100話 テントの外には?
山頂での狭いテントの中、ようやく眠りについたソフィーは深夜、外から何かの気配を感じて目を覚ます。
「外に何かいるわ……」
ソフィーは外にいる何者かに備えるために、反射的にいつもなら枕元に置いてある武器に手を伸ばすがその手は空を切る。
「そうだわ、今日は外に置いてあるんじゃない!」
ソフィーは武器を持っている紫音とアフラを起こすことにする。
「ついに……、私の胸が……、Bカップに……、やったぁ……」
「どうせ大きくなる夢を見るなら、Dカップぐらいになるのを見なさいよ!」
ソフィーは右隣で寝ていた紫音の寝言に、ツッコミを入れながら彼女の体を揺すって起こす。
「ちょっと、シオン・アマカワ、起きなさいよ!」
体を揺らされて起こされた紫音は、半分寝ぼけながら自分の胸を押さえてこのような事を言い出す。
「アレ、おかしいな……、私のBカップがなくなっているよ?」
「いつまで寝ぼけているのよ!」
「ソフィーちゃん!? そうか、夢だったんだ……」
ソフィーは、1人落ち込んでいる紫音を取り敢えず放置して、左隣で寝ているアフラを起こす。
「ムニャ、ムニャ……。もう、食べられないよ……」
「こっちはこっちで、キャラどおりの寝言を言って……」
(そもそも気配察知能力は、アンタの様なキャラの方が上のはずでしょうが!)
ソフィーはそう思いながら、アフラを起こす。
「起きなさい、アフラ!」
ソフィーはアウラの体を紫音の時より、激しく揺すって叩き起こす。
「ふぇ!? 何、もう朝ごはん……?」
「違うわよ!」
起こされたアフラが、半分寝ぼけながらこれまたキャラ通りの言葉を言ったことに、突っ込んだ後ソフィーは再び紫音に目を向ける。
「酷いよ……、ぬか喜びさせるなんて……」
すると、彼女はまだ落ち込んでいた……
「まだ、落ち込んでいるの?! そんなに胸が急に大きくなるわけないじゃない。普通は夢だって気付くでしょう?」
「私だってこれがCやDだったら、夢だって気付くよ。でも、Bだったらワンチャン何かで、大きくなったかもって思っちゃうじゃない」
「思わないわよ!」
ソフィーと紫音の言い合いを聞いていた、アフラがソフィーに眠そうな声で尋ねてくる。
「ソフィーちゃん、何もないなら寝てもいい?」
「駄目よ、外に気配を感じるの!」
「外に気配!?」
アフラはソフィーからその言葉を聞くと、意識を外に向けて気配を探る。
「本当だ……、何かいるね」
「きっと、熊だよ! これは、一大事だよ。装備を早く着けて襲撃に備えないと!」
アフラの気配探知の結果を聞いた紫音はそう言うと、脱いでいた装備を慌てて体に装着し始める。
アフラもミトゥトレットを右手に装着する。
「どうしよう? 先手必勝でこっちからテントを出て仕掛ける?」
装備を着けた紫音は、ソフィー達の意見を聞く。
「そうね、テントの入り口を押さえられたら、テントから出るのが困難になるわ」
紫音はソフィーの意見を受け、テントの入り口のファスナーを少し開けて外の様子を窺う。
「入口付近には居ないみたい。じゃあ、行くね!」
紫音は刀を抜いて外に出て、辺りを見渡し気配の相手を探す。
アフラもすぐさま出てきて、紫音の背中に立つと彼女の死角をカバーして、同じく辺りを確認する。
「あれ? いないね……」
辺りを見渡した紫音が、何も居ないと不思議そうに話す。
「気配も消えちゃった……」
アフラも再び気配を探るが、今度は何も感じない。
二人が誰も居ないことを確認すると、丸腰のソフィーがテントから出てくる。
「どこかに、いったのかしら?」
そう言いながら、彼女は外に置いていた装備を見ると双剣が失くなっていることに気づく。
「無い! 私のブレードだけが2本とも無いわ!!」
「えっ!?」
ソフィーのその言葉を聞いた二人は、辺りにないか見渡すが残念ながら無かった。
「気配は泥棒だったってこと?」
「そういうことだったのかな……」
紫音の推測にアフラが、やや納得していない感じだがそう答えた。
「どうしてくれるのよ! 前日にこんな所でキャンプして、さらに武器まで盗まれるなんて、お姉様の私への評価はきっと地の底よ!」
ソフィーは頭を抱えて叫びだす。
「落ち着いて、ソフィーちゃん。まだ、盗まれたと決まったわけでは…。盗むなら防具も一緒に持っていくと思うし……」
紫音はソフィーを宥めようとするが、彼女は怒りで噛み付いてくる。
「じゃあ、私のブレードはどこに行ったのよ!? そもそもアナタがヒンヌーのくせに、山へ競争だなんて余計な事を言い出さなければ、こんなことにはならなかったんじゃない!!」
「ソフィーちゃん、ヒンヌーは関係ないよね?!」
紫音はソフィーの言葉のナイフで傷ついた。
「何も居ないから、もう寝てもいい?」
「アンタはこの状況で、どうしてそんなマイペースなのよ!」
アフラが眠そうに言うとソフィーは彼女の両肩を掴んで、そう言いながら激しく前後に揺さぶる。
「頭がフラフラするよ~」
ソフィーが錯乱して、触れるもの全てを傷つける”切れたナイフ”の様な状態で紫音やアフラに危害を加えていた所、背後から声を掛けられる。
「ソフィー、落ち着きなさい」
「誰よ!」
ソフィーが振り返ると、そこには後光が差した女性が立っていた。
「私はこの山の女神です」
「この山の女神様?」
山の女神様と名乗った女性は、服装が山の女神というより山ガールの服装で、頭に被った帽子に申し訳ない程度に鹿の角がついている。
「ミトゥース様ですよね? しかも、その格好は山の女神様というより、OLの休日の山ガールですよ?」
紫音がそう感想を述べると、アフラがこう言ってくる。
「違うよ、ミワトロのお姉さんだよ」
「二人共、静かに私は山の女神様です。いいですね!?」
ミトゥースは笑顔であったが、明らかに圧力を掛けてきていた。
「はい……、山の女神様…」
二人はミトゥースの放つ圧力に屈して素直に従った。
ミトゥースはコホンと咳払いをすると、ソフィーに語り掛ける。
「それでは、えーと、アナタが無くしたのはこのオリハルコンのブレードですか? それともこのミスリルのブレードですか? それともこの鋼のブレードですか?」
「私の無くしたのは……」
(ソフィーちゃん、正直に答えるんだよ! そうすれば、全部貰えるからね!)
紫音は心の中で、ソフィーに助言しながら見守った。
「というか、私のブレードを盗んだの、アナタじゃないの!?」
ソフィーは、ミトゥ山様を問い詰める斜め上の行動を取り始めた。
「ソフィーちゃん、そんな事をしたらダメー!!」
紫音は問い詰めようとしているソフィーを慌てて止める。
「何故止めるのよ、犯人かも知れないじゃない!」
「違うから! 多分そうだけど違うから! ちゃんと理由があるから!!」
「そうだよ、ミワトロ山のお姉さんは、私にミトゥトレットをくれたいい人だから、そんな悪いことするわけないよ!」
アフラと紫音がソフィーを説得する。
「二人がそう言うなら……」
3人がミトゥースの方を見ると、彼女はへそを曲げたのか居なくなっていた。
「ソフィーちゃんのバカー! せっかく山ガール様が来てくれたのに、帰ってしまったじゃない!」
紫音はソフィーの所為で、ミトゥースが帰ってしまったので彼女を叱りはじめる。
「ソフィーちゃん! 謝って、ミワトロ山のお姉さんに謝って!」
アフラも、ソフィーにミトゥースに謝るように促す。
「えっ!? 私が悪いの? 今のは、あの人の方が……」
「ソフィーちゃん! 謝って!!」
二人に言い続けられたソフィーは、だんだん自分が悪かったのかと思い始めて、謝ることにした。
「私が悪かったです……。ごめんなさい……、えーと、山の女神のお姉さん……」
すると、ミトゥースは木の陰からひょっこり現れた。
(そこに隠れていたんだ……)
紫音はそう思いながら、ミトゥースがひょっこり出てきた姿が少し可愛いと思った。
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