111話 戦いに備えて

 少し修正しました

######


 アキはフラム要塞でゴーレムに、丸太の投擲を試させようとしていた。


「第08号ゴーレム、投擲開始!」


 アキはエメトロッドに魔力を込めて、ゴーレムに指示を出す。


 ゴーレムは足元に用意された先の尖った丸太を片手で持ち上げると、体は斜めに構え丸太を持った右手を後ろに体を捻り、そして、その捻りを戻す勢いを利用して腕を振り切り、丸太を投擲する。


 その丸太を投擲する姿は、古代ローマ兵の槍投げを彷彿とさせないこともないが、いかんせん頭に猫耳が付いているのとズングリムックリな体型のため、可愛いという印象のほうが強かった。


 ゴーレムの投げた丸太は、200メートルほど空中を飛んで地面に刺さる。


「飛距離は200メートル程か……。だが、当たればあの丸太の破壊力はかなり高いはずだ。アキ君、改めて君にお願いしたい。次の戦い人類のためフィオナ様のためよろしく頼む」


「はい、頑張ります」


「ところで、後2日でゴーレムをあと3体作ると言っていたが、街から通うのかい?」

「できれば、ここに泊めて欲しいんですけど」


「もちろんだ、部屋を用意させよう。わからないことは、エスリンに聞いてくれ」

「エスリンさん、暫くの間お願いします」

「こちらこそ、よろしくね」


 こうして、アキはトロール戦まで要塞で過ごすことになった。


「アフラちゃん、私はこのまま要塞に残るから、街に帰ったらみんなに伝えといてくれる?」

「うん、わかったよ。じゃあ、またねー」


 アフラは元気よく街に向かう定期馬車に乗って帰っていった。


 その頃――

 紫音はソフィーと昼食後に模擬戦をする予定であったが、ふとこんな模擬戦をしているだけでいいのであろうかという想いに駆られる。


 もっと、厳しい修行で自分を追い込むべきではないのかと……

 そこで、紫音はソフィーにこのような提案する。


「ソフィーちゃん、山籠りして厳しい修行をしよう!」


「はぁ!? つい先日あんな事になったばかりのに、アナタまた懲りもせずに何を言い出しているのよ!? 馬鹿じゃないの?! 馬鹿じゃないの?!」


 紫音のこの提案に、ソフィーは反対どころか罵倒を浴びせてきた。


「馬鹿は酷いよ、ソフィーちゃん! 私だってちゃんと考えているよ。今回はこれから登って、明日の3時頃まで修行して下山しても、まだ一日余裕があるんだよ? なら、山を駆け回ったりして修行するべきだよ!」


「アナタ一人で勝手に野山でも何でも駆け回っていなさいよ! 私はここで、大人しく訓練しているから」


 ソフィーが頑なに断ってくるので、それを見ていたリズが紫音にこう言った。


「シオンさん、無駄ッスよ。ツンデレお姉さんは自称お嬢様(笑)だから、山での修行なんて厳しいことは無理な人ッス。平地の緩い訓練でドヤ顔させておいてあげようッス」


 リズがそう言った後、ソフィーは少しの沈黙の後―


「やってやろうじゃないの!!」


 今回もあっさり煽りに乗ってきた。


「そう言うからには、今回はアンタも参加するんでしょうね? ジト目!」

「いえ、自分は弓兵なので野山を走り回る必要はないので……」


 ソフィーのこの煽り返しに、リズは冷静にこう言い訳をしたが紫音も誘ってくる。


「リズちゃんも、一緒に山で修行しよう!」

「いや、だから私は……」


 渋るリズに紫音は、このような条件を付けてくる。


「参加してくれたら、カードゲームのパックを一つ買ってあげるよ」

「行くッス!」


 リズは即答した。


「シオンさん……。私も参加します」


 そんなやり取りを見ていたミリアも参加を申し出てくる。


「うーん、ミリアちゃんは魔術師だから、山籠りは意味ないんじゃないかな?」


 紫音のその意見を聞いて、悲しそうな顔をする。

 ミリアは前回PTで自分だけ山に登っていなかったので、そのことに少し疎外感を感じており、そのため今回の山籠りに参加しようと思ったのであった。


 紫音もミリアの表情を見てそのことを察して。このような提案を彼女にしてみる。


「そうだね、じゃあエレナさんとゆっくり歩いてきてね。エレナさん、いいですか?」

「はい、わかりました。ミリアちゃん、私とゆっくり無理せず登りましょうね」

「はい」


 エレナの言葉にミリアは嬉しそうに返事をした。

 

「まったく……。山にキャンプに行くわけじゃないんだから……」


 その様子を見ていたソフィーはそう呟いたが、その顔はにこやかな表情をしている。

 こうして、紫音一行はメイドさんにミレーヌへの言付けをお願いして、キャンプ道具を持って山へ向かうことになった。


 ソフィーが山に行くのは、リズに煽られただけではない。

 山に行けばあの自称”山の女神”が出てきて、今度こそミトゥデルードの説明を聞けるかもとの願いがあったからであった。


「今回は山頂まで行かずに、中腹付近で見かけた滝の近くに行こうと思っているんだ」

「そこなら、水もあるしキャンプするにはいいッスね」


 山を登りながら紫音がこう発言すると、リズが肯定する返事をしてくれる。


「ソフィーちゃん、このキャンプ道具の入っている女神の鞄(大)持って貰っていいかな?」

「どうして、私が…… しょうがないわね。ささっと、寄越しなさいよ」


 ソフィーはそこまで言いかけると、紫音が後ろで歩いているミリアを気にしているのに気付き、荷物を受け取るために手を差し出す。


「ありがとう、ソフィーちゃん」


 紫音はソフィーに女神の鞄(大)を渡すと、辛そうに歩いているミリアの元に向かう。そして、遠慮する彼女を半ば強引におんぶして、ソフィーの元に戻ってくる。


「ごめんなさい……、シオンさん……」


「遠慮しないの。それに卒業試験の時にも言ったでしょう? “年下は年上の厚意に、遠慮せずに甘えなさい”って」


「でも、私はシオンさん甘えてばかりです……」


「今はそれで良いんだよ、ミリアちゃん。その代わりに、ミリアちゃんがお姉さんになった時に、年下の子が困っていればその時に自分がしてもらったように、その子を助けてあげれば良いんだよ」


「はい……」


 ミリアは自分が大きくなった時、そんな事ができる大人になりたいと思った。


「シオン・アマカワ、アナタもたまには良いこと言うのね」


「まあ、私もお祖母ちゃんから教わったことなんだけどね。だから、ソフィーちゃんも私に頼ってくれて良いんだよ? ただし、シオンお姉さんか、先輩って呼んでもらうけどね!」


「アナタ、最後に余計なことを言って、台無しにしないと気が済まないの?」


 紫音が少しキメ顔でそう言うと、ソフィーはそう突っ込んだ。

 そして、勿論そのように呼ぶ気は彼女にはない。


 木々をかき分けて山道を進むと、やがて目の前に滝が見えてくる。


「やった、到着だ!」


 紫音はミリアを背から降ろすと


「ここを、キャンプ地と――」

「さあ、テントを張るわよ。みんな、手伝って!」


 ソフィーが最後まで言わせるものかと言わんばかりに遮ってしまう。

 みんなは滝の前の開けた場所にテントを貼り出す。


 一同は協力して、女神のテント(中)と(小)を一つずつ建てる。


「って、何故今回もテントを、人数分持ってきてないのよ!」


「だって、ソフィーちゃん。荷物になるし……、それに(中)は3人入れるって聞いたから……」


「三人入れるけど、それ程余裕はないわよ? この間の(小)に三人よりはマシってだけよ?」


「ツンデレお姉さんは、文句ばっかりッスね……」


 ソフィーの文句に、リズは少しうんざりみたいな表情でそう言った。


「何よその顔は!? 私が悪いっていうの? 私だって文句を言いたくないわよ。でも、この準備のなさに腹が立つのよ!」


「でも、今更言ってもしょうがないッス」


「それはそうだけど……。もう、わかったわよ! シオン・アマカワ、修行するわよ!」


 ソフィーの修行開始の言葉を聞いた紫音は、修行内容を発表する。


「じゃあ、まずは山の中を1時間ぐらい走り込みで!」

「1時間……」


 ソフィーは最初の修行メニューを聞いただけでゲンナリした。


「では、ミリアちゃん。私達は薪でも拾いに行きましょうか?」

「はい、エレナさん」


 二人は周辺に薪を拾いに向かう。


「ホ――」


 ミーはリズの頭から離れ、修行の邪魔にならないようにテント近くの木の枝に止まる。

 こうして、紫音、リズ、ソフィーの山での修行が始まる。


 ―と思われたが、山を一時間程走っていると夕方になって辺りが暗くなってきたので、これ以上は危険と判断して、三人はキャンプ地に戻ってきた。


 キャンプ地に戻ってくると、エレナがミリアと共に晩御飯を作っていたので、それを食べることにする。


(これなら、お屋敷のほうが照明で明るくて、まだちゃんとした訓練できたなぁ……)


 晩御飯を食べ終えた頃、辺りは焚き火の明かり以外はすっかり暗くなっており、紫音はそう思いながら二刀流の型の練習をすることにした。


 こうして、紫音の熱意は今回も空回りするのであった……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る