104話 街の噂





 山から下山した紫音とソフィーは、昼ご飯を食べた後に模擬戦を行なう事にした。

 ソフィーはさっそく山ガールコスの女神から貰った、ミトゥデルードを抜いて素振りしてみる。


「ほんと心配になるぐらい軽いわねこの武器。重さを利用した斬り方もあったんだけど、

 考え直さなくてはならないわね」


「でも、切れ味は抜群だよ。まるでバターを切るように斬れるよ!」


 我ながらいい表現ができたという感じで、紫音はちょっとドヤ顔でソフィーにそう言った。


「そんな使い回された表現を言って、ドヤ顔されても困るんだけど……」


 ソフィーはドヤ顔をしている紫音に、少しイラッとしたのでバッサリ切りすてる。


「がーーん」


 紫音は今日二度目のショックを受けるが、気持ちを切り替えると模擬戦を開始する。


「じゃあ、いくよソフィーちゃん!」

「いつでも来なさい!」


 二人は間合いを詰めると、素早い斬撃を数度打ち込みあう。


「武器が軽くなったせいか、斬撃が少し軽くなったかも……」

「やっぱり、そうなの?」


「うん、防御したときに手に掛かる負担が、軽くなった気がする」

「やっぱり、斬撃にもっとスピードを乗せるか、体重を乗せるかしないといけないわね」

「ガードされないように崩すか、高速で移動して隙を突くしかないね」


 二人は意見を出し合いながら、夕暮れまで模擬戦を続ける。

 次の日、朝食を済ませるとアキとエレナが、どこかに出かけようとしていた。


「二人共どこにいくの?」

「これから、エレナ氏と二人で敵情視察に行こうと思っていてね」

「そういうことです、シオンさん」


 紫音に声をかけられた二人は飢えた狼のような目でそう答える。


「敵情視察!? だったら私も行くよ!」

「これから行く戦場は、私達の戦いの場。紫音氏は別の戦場に、向かってくれたまえ」


 そう言って、二人はBLの話をしながら出ていった。


「そういう戦場か……」


 紫音はその言葉を聞いて、全てを察する。


「あの二人どこに行ったの? 獲物を狙う鷹のような眼をしていたけど……」

「BL売り場という戦場に、行くって言っていたよ」


「ああ、なるほど……」

「ソフィーちゃん。私達もリズちゃん、ミリアちゃんを誘って気分転換にお出かけしない?」


「はぁ!? 何を言っているのよ! それで、またお気楽に出かけて、街でまた何か事件が起きてなんやかんやで、またお姉様に叱られるビジョンしか見えないんだけど!?」


 ソフィーは昨日の件で、すっかり強迫観念に支配されていた。


「ソフィーちゃん。流石にそれは、考えが飛躍し過ぎだよ」

「とにかく今回は、私は行かないから!」


 彼女は断固拒否してくる。


「そうか……。じゃあ、ソフィーちゃんはお留守番だね」


 紫音は栞でリズとミリアに、街へのお出かけの誘いをすると二人も行くと返事がきたので、

 玄関で待って二人と合流することにした。


「じゃあ、行こうか」

「はい……」

「ナー」


「はいッス」

「ホ――」


 三人が屋敷の門まで歩いてくるとソフィーが追いかけてくる。


「ちょっと、待ちなさいよー!」

「ツンデレおねーさん、結局行くッスか?」


 リズのこの問いかけに、ソフィーがこのようなツンデレ回答をしてきた。


「アナタ達だけで行かせたら、帰ってこないかも知れないじゃない! そしたら、私がお姉様に”アナタが付いていながら、何をしていたの!”って、言われて怒られちゃうじゃない! だから、監視するために行くのよ! べっ、別に一人で寂しいからとかじゃあ、ないんだからね!」


(ツンデレ乙!!)


 そのため紫音とリズは心の中でそう思いながら、今回のツンデレノルマ消化を暖かい目で見ていた。こうして、四人で街に出かけることになった。


 紫音達が街でウィンドウショッピングをしたりして歩いていると、冒険者たちの会話や噂話が自然に耳に入ってくる。


 主な内容は今回のトロール軍のことで、その中でも興味を引いた内容が次のようなものであった。


「トロールが来ないのは、前回のリザードが惨敗したのを見て、人類の力に怖気づいているからだ。だから、奴らはもう要塞まで攻めてこない」


「トロールが進発するのは、旗が25本立った時だ」


「トロールが攻めてくるのは30本になって、万全の体勢になってからだ。女神の神託でも、そうなっているらしい」


 紫音達はカフェでその聞いた内容を話し合う。


「まったく、人の噂っていうのはいい加減ね……」


 ソフィーが少し呆れた感じで、そう会話を始めた。


「まあ、どれもこれも根拠は、なかったッスね」


 リズが続いて、そう分析した自分の意見を述べる。


「でも、25本っていうのはキリのいい数字だから、そうかなって思ってしまうよね。トロールが人類の力を怖れて、もう攻めてこないっていうのはあり得ると思う?」


「そうだと……、怖くなくていいです……」


 紫音の問いかけにミリアから、彼女らしい答えが帰ってくる。


「ないわね。過去に二体ではないけど一体の時に四天王を何回か倒したことがあったけど、その後も何事もなく獣人軍は攻めてきたわ。今更、一度に二体やられたからと言って、恐れるなんてことはないと思うわ」


 ソフィーは、今迄の獣人軍の行動からそう推察すると、その意見を口にして皆に聞かせた。

 一同が話を続けていると、声を掛けられる。


「みんなも街に来ていたんだ」


 声をした方向に振り向くとアキとエレナが立っており、二人は出かけた時の鋭い眼をした表情からほくほく顔になっていた。


(二人共、いい買い物が出来たようだね……)


 紫音が二人の表情を見て、そう思っているとアキから話を振られる。


「ところで、みんな何を真剣に話し合っていたの?」


 紫音達は街で聞いたトロールの話題について、話し合っていたことを二人に説明した。


「私達も聞きました。色々な憶測が飛んでいるようですね」

「これは、もしかしたら魔王側の情報操作かも知れないね」


「魔王側の情報操作?」

「漫画や物語でよくあるじゃない。敵に色んな情報を流して、混乱させるってやつ」


 アキのこの意見にみんなは疑問を持つ。


「でも、魔物が情報操作なんてするかしら? それに魔物の話すことなんて、誰も聞かないでしょう?」


 ソフィーの意見にアキはこう答える。


「人に変身できる魔物がいるかも知れないよ? その人に化けた魔物の話なら、聞くでしょう?」


「自分は人に変身できる魔物がいるなんて、聞いたこと無いッスけど……」


 アキの意見にリズが意見を述べると


「黒い仮面の女魔戦士……」


 紫音が以前自分を苦しめた相手を思い出して、ポツリとその名を呟く。


「そうか、確かにあの人なら装備を外せば、普通の人間に見えるッス!」

「うちのクランがトロールと戦っていた時に、襲ってきたやつのことね!」


「その人が、偽の情報を言いふらして、混乱させているということですか?」


 エレナがアキに問いかける。

「たぶん、そうだと思う。」

「何故そんな事をするの?」


 続けて紫音がアキに質問をするが、流石の彼女も思いつかないのか少し考え込んでしまう。

 そして、答えが出たのか口を開く。


「それは……」

「それは……?」


 そのアキの溜めにみんなが固唾をのむ。


「いや、そんなの漫画家の私に聞かれても……。BLのストーリー考察、カップル考察でいいなら、いくらでも語るけどね!」


「いや、結構です!」


 一同が声を揃えてお断りするが


「ぜひお願いします、先生!!」


 約一名が喰い付いた。



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