106話 トロールが来ずにあの人が来た






 ここで最初にお詫びと訂正


 前回のタイトル ”105話 噂の真意を解明せよ!”となっていましたが、


 正しくは―

 ”105話 噂の真意を解明せよ! (ただし、解明されるとは言っていない(`・ω・´) キリッ )“


 でした。ここに深くお詫び申し上げます。



 ######


 トロールの噂話をみんなで推測した次の日、朝の訓練を開始しようと準備運動をしていたソフィーが、紫音に質問してくる。


「アキさんとエレナさんは?」


「二人でまた街の本屋さんに出かけたよ。なんでも、今日アキちゃんの新刊が出るらしくて、二人で買いに行ったの」


「じゃあ、昨日買いに行かずに今日行けばよかったのに」

「ソレは、ソレ。コレはコレなんだって」


 二人がその様な会話をしていると、自室で魔導書を読んでいたミリアが、少し怯えた表情で紫音の元に駆け寄ってきた。


「シオンさん……」

「どうしたの、ミリアちゃん?」


 ミリアによると、彼女が自室で魔導書を読んでいたところ、ふと窓の外を見ると屋敷の門の近くに不審者がいて、屋敷の中を覗いているらしい。


 紫音達がミリアの部屋から、気付かれないように屋敷の門の方を見ると、確かに怪しい人物が屋敷の様子を窺っていた。


「リズちゃん、イーグルアイをお願い。」

「了解ッス!」


 リズが紫音の指示通り、イーグルアイで不審者を観察する。


「確かに怪しい人ッス。頭にスカーフを被って、目はサングラスで、口はマスクで隠しているッス」


「顔を隠して変装しているなんて、怪しいなんてもんじゃないわね!」

「でも、どこかで見たことのある変装の仕方だなぁ」


 ソフィーのこの言葉に、紫音はこう言った後、暫く自分の記憶を遡る。

 すると、一人の人物が同じ様な変装をしていたことを思い出す。


「ミレーヌ様と同じ変装だ!」


「じゃあ、アレはミレーヌ様? …そんな訳ないわよね。自分の屋敷を変装して覗く必要ないもの」


 紫音がそう声を出すと、ソレを聞いたソフィーがそう口にする。

 彼女の言う通り、変装して自分の屋敷を覗く事はありえない。

 観察を終えたリズが、紫音に指示を仰ぐ。


「シオンさん、どうするッスか?」


 考え込むと、紫音はこう結論を出す。


「別に実害があるわけじゃないし、放って置いてもいいんじゃないかな?」


 紫音は日和ることにした。

「いいわけないでしょうが!」

「ですよね~」


 こうして、紫音はソフィーに怒られて不審者に接触することにする。


 紫音が右でソフィーが左から、リズがミーを連れて植木の影に隠れて、いつでも狙撃できるように待機すると、紫音は女神武器・天道無私を鞘から抜き、一度深呼吸してから不審者の斜め後ろから素早く近づいていく。


「中はどうなっているのかしら~」


 不審者が門の側から、ミレーヌの屋敷の中の様子を窺っていると、突然後ろから声を掛けられる。


「そこの怪しい人、そこで何をやっているんですか?!」

「あぅ!?」


 驚いて頓狂な声を上げた不審者は振り向くと、

 頑張って威嚇するような声を出して、刀を構えて立っている紫音がいた。


「わっ、私は……」

「変な動きしないでよ、怪しい人!」


 後ろから、二刀流でブレードを構えたソフィーがそう声を掛ける。

 不審者は驚きながら、警戒している二人にこう話しかけてきた。


「私は怪しい人ではないです~」


 発せられた声から、怪しい人物は女性のようだった。しかも、とても素敵な声の持ち主の……


「自分で怪しくないって人は、充分怪しいです。しかもそんな変装をしている人は!」


 紫音にそう言われた怪しい人は、一瞬ショックを受けたようだった。


(アレ? 前にも一度こんな会話したことあるような? しかも、この声に似た人物と……)


 紫音は再び自分の記憶を遡る作業を行い、声が一致する人物を導き出す。


「もしかして、フィオナ様?!」

「はい、私です。おひさしぶりですね、シオンさん」


 フィオナは変装を解きながら、紫音に挨拶してくる。


「おっ、おひさしぶりでしゅ、フィオナ様。」


 紫音は不審者が、まさかのフィオナに驚きを隠せず変な言葉になってしまった。


「シオンさん。とりあえず、その危ないものをしまってくれませんか? そちらの方も……」

「はっ、はい! すみません、フィオナ様!」


 紫音は、すぐさま刀を鞘に納刀する。


「ほっ、本当に総主教・フィオナ・シューリス様じゃない……!? もっ、申し訳ありませんでした、フィオナ・シューリス猊下!」


 そう言って、ソフィーは驚きながら慌ててブレードを鞘に収めると、頭を深々と下げて、彼女に謝罪した。


「そんなに、謝らなくてもいいんですよ。それだけ、私の変装が完璧だったということなのですから」


 フィオナがちょっとしたり顔でそう言う。

 すると、近づいてきていたリズが、無慈悲な一言を放つ。


「いえ、普通に不審者にしか見えなかったッス。」

「がーーーん! 不審者……」


 フィオナはリズのジト目だが、純真な瞳でそう言われたのでショックを受ける。

「駄目だよ、リズちゃんそんな言い方したら! こう見えても、すごく偉い人なんだから! 言葉には気をつけて!」


「こう見えても……」


 紫音の無自覚な言葉に、フィオナは少し傷つく。


「そんなに怪しく見えるでしょうか……?」


 フィオナが変装グッズを見ながら、そう自問していると紫音がフォローを入れる。


「まあ、印象の受け方は人それぞれですから……。それに、ミレーヌ様もその変装をしていたので、多分問題ないと思います」


「そう、私もミレーヌが初めてミリアちゃんがお使いをした時に、この変装で後ろから付いていったのを見て、この変装をすることにしたの」


(ミレーヌさん、あの時付いてきていたんだ……)


 その話を聞いたミリアは、複雑な気持ちになった。


「とりあえず、ここではなんですから屋敷の中へいらしてください」

「そうですね。では、まいりましょうか」


 紫音に促され、屋敷の客間に移動する。

 ミリアがメイドさんに頼んでお茶を用意してもらうと、それを飲みながら紫音達はフィオナと話を始めた。


「ちなみに、どうしてそんな変装をして屋敷の中を窺っていたんですか? ミレーヌ様を驚かせようとしたのですか?」


 紫音の質問にフィオナは、飲んでいたお茶の入ったティーカップを一度皿に置いて、こう答える。


「いいえ、今日来たのはアキに会うためです。あの変装もアキを驚かせる為なのです。だから、ミレーヌにもアキにも連絡はしていません」


(あの変装で会っていたら、驚いたアキちゃんが作り出したゴーレムに踏み潰されていたかもしれない……)


 紫音はそう思いながら、取り敢えず相槌を打っておくことにした。


「なるほど、所謂サプライズってやつですね」

「その通りです」


 フィオナは嬉しそうに答える。


「それはそうと、そのアキを先程から見かけませんが、この屋敷にいないのですか? 今はこの屋敷に泊まっていると、ミレーヌから聞いていたのですが……」


「アキちゃんは、今は本屋に行っています。暫くしたら、戻ってくると思います」

「そうですか……」


 紫音のその言葉を聞いたフィオナは閃いた! みたいな顔をしてこのような計画を言ってきた。


「では、あの子が帰ってきたら、この変装で驚かして……」

「やめたほうがいいと思います」


 紫音に即否定されたフィオナは、残念そうな顔をしている。

 それを見た紫音は、すぐさま彼女をフォローする言葉を口にした。


「そのままのお姿で会っても、きっとアキちゃんは驚くと思いますから……」


「そうでしょうか……。そうですね、久しぶりの再開ですし普通に会うほうが、いいかもしれませんね」


「です、です」


 紫音はすかさず相打ちを打つ。


「ところで、シオンさんは先程からアキをちゃん付けで呼んでいますが、それ程仲がいいのですか?」


「私とアキちゃんとは……」


 紫音は元の世界のことは一応伏せて、自分たちが幼馴染で三年前に別れ、そしてつい最近再会したことを話した。


「そうなのですか……。二人が幼馴染だったなんて、これもきっと女神フェミニース様の思し召しかも知れませんね。」


 その話を聞いたフィオナは、そう言うと手を組んで女神に祈りを捧げる。


(サプライズで感動の再開を演出してあげたいところだけど、少し懸念なのはBLを買い漁ったアキちゃんとフィオナ様を、そのまま会わせていいのかということだね……)


 紫音は二人の再会の時までに、どうするか考えることにした。


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