105話 噂の真意を解明せよ!
街を交錯するトロールの噂話が、魔王側の情報操作ではないかと推察した紫音達は、その意図を考えていた。
「やはり、人類側を混乱させたいのでしょうか?」
エレナの疑問にソフィーもさらに疑問で返す。
「そうだとは思うけど、例え混乱しても進発の報告を聞いたら、要塞に行くんだから意味がないと思うけど……」
「こういう時は、色んな事を知っている偉い人に聞くのが一番だよ」
アキはそう言って、その偉い人に選ばれたミレーヌに、夕食が終わったあとに質問する。
「なるほど……、魔王側の情報操作か……」
彼女は紫音達の推測を聞いた後、暫く考え込むとこう答えた。
「これはあくまで私の推測だが、魔王の目的はトロールがあと4~5日は来ないと思わせ、冒険者を街から遠ざけることにあるのかも知れないな……」
「たしかに4~5日来ないとなれば、油断して少し遠出する依頼を受けようってなりますね」
そのミレーヌの話を聞いたエレナが、このような考えを述べるとソフィーがその具体例をあげる。
「まあ、シオン・アマカワがそれをリザードの時にやったしね」
「はぅ!?」
紫音は突然の自分への流れ弾に、驚いて変な声をあげてしまう。
「でっ、でも、アレは結果的にアキちゃんという強力な戦力を得た訳だし、自分で言うのも何だけど、あながち間違った行動では無かったと私は思うよ、うん」
「結果論じゃない……」
紫音の精一杯の言い訳にソフィーは、バッサリと切り捨てた。
(ソフィーちゃん、いつになったらお姉さんにデレてくれるの?)
ソフィーの辛辣な言葉を聞いて、紫音は心の中でつぶやく。
「では、ミレーヌ様はトロールが本当に来るのは、いつだと思いますか?」
紫音の質問に、ミレーヌは再び考え込むと自分の予想を口にする。
「私は23~24本では無いかと思っている。その頃には、幾人かの冒険者達が噂を信じて、まだ来ないと判断し街から出ていると思うからだ」
「24本ということは、240体のトロールが相手って事になるッスね……」
リズがうんざりといった表情で呟いた。
「しかも、こちらの人数はリザード戦よりも、少なくなるかも知れないんですよね……」
不安そうにエレナが言葉にする。
(案外、早くにミトゥデルードの特殊能力を、使う羽目になるかも知れないわね……。能力もリスクも解ってないけど……)
心の中で、リスク覚悟で使用する決意するソフィー。
「ところで、アキお姉さんとエレナさんは、今日どこに行っていたッス?」
リズの問いかけにアキが、苦笑いしながら今日の行動を話す。
「本屋に敵情視察に行っていたの。一年ぐらい前から、ライバルとも言うべき漫画家さんが現れてね。”黒野☆魔子”って人なんだけど、その人の新刊が出ていないかチェックしに行っていたんだけど、いやー、世の中っていうのは広いね。いくらでも優秀な人はいて、いい作品がいっぱいだったよ。そりゃあ、売り上げも落ちるわって話です」
「売上落ちているの?」
「ここ一年からね。なので、半年前から普通の漫画を描いてみたり、ゴーレム造形に活かせればと思って、空いた時間にフィギュアを作ってみたりしているよ。マウンテンリバーって名義でね、ドラゴンとか格好いいデザインのゴーレムとか作ったよ。タイタン3号には、あまり活かせてないけどね」
「おおー、アキお姉さんがマウンテンリバー氏だったッスか!? 私、初期のドラゴンフィギュアを実家の自室に飾っているッス!」
「それは、ありがとう」
(あの怖いお人形のことかなぁ……)
ミリアはリズが以前、お詫びにと言って差し出してきた、トゲトゲのいっぱい付いた人形を思い出していた。
「じゃあ、今度お近づきの印に私の部屋にあるフィギュアをあげるね」
「本当ッスか! ありがとうッス、アキさん!」
アキが褒めてくれたリズにプレゼントを約束すると、その言葉を聞いたリズは、そのジト目を輝かせて感謝する。
そして、その様子を見ていた紫音は危機感を募らせる。
(いつも眠そうな眼をしたリズちゃんが、あんなに眼を輝かせてアキちゃんを見ている! しかも、いつの間にかアキお姉さんではなく、アキさんと親しみを込めた呼び方になっている! 私でも数週間掛かったのに……。こっ、これは……、ソフィーちゃんとミリアちゃんの時の再現では!!)
#####
「㋐:リズちゃん。お姉さんのこのトゲトゲのいっぱい付いたフィギュアが欲しいの?」
「㋷:欲しいッス……」
「㋐:欲しいッス、じゃないでしょう? もっと、お願いの仕方があるんじゃないの?」
「㋷:アキさんのトゲトゲのいっぱい付いたフィギュアをリズにください……」
「㋐:じゃあ、紫音ちゃんの事は忘れて、今日からは私のことを慕いなさいね」
「㋷:はい、あんな駄目なヒンヌーお姉さんの事なんか忘れるッス~」
#####
(いやーーーー!! リズちゃん、紫音お姉さんのことを忘れないで~!!)
紫音がいつもの通りに想像力豊かな妄想をして、一人で心の中で絶叫するとミリアにこう言った。
「ミリアちゃんは、私のことを忘れないでね~」
ミリアは紫音が突然悲しそうな顔でそう言ってきたので、少し戸惑いながらもこう答える。
「私は……、紫音さんのことは忘れません」
「ありがとう~、ミリアちゃん~!」
その返事を聞いた紫音は感極まって、ミリアに抱きつきながらお礼を言う。
「くっ、苦しいです……、シオンさん……」
そう言いながらも、憧れの紫音に抱きつかれて少し嬉しいミリアだった。
「こらー、シオン君! 君だけズルイぞ! 私もミリアちゃんを抱きしめたい!!」
それを見ていたミレーヌがそう言って、紫音越しに抱きしめてくる。
(ああ、私もあのように、お姉様に抱きつかれたい……。もしくは、抱きつきたい……)
その様子を見ていたソフィーは、緩んだ表情で色々想像していた。
(早く部屋に帰って、今日の戦利品を見たいな……)
その光景を見ていたエレナは欲望全開でいた。
しかし、それは仕方のないことである。それが、人間なのだから……
トロール軍の旗は本日21本。
しかし、この屋敷でそれを気にしている人間は、今は誰もいなかった。
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