102話 急いで下山せよ!



 前回のあらすじ


 貧しい農婦の紫音は、病気の親友アキの病を治すために薬草を探しに山にやってきた。

 すると、薬草を探す紫音の前に山の女神様が現れた。


「私はこの山の女神。アナタの親友を思う優しい心に胸打たれ助けにやってきました」

「信じられない、ありがとうございます」


「アナタの願いを一つだけ、叶えてあげえましょう」

「ならば、大きな胸をください!」


 紫音はみなさんの予想通り、お約束のお願いを言いました。



 ##############



「キャンプで迎える山の朝も、いいものだね」

「そうね、清々しい気分になるわね」


 そう言いながら、朝ご飯を終えた紫音達は少しゆっくりしていると、ソフィーは“そうだ、今何時だろう?”と思い、【女神の時計】を鞄から取り出して、現在の時刻を確認する。

 時計の針は朝の9時10分を指していた。


「……」


 ソフィーが時計を見たまま、固まっている。


「どうしたの、ソフィーちゃん?」


 紫音のその問いかけにソフィーは、ツッコミ兼現在の状況を伝えた。


「どうしたも、こうしたも無いわよ! もう朝の9時じゃないの! 呑気に山の朝を満喫している場合じゃないじゃないわよ! 急いで下山準備するわよ!!」


「了解!!」


 紫音達は慌ててテントと寝袋を片付け、装備を付けて焚き火の始末を行なうと下山を開始する。


「間に合うかな?」

「トロールは行軍スピードが他の獣人より遅いから、間に合うはずよ」


 紫音のその問いにソフィーが自身の経験からそう答えた。

 暫く山道を降っていると、下の方から「ホ――」と聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。


「あの鳴き声はミーちゃんだ。リズちゃん達が迎えに来てくれたんだ」


 さらに、山を降りていくと紫音達を迎えに来たリズとミー、そしてエレナの姿が見えてきた。


「シオンさ~ん、迎えに来たッス!」


 リズ達と合流した紫音達に、エレナが心配して話しかけてくる。


「みなさん、無事でしたか?」

「うん。大丈夫だよ、エレナさん」


 安否を確認した所で、紫音は気になっていたトロールのことを聞く。


「トロールはもう進発したの?」

「まだ進発したという情報は、要塞からは来ていないッス」


「よかった。これで遅刻の心配はなくなったね」

「お姉様の私への評価も、地の底にはならずには済んだわね」


 紫音とソフィーは最悪の結果にならずに安堵する。


「ところでミリアちゃんとアキちゃんは?」


「ミリアちゃんとアキお姉さんは置いてきたッス。この登山にはインドア派の二人は、付いて来れそうになかったッス」


「この後のトロール戦に影響が出てはいけないので、麓でお留守番しています」


 紫音の質問に、リズがジト目でそう答えエレナが補足した。


「まあ、取り敢えず下山しましょうよ。早く帰って、シャワーを浴びたいわ」

「そうだね」


 ソフィーの意見に紫音が賛成すると、一同は屋敷に戻るため下山を再開する。

 麓まで降りてくると、ミリアとアキが待っていた。


「何事もなく下山して帰ってきてよかったよ。雨が降ってきた時は少し心配したよ」

「無事で、よかったです……」

「二人共心配掛けてごめんね」


 紫音は二人に心配を掛けたことを謝罪したその後、ソフィーがリズに質問する。


「ところで、よく私達の下山ルートがわかったわね?」


 そのソフィーの質問に、リズが頭の上のミーを見ながら答えた。


「それは、ミーの索敵機能のおかげッス。ミーは何でも電波? なるものを飛ばして、それが跳ね返ってきたのを受信して見つけたらしいッス」


 さすがのリズもレーダーは理解できないため、説明がやや不十分になってしまう。


「ただ、シオンさんとソフィーさんのフラットボディが、よく反射してくれたので探しやすかったって言っていたッス」


「ホ――」


 紫音とソフィーはそのリズの話を聞くと、無言のまま高速で移動して宙を浮いているミーを捕まえる。


「ホ―?!」


「この玉子梟! 自分だって寸胴玉子体型のクセによく言えたわね! 体型の事をアンタに言われたくないのよ!」


「世の中にはね、思っていても言っては駄目なことがあるんだよ。それをこれから覚えようね、ミーちゃん!」


 ソフィーと紫音はミーを捕獲したまま、その丸みを帯びた体を二人でペシペシ叩き始めた。


「ホ――(泣)」

「やめてッス、ミーを叩くのをやめてあげて欲しいッス、酷いッス」


 フラット姉妹にペシペシ叩かれているミーを見てリズが懇願する。


「人の体型を弄るなんて、この面白梟が生意気なのよ!」


「お姉さんはミーちゃんが憎くて、こんなことをしているわけじゃないんだよ。叩かれている方も痛いかも知れないけど、叩いている方も痛いんだよ!」


 そう言いながら、二人はミーをペシペシ叩いている。


「体罰反対ッス!」


 リズが詭弁を発しながら、体罰をするフラット姉妹にそう訴えた。


「体罰じゃないよ。悪い子にはね、お仕置きしないといけないんだよ。これはね愛のムチなんだよ」


「もう、ミーちゃんも反省したと思うので、許してあげてください」


 その様子を見かねたエレナが二人を説得する。


「まあ、これぐらいで勘弁してあげるわ」

「ホ――(泣)」


 解放されたミーは泣きながら(?)リズの頭に帰ってきた。


「ミーちゃん、今度からは気をつけるんだよ」


 紫音がミーにそう言うと、ソフィーが紫音にこう言ってくる。


「そうよね。人に迷惑掛けた悪い子には、お仕置きをしないといけないわよね。私に迷惑を掛けた悪いシオンお姉さんには、お仕置きを受けて貰うわよ」


「え!?」


 紫音はソフィーの不意打ちに驚く。


「勿論アナタもよ、アウラ」

「ふぇ!?」


「暫くそのプレートを、首から掛けて居て貰うからね」


 紫音の首から掛けられたプレートにはこのように書かれている。


 <私はヒンヌーのクセに余計なことを言って、ソフィーちゃんに迷惑をかけました>


「あうぅぅ……、見ないで! 今のこんな駄目なお姉さんの私の姿を、ミリアちゃんとリズちゃんは見ないで~!」


 そのため紫音は、年下二人に見られたくなかった。


「大丈夫ッス。自分はシオンさんの事は少し駄目なお姉さんだって、前から思っていたッス」

「がーーーん!!」


 リズの容赦のない言葉に、ショックを受けている紫音。


「リズちゃん、そんなこと言っちゃだめ……。私は……今までシオンさんの素敵な姿を、たくさん見てきたので……、だから、私にとっては変わらず憧れのお姉さんです」


「まあ、自分もシオンさんは頑張っている、頼れるお姉さんだとは思っているッス」


「ありがとう~、ミリアちゃん~! リズちゃん~! これからも二人に、憧れられるお姉さんでいられるように頑張るからね~」


 紫音は感極まって、涙目で二人に抱きついた。


「シオンさん……、苦しいです」

「すぐに抱きつくのは、やめて欲しいッス」


 三人のその様子を、エレナは微笑みながら見ている。


(よかったね、紫音ちゃん。深い絆で結ばれた仲間に囲まれて。この世界での、今までの行いが、間違って無かったってことだね)


 アキもその光景を、そう思いながら見ていた。



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