99話 テントで一泊



「きれいな星空だね……、空に近いからかな……」

「そうだねー、お腹へったね―」


 二人の会話はまるで噛み合っていない、あと雨が上がったがすっかり暗くなって下山できずに三人は山頂付近でキャンプすることになった。


 そして、こんな状況を作り出した紫音とアフラの二人は、枯れた枝を探して焚き火にするとソフィーがクリスに言われて常備していた【女神のテント(小)】を近くに設置する。


 紫音達はお互い持っていた非常食を出して、三人で別けて食べていた。

 その食事後、ソフィーがアフラに尋ねる。


「今更だけど、アフラ。アナタどうして、ミレーヌ様の屋敷に来たのよ?」

「えーと、何だったかな~」


 ソフィーの質問にアフラは少し考えると、急に思い出して紫音にこう言った。


「そうだ! 副団長に、シオンさんが栞に連絡しても返事がないから、私に直接伝えに行って来てって言われたの!」


「あー、そうだ。今日栞は充電していて部屋に置きっぱなしだったよ……」

「で? お姉様はシオン・アマカワになんて伝えるように言ったの?!」


 ソフィーが喰い気味でアフラに問いかける。


「うんとね、”明日のトロール戦に備えて、今日は屋敷でじっくり休養するように”だよ」


「もう……、手遅れだよ……」


 紫音とソフィーは焚き火を見ながら、揃えたように声を併せてそう呟いた。

 その頃、ミレーヌの屋敷にクリスが尋ねてきていた。


「ミレーヌ様、アフラを知りませんか? 昼間にこちらに伝言を頼んだきり帰ってこないのですけど……」


「ああ、それなら話に聞いているよ。何でも昼間にシオン君、ソフィー君と三人で山に向かって駆け出して行ったまま帰ってこないらしい」


 応対に出たミレーヌが、クリスにそう答えた。


(私としたことが、人選を誤った……)


「それにしても、ソフィー…… あの娘まで、一緒に駆けっこなんて……」

 見るからに気落ちしているクリスを見て、ミレーヌはそっと肩に手を置き慰めた。


 山頂の三人は、【女神のテント(小)】の中で【女神の寝袋】に包まって、眠りにつこうとしていた。が、【女神のテント(小)】はその名の通り、一人もしくは二人で過ごすためのもので、三人ではかなり狭くその為なかなか眠れずにいた。


「ちょっと、シオン・アマカワ! アナタもう少し寄れないの!?」

「装備があるから無理だよ、ソフィーちゃん」


「装備なんて外に出しなさいよ!」


「駄目だよ、こんな高価な装備を盗まれたら、アキちゃんにどんな事を要求されるか……」


「じゃあ、せめて足元に置きなさいよ」

「そうするね」


 紫音はミスリル装備と女神武器を足元に移動させる。


「仕方ない、私の装備はテントの外に置くわ。そんなに高価じゃないし。アフラ、アンタの防具もそんなに高価ではないでしょう?」


 ソフィーは自分の装備をテントの入口近くに出しながら、アフラに問いかける。


「うん。ミトゥトレットは大事だけど、防具はそうでもないからいいよ~」


 アフラはそう答えて、ミトゥトレット以外の装備を外に出した。


「アフラちゃんの、そのガントレットも女神武器なの?」

「これをくれたミワトロお姉さんが、違うって言ってたよー。だから、強い力が出せる代わりに、反動が大きいって」


「女神武器を使う資格が無いものが、強力な力を求めるなら代償を払えってことかしら?」


 ソフィーがアフラの話を聞きながら、自分の思ったことを話し更に続ける。


「でも、おかしな話よね。先祖が手に入れた武器は、選ばれればリスク無しで使えるのに……」


「そんなことないよ、ソフィーちゃん。少なくても私やリズちゃんは、次の日に筋肉痛で酷い目に合ったよ……」


「じゃあ、女神様は私達に強い力は与えるけど、その分リスクを払いなさいってことなの?」


(おそらく、フェミニース様はノーリスクで、強い力を与える気はないんだ。そんな事をすれば人間はすぐに魔王を倒して、また人間同士で争うかも知れない。魔王システムまで作って、そうさせないようにしているのだから……)


 紫音はそう考えながら、ソフィーにこう答えた。


「女神様は、きっと私達に頑張って平和を勝ち取れって言いたいんだよ」

「不親切な女神様よね……」


 ソフィーのその言葉に、フェミニースを尊敬している紫音はすぐさま反論する。


「フェミニース様は、厳しい所もあるけど優しいよ、ソフィーちゃん」

「どうして、そんな事アナタに解るのよ?」

「そっ、それは……」


 紫音はつい口走ってしまい、どう誤魔化そうか考え話題を強引に変えることにした。


「それより明日のトロール戦、間に合うかな……」


(アレだけ皆さんに釘を刺されたのに、今回も遅刻したら今度こそ駄目な子認定されてしまう……)


 紫音は話題を変えたのは良いが、その事を思うと気分が落ちてしまう。


「それよ! アナタが山に駆けっこしようなんて言い出したせいで、前日だというのに一緒に山の山頂でキャンプする事になったじゃない! きっと、この事を知ったお姉様の私への評価が落ちてしまっているに違いないわ!」


「別に私だけのせいでは……」


 ソフィーの責めに紫音はこう言い返す、するとソフィーからはこう返ってくる。


「アナタ一人のせいだとは言わないわよ。うちの能天気アフラのせいでもあるわよ!」


 ソフィーの怒りの矛先は、今度はアフラに向く。


「えー、わたし悪くないよ―」

「アナタがお姉様の伝言を忘れて、一緒に駆け出したのがいけないんでしょうが!」

「う~」


 伝言を忘れていたアフラは、自分の否を認めて言葉を返すことが出来なかった。


「ソフィーちゃんだって、最後は反対しなかったじゃない……」


 紫音がこう反論するとソフィーは、すかさずこう突っ込む。


「アナタがそもそも山まで競争しよう、なんて言わなければよかったんでしょうが!!」


「はい……」


 紫音はソフィーの正論に返す言葉がなかった。


「山を降りたら、アナタ達には私の評価が落ちた責任をとって貰うからね!」


「まだ、クリスさんの評価が下がったとは限らないと思うよ? もしかしたら、私達が山にいることすら、知らないかもしれないよ?」


 紫音のその発言にソフィーはこう断言する。


「あのお姉様なら、アフラが夜まで帰ってこない時点で、必ずミレーヌ様の屋敷に心配して確認しに行くはずよ。そこで、私達のことを聞いているに決まっているじゃない! だから、今頃は私への評価はアフラと同じ能天気娘よ!」


 ソフィーは涙目でそう答えた。


「ひどいよ、ソフィーちゃん! 能天気娘だなんてー!」


 アフラはソフィーの妥当な評価に抗議する。


「本当のことでしょうが!」

「まあまあ、二人共喧嘩はやめようよ」


「元はと言えばアナタのせいでしょうが!」

「ごめんなさい……」


 紫音の他人事みたな仲裁に、ソフィーの的確なツッコミが入り紫音は謝罪する。。


 こうして、山での夜は過ぎていった……


 ―かに見えたが、ソフィーは中々眠れないでいた。そこで紫音に質問する。


「そもそも、どうして山登り競争なのよ」


「私ね、実家に居た時に足腰を鍛える為によく裏山を走っていたの。こっちに来てからは、まだ山を走っていなくて、いつか走って鍛えようと思っていたの。それで、丁度いいかなって思って……。ソフィーちゃんはどんな鍛錬をしていたの?」


「私は屋敷の周りを走っていたわ。あとは、重りをつけて足に負荷をかけたりしてね」


「そうなんだ……。って、屋敷の周りって、ソフィーちゃんってお嬢様だったの?!」


「どう見たって、お嬢様でしょうが!」


(たしかに、ソフィーちゃんは服も髪型もお洒落だし、食事の時の行儀にも煩いし、そう言われれば見た目もお嬢様って感じがするかも……)


 紫音はそう思いながら、今度は彼女に逆に質問をする。


「でも、どうしてお嬢様のソフィーちゃんが冒険者なんかに?」

「別に珍しいことでもないでしょう? リズやミリアだってお嬢様じゃない」

「そうか……」


 紫音は二人がそんな態度を取らないため、名家の生まれであることをすっかり忘れていた。


「この世界では、名家は大抵先祖が武で功績を立て家名を上げていることが殆どだから、その先祖の名誉に恥じないようにと、その子孫の多くは冒険者か騎士団に入って自分も功績をあげようとするの、かく言う私もそうだしね。ただ、私は親が騎士団に入れって言うのを無視して、冒険者クランに入ったから今は実家とは疎遠だけどね」


(やっぱり、クリスさんが居たからなんだろうなぁ)


 紫音はそう思いながら、話の続きを聞く。


「団長があの王国騎士団の双剣カズマ・スギハラだから、絶縁まではされてないけどね」


「ソフィーちゃんは、兄弟または姉妹はいるの?」


「王国騎士団に兄がいて、今は王都の守備をしているわ。アナタはどうなの?」

「私は音羽って妹がいるよ。元気にしているといいけど……」


「妹さんも強いの?」

「音羽は早くに剣術修行をやめたから、そんなには強くないかな……」


 紫音が妹を思い出して、声に元気がなくなったのを察したソフィーは紫音を慰める。


「きっと妹さん、元気にしているわよ」

「そうだね、ありがとうソフィーちゃん」


「べっ、別に! アナタに気を使ったわけじゃないんだから! さっさと寝るわよ!」


 今日も最後まで、ツンデレ発言全開だった。

 そして、アフラはすでに一人夢の中だった。

 こうして、一日が過ぎると思われたが、さらにある出来後が起こる。

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