。その間になんとかしてください」
リーベは50メートル程進ませると、そこからロックゴーレム達に後衛職がいる辺りに岩石投げをするように命令を出す。
ロックゴーレム達は左手を岩の塊にすると、右手で後衛に向けて岩石を投げつける。
後衛にいた魔法使い達はマジックバリアを展開して、5つの飛んでくる岩石を防ぐ。
だが、魔法使い達がマジックバリアに専念したため、トロール達への攻撃が疎かになり近づく前に耐久値を削りきれずに、ついに前衛に到達することになってしまった。
トロールの攻撃を回避しての攻撃になってしまうので、人類側は隊形が崩れてしまう。
スギハラはトロールの振り下ろされた攻撃を回避しながら、左足の近くに移動するとそのまま足の横をすり抜けざまに刀で斬り抜け、トロールの左脚を切断して片膝をつかせた。
そこに他の者達が、オーラウェイブを叩き込んで何とか撃破する。
「ゴーレムの方は、どうなっているんだ!」
スギハラがゴーレムの方を見ると、アキのゴーレムとリーベのゴーレムが戦っていたが、苦戦しているようであった。
そして、そのゴーレム達の戦っている場所に、アフラが走って向かっているのが目に入る。
「アイツ、またアレを使う気か!」
スギハラの危惧したとおり、アフラは走りながらミトゥトレットの手の甲に付いている宝玉にオーラを送り込んで特殊能力を発動させた。
オーラを送り込まれたミトゥトレットは甲の装甲が左右にスライドして分かれ、宝玉は輝きながらアフラのオーラと周りのオーラを吸収し始める。
アキはアフラが自分のゴーレムの後ろまで、走ってきているのに気づくとゴーレムに左腕に装備させた盾で防御態勢を取らせしゃがませた。
それを見たアフラは、アキの意図に気づくと
「ありがとう、アキさん!」
アキのゴーレムの丸太入れまでジャンプして、更に頭までジャンプすると、頭を踏み台にして、リーベのロックゴーレムの胸のあたりまで飛び込む。
「ミトゥトレット……インパクト!!」
そして、ミトゥトレットインパクトを叩き込んだ。
アフラの攻撃を受けたロックゴーレムは、ミトゥトレットインパクトを受けた胸から砕けて、石や砂になって砕け散った。
「はにゃー」
アフラは衝撃で吹っ飛ぶが、アキのゴーレムが受け止めて事なきを得る。
「また、あの娘か! まあ、あの一撃だけみたいだし問題はないわ……」
自分のゴーレムを再びアフラに撃破されたリーベは、このように強気の発言をしたが内心は少し焦っていた。
「右手が少し痛むけど……、あと2発叩き込んでやる!」
アフラは右腕を構えると、手の甲の宝玉が輝き始める。
アキの次のゴーレムが防御態勢を取ってしゃがむと、アフラは再びジャンプしてアキのゴーレムを踏み台にすると、2発目をロックゴーレムに叩き込んで二体目を破壊した。
「あの娘の武器って一回だけじゃなかったの?!」
2体目を壊されたリーベは驚いたが、すぐさま女神がまた加担したのだろうと確信した。
アフラの右手はさらに痛みを増して、さらに感覚がなくなってくる。
「うまく力が入らない……、うー! 気合! 気合!」
アフラは気合を入れて、右手を握って握り拳をつくる。
そして、アキの3体目のゴーレムが防御態勢を取ってしゃがむと、アフラは最後の一発を放つために、頭を踏み台にしてジャンプする。
「何度も同じ手は通じないわよ!」
リーベは跳躍中のアフラに、ロックゴーレムのパンチを合わせてくる。
「うわぁーー!?」
跳躍中のアフラは、回避することが出来ずにピンチに陥ってしまう。
「やらせるか!」
アキのゴーレムが左腕の盾でロックゴーレムのパンチを防ぐ。
「ミトゥトレットインパクト!!」
アフラは最後の一撃をロックゴーレムに放つと、右腕に激痛が走った後、右腕の感覚が無くなってしまった。
オーラを大量に消費したアフラは体に力が入らなくなってしまい、着地体制が取れずにそのまま落下してしまうが、ギリギリのところで走り込んできた紫音がアフラをキャッチする。
「何とか、間にあったー!」
「ありがとう、シオンさん……」
紫音はアフラをそのままお姫様抱っこで、抱えたままこの場から離れようとすると、その紫音の前にクナーベン・リーベが立ちはだかる。
(まずい、アフラちゃんを抱えたままだと戦えない!)
紫音がアフラを抱えたまま、身構えるとリーベはこう言ってきた。
「安心しなさい、今日はアナタと戦う気はないわ。アナタにまだ自己紹介していなかったから、やっておこうと思ってね。私の名はクナーベン・リーベっていうの。以後お見知りおきを……」
紫音はリーベの自己紹介を聞いて、彼女に思わず初めて会った時から気になっていた質問をする。
「アナタは人間なんですか?」
「フフフッ……。そうよ、人間が嫌いだから魔王軍にいるの」
「どうして!?」
「どうしてって……。嫌いだから、嫌いなの。アナタもこのまま生きて、社会で生活し続ければ、人間の醜い部分とかが見えて感じて解るようになるわよ……。では、また会いましょうね、天河紫音さん」
そう言って、リーベは紫音に背中を向けて敵対心がないことを見せて歩き出した。
リーベが離れると、紫音は自身も振り返って全力で走り出す。
(アフラちゃんも軽いな……。こんなに軽いのにあんなに力があるなんて、女神の加護による身体強化ってホント不思議な力だな。アリシアも見た目は私より力が無さそうなのに、私よりあるしなぁ)
紫音はそう考えながら、安全な場所まで走っていく。
(クナーベン・リーベ、やっぱり人間だったんだ……。あとで皆に……、いやミリアちゃんやリズちゃんがショックを受けるかも知れないから、クリスさんやミレーヌ様の様な大人の人にだけ話そう)
紫音はいずれ人間である彼女と殺し合うかも知れないと思うと、気分が重くなってしまった。
そのころ、リーベは紫音が脱兎のごとく走って離れていくのを確認すると、すかさず物陰に隠れて移動して、近くに止めておいた馬に乗って街へと帰る。
「ロックゴーレム残り2体で4体の相手なんて負け確定だし、今回はもう私の出番はここまで! さあ、街に帰ってBL漫画描こう。オータム801氏が新刊を出したみたいだし、ライバルであるこの”黒野☆魔子”も負けてられないわ!」
そう独り言を言って、彼女は馬に乗って街への帰路についた。
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