91話 立ち上がれ、仲間の為に







 ミシシッピの連撃を刀で受け続けた紫音は、遂に両手に力が入らなくなって刀を両方落としてしまう。


「あっ……」

「モラッタ!!」


 その頃―


「わたくしのティーカップが!」


 アリシアが恒例のティーカップ壊しを行っていた。


「アリシア様、ティーカップ壊しすぎでしょう? 力を入れすぎているのでは?」


 ミレーヌがそう突っ込むと、アリシアはこう反論する。


「ミレーヌ様、いくらなんでも失礼です! それではまるでわたくしが、オーガみたいな馬鹿力を出しているみたいではないですか……。これは、わたくしとシオン様の絆が、離れているシオン様のピンチを知らせてくれているのです!」


 アリシアが遠い戦場にいる紫音に思いを馳せているのを見て、ミレーヌは少し呆れ顔でいた。そして、更にそのミレーヌの様子をエルフィが、こう思いながら上司を見ていた。


(前回アナタもティーカップ壊して、同じような反応していたじゃないですか……)


 すると、感のいいミレーヌが自分をギロッとした目で見てきたので、仕事をしている振りをして誤魔化す。


 ミシシッピが紫音に止めの一撃を放とうとした時―!


「シールドチャージ!!」


 カシードが大盾を構えて、ミシシッピ目掛けて横から突進してくる。

 ミシシッピは、不意を突かれたが回避する。


「今のうちにシオンちゃんを!」


 カシードは、大盾を構えてミシシッピを牽制しながらそう叫ぶと、アフラが紫音を肩に担いで、脱兎のごとく後方に逃げて行った。


 ソフィーは紫音が落した【女神武器】天道無私、鈴無私を回収するとその後を追う。

 ようやく戦っていたリザードを倒したクリスとエスリンが、カシードと合流してミシシッピの前に立つ。


「少しの間、相手をして貰うわよ!」

「女神の裁きを受けよ!」


 カシードは、内心二人の援軍にホッとする。

 紫音はアフラに担がれながら、薄れゆく意識の中で考えていた。


(こんな強い敵は、ユーウェインさんや他の強い人に任せればよかったんだ……)


 その紫音の思考に、聞いたことのある優しい女性の声が介入してくる。


 <他の人に任せれば、その人が傷つく。それが嫌だから、頑張って戦ったのでしょう?>


(でも、私では力不足だった……。結局私ではいくら頑張ったって、無理なんだ……。魔王を倒すなんて出来ないんだ……)


 <そんなことはないでしょう? そのためにアナタは今まで、努力してきたではないですか……>


(いくら努力したって、私では天音様のようにはなれないんだ……)


 <では、諦めるのですか? 天音のように成りたいというアナタの夢を……>


(それは……)


 <諦めて、このまま休みますか? まだ、仲間が戦っているのに……>


(それは……)


 <大切な仲間が傷つき倒れても、このまま眠っているのですね?>


(そんなのは……)


 <自分では無理だと諦めて、どうせ生き返るからと、仲間を死なせてもいいのですね?>


(そんなのは嫌……)


 <魔王が、アナタの大事な人達を全て死なせてもいいんですね?>


(そんなことはさせない!)


 <では、再び戦う意志はあるのですね?>


(はい! でも、今の私ではみんなを守れない……。違う、なんとしても守るんだ!)


 紫音は、そこで目を覚ます。

 目の前には心配そうに回復魔法を掛けるエレナと、同じく心配そうに覗き込んでいるソフィーとアフラがいる。


「シオンさん、よかった……。本当によかった……」

「エレナさん……」


「目を覚ましてよかった~、心配したよ~」

「アフラちゃん……」


「心配掛けるんじゃないわよ! まったく……」

「ソフィーちゃん……」


 紫音は立ち上がろうとすると、少しふらつくがソフィーとアフラが慌てて体を支えてくれた。


「さっきまで倒れていたんだから、無茶するんじゃないわよ」

「二人共ありがとうね」


 ソフィーの定番のツンデレ心配発言に対して、紫音はそうお礼を言う。

 紫音はしっかりと立つとソフィー達に質問する。


「ところで、戦況はどうなっているの? あの二刀流の四天王リザードは、どうしているの?」


「戦況はまだ一進一退です。兵士さんが回復しては、すぐに別の人が負傷者として運び込まれてきます……」


 エレナが、紫音に戦況があまり良くないことを説明する。


「あの四天王は、今はハゲ先輩と副団長と四騎将の人が戦っているよ」

「でも、あのスピードに苦戦しているみたいね…」


 アフラとソフィーの説明どおり、三人はテールステップのスピードに苦戦しているようだ。


「団長はまだ眠っているわ」

「お寝防さんだね~」


「ユーウェインさんは、まだ片腕のもう一体の四天王と戦っているわ」


 ユーウェインは、片腕になったナイルと何とか互角に戦っていた。


「救援に行くなら、クリスさん達の方だね…」


 紫音は高級オーラ回復薬を飲みながら、決意に満ちた表情でそう発言する。


「アナタ、さっきあんなにコテンパンにされたのにまた行くの?!」


 驚きと心配の混じった表情で尋ねてくる。


「確かに、怖くて嫌だけど……。でも、このまま何もせずに傍観していて、三人が倒されてしまうのはもっと嫌だから!」


(本当にコレがオーガの少拠点の時に一戦して、すぐに帰ろうと言いだした人と同一人物なの?! 今のシオン・アマカワ…凄く素敵に見える……。だっ、駄目よソフィー! アナタには(以下略))


 ソフィーはそう思いながら紫音に、さっき回収しておいた【女神武器】を渡す。


「ありがとうソフィーちゃん。拾っておいてくれたんだね」


 紫音はソフィーにお礼を言って、【女神武器】を受け取ると、腰に差して再び前線に向かう。

 そのあとをソフィーとアフラも続いて走っていく。


「シオンさん、気をつけて」


 エレナが今日二度目の前線に向かう紫音の安全を祈る。


「成長したね、紫音ちゃん。昔なら心が折れてリタイアだったのに……」


 アキがそう言いながら、エレナに近寄ってきた。


「アナタはさっきヒュドラを倒した、ゴーレム使いの……」

「波乱万子こと、オータム801です」


「オータム801先生!? 神降臨、神降臨!」


 エレナは大ファンのオータム801の登場に大興奮する。



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