110話 要塞では、準備が進む
”みんなで頑張ってトロールを倒そう会議“が行われていた頃、アキは合流したアフラと共にフラム要塞までやってきていた。
「エスリンさんの知り合いなんです、中に入れてください」
「駄目だ、要塞は防衛戦時以外の関係者以外の立ち入りは禁止されている」
人類の最前線である要塞であるのだから、厳しい入場制限は当然といえば当然である。
「本当に知り合いかどうか怪しいな」
門を護る衛兵達は彼女を疑う。
「本当です、エスリンさんに問い合わせてください」
衛兵達は、なお疑ってくる。
「本当に知り合いなら、自分で連絡を取ればいいだろう?」
(それも、そうだ)
アキはすぐさまエスリンに栞で連絡を取ると、暫くしてエスリンがやってきた。
ちなみに、彼女が冒険者ではないのに【女神の栞】を持っているのは、冒険者になると最初の一つだけ無料で貰えるだけで、お布施という名の料金を払えば誰でも手に入れることが出来るのである。
エスリンは衛兵にアキ達が知り合いだと説明して、要塞内へ入場できるようにしてくれた。
彼女に付いてアキは要塞内に入ると、内部では騎士や兵士達が訓練を行っている。
その訓練をしている騎士の中から、タイロンがアフラに声を掛けてきた。
「よう! お前さんはスギハラさんとこの娘だろう? どうしてこんなところにいるんだ?」
「今日はアキさんに付いてきたの」
「どうも、アキ・ヤマカワです」
「アキは私の知り合いです、今日は私に会いに来てくれたんです」
「そうか。ところでどうだ、一緒に少し訓練していかないか? たまにはコイツラに違う面子と訓練させて、経験を積ませたいんだ。軽い模擬戦だ、お嬢ちゃんやらないか?」
「やるー!」
アフラは二つ返事でワクワクしながら、タイロンの方へ歩いていく。
そのアフラにアキは声をかける。
「アフラちゃん。時間がないから私達は先に行くね?」
「わかったー。また、後でねー」
アフラは手を振って、そう答えた。
エスリンの部屋に案内されると、アキはまず彼女に神託の件を話す。
「先程アルトンの街より、教会から神託があったという連絡と内容が報告されていたが、真相はそうなっていたのね。なるほど、数日前にナタリーさんに連絡した時に、態度が少しおかしかったのは、そういうことだったのね」
「はい。そのために私の仲間達皆で、今回の戦いは負けられないとなりまして……」
「そうね。これでもし負けてしまったらフィオナ様の、ひいてはフェミニース教会の落ち度とされるかも知れないわね。私も、今回の戦いに全力を尽くして挑むわ!」
アキの話を聞いたエスリンは決意を新たにする。
そして、アキは先程思いついた事を話し始めた。
「そこでなんですけど、今回の戦いで私はゴーレム達を使って、先端を尖らせた丸太を投擲させようと思っています。トロールは動きが遅いと聞いています、ゴーレムによる投擲でも十分当てることが出来ると思うのですが、どうでしょうか?」
「確かに鈍重なトロール相手なら、有効な攻撃手段だと思うわ。それに先端を尖らせた丸太なら、防御柵用のストックとこの間のリザード戦の時に落とし穴の底に使った余りがあるわ」
「では……」
「でも、私ひとりでは許可は出せないわ。カムラード隊長の許可を頂かないと……。隊長に話しても構わないかしら?」
「はい! 状況が状況なのでしかたありません」
二人はユーウェインの執務室に向かい、先程の作戦をユーウェインに話し許可を求める。
「もちろん、こちらとしては断る理由はない。むしろ、お願いしたい」
ユーウェインはアキに協力を要請する。
「アキは民間人なので、ゴーレムでの戦いは今回だけとしたいのですが……」
「そうか、それは残念だな。だが、戦いたくない者を無理に戦わせるわけにいかないからな。承知した」
ユーウェインは、少し残念そうなではあったが了承し、アキにこう言ってきた。
「では、君の事はあまり他の者に知られる訳にはいかないが、どうしたものかな?」
「それなら、考えています」
アキはそう言って鞄から、ゴーグルと飛行帽を取り出して装着する。
少し大きめのゴーグルは顔を半分隠し、更に飛行帽子で髪と輪郭を隠す。
バイカーのような見た目になっているが、変装という点では目的を果たしていると思われる。
「名前の方は、今回は波乱万子にしておきます」
「ハランバンコ君だね、了解した」
エスリンは更にユーウェインに願いでる。
「あと、カムラード隊長。今回のフィオナ様の話はどうかご内密にお願いします」
「そうだな、今後のフェミニース教会の威信に関わることだからな。それも、承知した」
「それでは、早速丸太の手配をして、できるだけ多く集めさせることにしよう」
「あのー、ゴーレムによる投擲を試しておきたいのですが?」
「確かに試しておいたほうが良いかも知れないな、早速数本を外に用意させよう。」
「お願いします」
アキ達が隊長執務室から出て、中庭を通りかかるとアフラが模擬戦で、騎士や兵士を相手に連勝していた。
アフラは騎士の袈裟斬りに対して、その卓越した反射神経と瞬発力、そして動体視力で間合いを詰め裏拳で振り下ろされた木刀の側面に当てて斬撃をパリィする。
木刀を横に弾かれ驚いた騎士は構え直そうとするが、この距離ならアフラのパンチが繰り出される方が早い。
「やぁーー!!」
アフラは騎士のヘルメットにパンチを打ち込んでノックアウトする。
「そこまで! 勝者、お嬢ちゃん!」
「オッス!」
アフラはタイロンの勝利判定に武闘家らしくお辞儀する。
「お見事!」
それを見ていたユーウェインが、アフラに賛辞を送った。
「ありがとー」
「しかし、お前ら全然勝てないじゃないか! シゴキ直しだな!」
タイロンは騎士と兵士に、活を入れる。
「ところで隊長、どこへ行くんですか?」
タイロンの質問にユーウェインはこう答える。
「今から、このハランバンコ君のゴーレムのテストを行うのだ」
「ほう……、そいつは面白そうだ。俺も見学させて貰っていいですか?」
タイロンのこの発言をユーウェインは、冷静にこう言って退けた。
「いや、残念だがこれは余興の見世物ではないし、何より我らには時間がない。少しでも訓練してトロールに備えてくれ」
「そいつは、残念だ。まあ、楽しみは本番まで取っておくとするか。よし、訓練を再開するぞ!」
要塞にいる者達は、あと2日で侵攻してくる今まで経験のない240体のトロールに備えなければならい、タイロンもそれは十分承知していた。
アキは外に出ると、ゴーレム召喚を始める。
エメトロッドに魔力を込め、足元の巨大な魔法陣に魔力を注ぎ込んでいく。
そして、エメトロッドを掲げ魔力を込めてこう叫ぶ。
「いでよ、第08号ゴーレム!」
魔法陣から5~6メートル程のゴーレムが現れる。
「このゴーレムは、7番目まではワンオフの機体構想なため、今回の為に急遽構想した8番目のゴーレム」
その構想とは、背中にウエポンラックという名の丸太入れを装備し、ここに丸太を数本入れそれを投擲するのだ。
左腕には投擲の邪魔にならない小型の盾を装備しており、頭には何故か猫耳のようなものが付いている。
「これが、アキ君のゴーレム……」
ユーウェインがゴーレムを見て感想を述べる。
「でも、アキ。このゴーレムはヒュドラと戦っていたモノより、小さいような気がするけど?」
エスリンのこの疑問にアキはこう答えた。
「ゴーレムは大きいと、その分動かすのに魔力を消費するんです。今回私はこの子をトロールが来るまで合計4体作るつもりです。そのためこの子は少し小さめに作ってあります」
「4体も?!」
エスリンはその数に驚く。
「はい。三体は投擲係で、残りの一体が丸太の補充役です。名付けて”第08号ゴーレム小隊”です!」
アキは少しドヤ顔でそう答えた!
「ちなみに、頭についている猫の耳のようなものは何かな?」
ユーウェインのこの質問にアキはこう答える。
「可愛いと思いませんか? この可愛い猫耳がついていれば、味方が敵と間違えないと思うんです!」
「ああ……、そうだな……」
ユーウェインはこの戦場に似つかわしくない可愛らしい飾りを見て、猫耳でなくても良かったのではと思った。
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