92話 新たなる力

 


 前回までのあらすじ……


 ケットさん大阪対尾張リザード戦。ホームであるフラムスタジアムでの試合、2-3で1点を追いかける浪速ケットさんは、後半20分で途中出場した天河紫音を投入するが、敵ミシシッピの激しい削りに紫音は苦戦するが、必殺のオーラバスターシュートを放ちミシシッピごとゴールへ叩き込んで1点を取り返す。


 ミシシッピは負傷退場(この世界から)し、残る強敵はエースのナイルのみ。

 果たしてケットさん大阪は、逆転することが出来るのか。


 それとも延長戦に突入するのか?


 紫音が【女神武器】の特殊能力を使って、リザード軍四天王ミシシッピを倒した頃―


 ナイル相手に孤軍奮闘していたユーウェインの持つ、グラムリディルに取り付けられた女神の宝玉も輝き始め、紫音の時と同じ声が聞こえてくる。


「この声は……、新たな力を授ける!?」


 ユーウェインは当初は戸惑ったが、女神の宝玉の輝きを見て他の【女神武器】の特殊能力発動時と同じであることに気付く。


「この宝玉の輝きは、女神が遂に私のグラムリディルにも、特殊能力を授けてくれたということか!」


 そして、自分の体に剣から強力な力が入ってくるのを感じる。

「我が盟友が受けた借り、今こそ返させてもらうぞ!」


 ユーウェインは、左腕のボロボロになったラウンドシールドをナイル目掛けて投げつけ、ナイルが剣でそれを払った隙きに、右腰に差した予備のオリハルコンの剣を左手で抜いて、二刀流でナイルに突進する。


「ブキガヒカッタダケデ、ツヨキダナ、ニンゲン!」


 ナイルが右手の武器で突進してくるユーウェインに剣を振り下ろすと、ユーウェインも左手のオリハルコンの剣で、斬撃を繰り出しナイルの斬撃に対抗する。


 本来ならナイルの右手の強力な斬撃に、ユーウェインの左の斬撃では押し負けて彼のほうがダメージを負っていたはずであった。


 だが、今の彼の左の剣には風属性の最高位魔法剣トルネイドが溜められており、互いの剣が激突したと同時に、強力な竜巻が発動しナイルの斬撃の力と武器を持った右腕を、高速の渦巻き状の上昇気流が上へと押し上げたのであった。


「バカナ!? コンナキョウリョクナマホウヲ、イツケンニタメタトイウノダ!!」


 ナイルの疑問のとおり、最高位魔法剣は溜めるのにかなりの時間を有し、敵と接触する前に溜めておくか、盾で防ぎながら時間を稼いで使用する。


 現に先程の戦いで、彼は紫音に注意を引いてもらいその間に、氷属性の最高位魔法剣フリーズを溜めて放っている。


 ナイルはそれを見ていた為、最高位魔法剣はないと思い完全に油断していた。


 グラムリディルの特殊能力のお陰で、ユーウェインは戦闘能力アップと魔力ブーストを受けているため、少しの時間で魔法剣トルネイドを溜めることが出来たのであった。


「ブキガナクテモ、オレニハ、コノシッポガアル!!」

 ナイルはすぐさま体を捻り、遠心力の効いた強力な尻尾の一撃をユーウェインに放つ。


「今の私は戦乙女をも凌駕する存在だ!!」


 ユーウェインはそう言うと左の剣を捨て、その強化された身体能力で素早く高くジャンプして尻尾の一撃を回避する。


 そして、先程トルネイドで上空に飛ばしたナイルの鉈のような刀身を持った剣を、空中で左手に掴む。


「はあああ!!」


 ナイルの武器は本来なら人間では重くて扱えないが、今の強化された彼なら武器の重さを利用して振り下ろすことぐらいはでき、そのまま落下してナイルの右肩に一撃を与える。


「グオオオォォ……」

 ナイルは自らの武器を肩に受け苦痛の声を上げる。


「これで、止めだ! 魔法剣フリーズ!!」


 ユーウェインは最後に右手に持ったグラムリディルに魔力を込め、氷属性の最高位魔法剣フリーズをナイルに放つ。


 弱点である氷属性の最高位魔法剣フリーズをまともに受けたナイルは、巨大な氷の柱に断末魔をあげるまもなく一瞬で閉じ込められ氷と共に砕け散った。


 ユーウェインは、ナイルが姿を変えた魔石を見ながらこう呟いた。


「お前の分も借りは返しておいたぞ、スギハラ……」

 その瞬間、何かが喉からこみ上げてきて咄嗟に手を当ててそこに吐き出す。


 口に当てた掌を見てみると、それは吐血だった。

 女神武器の身体強化による負荷が今に来て彼を襲う。


「この程度の体への負荷に耐えられんとは……」


 ユーウェインはそう言うと、その場に膝を付いて倒れそうになるが、地面に剣を突き立てその剣に寄り掛かるようにして、何とか倒れないようにしている。


 司令官である自分が倒れると、士気に影響があると思ったからである。


 彼は高級回復薬を何とか鞄から取り出し、負荷によって受けたダメージの回復をおこなう。


(この特殊能力は、今の私では諸刃の剣だな……。使う時はよく考えねばならないな……)


 ユーウェインは、回復薬を飲みながら新しく得た強力ではあるが、使い所の難しいこの力のことを思案していた。


 時を同じく、ミリアの母の形見である【女神武器】グリムヴォルも、先端に取り付けられた女神の宝玉が輝き始め、声が聞こえてきた。


「この声……、ハンニャー仮面のお姉さんの声だ……」


 ミリアが聞き覚えのある声に、親しみを覚えているとケットさんが

「ナー」と鳴いて、ミリアにグリムヴォルを構えるように促す。


「え? 魔力を込めるの?」

「ナー」


 ミリアはケットさんの更なる指示に従い、構えたグリムヴォルに魔力を込める。


 すると、構えたグリムヴォルの先端に付いた女神の宝玉が、更に輝きを増して彼女の魔力を大幅に強化しMPもブーストさせ、そのMPをミリアはグリムヴォルに注ぎ込んでいく。


 ミリアの膨大な魔力が、注ぎ込まれたグリムヴォルの宝玉の前に魔法陣が現れる。


 この世界の攻撃魔法は強力ではあるが、魔法陣は相手の足元に現れたり頭上に現れたりで、タイミングがずれると命中しにくいという不便さがあった、なので杖の前に魔法陣が現れるのはかなり特殊である。


 ミリアが魔力を注ぎ続けていると、「ナー」とケットさんが鳴いてミリアに魔力注入を止めさせる。


「あっ、うん、もう辞めたほうがいいんだね?」


 ミリアはケットさんの忠告を受けて魔力注入をやめる、彼女はケットさんのお陰で紫音のように魔力を使い切って、気を失うという事態を避けることが出来た。


「ナー」

「この魔法の名前、光魔法”フォトン”っていうの?」


 ケットさんはミリアの問いかけに頷く。


 そのミリアの様子を見たエドガーは、兵士たちに向かって大声を出して指示を出す。


「ミリア君の前にいるものは今すぐ退避せよ!」

 エドガーは魔法陣の位置から、前方に放たれるものだと予測したからであった。


「光魔法フォトン!」

 ミリアは味方が前方から退避したのを確認するとそう唱えて、魔法を発動させる。


 すると、グリムヴォルの宝玉の前に展開されている魔法陣から、光り輝く巨大な球状の光の塊が放たれる。


 巨大な光の球は、着弾点までの進行方向に居たリザードを消し去りながら、飛び続けて着弾点に到着すると周りに居たリザードを巻き込んで大爆発を起して消滅した。


「凄い威力……、怖い……」

 ミリアは自分の放った魔法のその威力を見て、漠然とした怖さを感じた。


 ケットさんが止めたとはいえ、かなりのMPを消耗した彼女はふらついて、その場に座り込んでしまった。


 その光景を見ていたエドガーが、先程の魔法を分析していた。


(今のが、伝説の光魔法フォトンか? アレがウルスクラフト家に伝わるグリムヴォルの力か……)


 ミリアは失った魔力を回復するために、高級魔法回復薬を少し飲むが苦いので、一口飲んだ所で飲むのを躊躇してしまうが、ケットさんが前脚で器用にミリアの口に無理矢理押し込んで飲ませる。


「ひどいよぉ、ケットさん……」

 ミリアは涙目でケットさんに訴える。


「ナー」

 ケットさんは、 “私は甘やかさないわよ”といった感じで尻尾を振って答えた。


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