76話 親友の過去 その1




 前回のあらすじ


 アキが睡眠不足によるハイテンションで、実況風に話し始める。


「おーと、紫音ちゃんは、三度目の寝落ちに入ってしまいまいた!」

「しゅーらば! しゅーらば!」


 同じく睡眠不足によるハイテンションで、カリナもおかしくなる。


「おーと、会場から修羅場コールだ!」

「しゅーらば! しゅーらば!」


「彼女はすっかり夢の中じゃないか! 起きる気配がまったくないじゃないか! もう、手伝う気がないじゃないか!」


「女神の栞に抗議の連絡が殺到しております! 深夜です、おかけ間違いのないように!」


「ベッドで寝かせてあげてー」

「抗議の連絡が殺到しております! 深夜です、おかけ間違いのないように!」


「紫音ちゃんぐらい寝かせろー! ベタなんてゴーレムでも出来るじゃないか!」


「しゅーらば! しゅーらば!」

「そして、鳴り止まない、修羅場コール!」


「おーと、流れ星だ! ベッドで寝たいと願えばよかった!」

「願い叶わず、作業場の椅子で一泊!」


      (激闘! オータム801御殿 第7夜より抜粋)


 ##############



 朝起きると椅子で眠っていたせいか、紫音の腰など体のあちこちが痛む。


(私いつの間にか寝てしまったんだ、原稿はどうなったんだろう?)

「アキちゃん! 寝てしまってごめんなさい! 原稿は大丈夫!?」


 アキの座っている机を見ると、彼女は力なく真っ白になって椅子に座っている。


「燃えた、燃え尽きた……。あばよ、ダチ公……」


 そう言ったアキは首がガクッとなって、それから動かなくなる。


「嫌だよ、アキちゃん! せっかく、会えたのにまたお別れだなんて!!」


 紫音がそう叫びながら、抜け殻のようになったアキに近づくと彼女は「スー、スー」と寝息をたてて眠っていた。


「なんだ、びっくりしたぁ。寝ているだけか……」


 彼女は徹夜明けで、寝てしまったようだ。


「寝かせてあげてください。ここ三日程徹夜だったものですから。まあ、そこまで原稿を仕上げなかった先生の自業自得ですけど……」


 カリナはアクビをしながら、完成した原稿を原稿袋に入れている。


「カリナさんは、大丈夫なんですか?」


「元冒険者なので、体力には自信がありますから。一度戦死してしまって、それで恐くなって引退しましたが……」


「それで、編集者さんになったんですか?」


「はい、先生の作品に出会って、是非一緒に作品を作りたいと思いまして」


 カリナは、原稿を袋に詰め終えるとアキを抱えて、ベッドのある彼女の部屋まで連れて行く。


「アマカワさんも一緒に付いて来てください。部屋に案内しますから、そこでもう少し休むといいですよ」


「はい、ありがとうございます。あと私のことは紫音と呼んでください」

「わかりました、シオンさん。では、いきましょうか」


 二人は部屋に行くまで話し合う。


「先生のお友達ということは、シオンさんもやはり我々と同じ― 」

「違います」


 紫音は最後まで聞かずに即否定する。


「では、シオンさんはその隣の部屋をお使いください」


 アキの部屋の前まで来ると、カリナは隣の部屋を使うように言ってくれた。


「カリナさんは、休まないんですか?」

「そうですね、私は二時間ほど仮眠をしてから、原稿を街の印刷所に届けようかと思います」


 紫音はアキの隣の部屋に入ると、もう少し眠ることにする。


 どれくらい寝たかわからないが、目が覚めた紫音はアキが起きたかどうか隣の部屋の様子を伺うと、まだ眠っているようであった。


 すでにカリナは御殿にはおらず紫音は、お腹が空いたが勝手に食べるわけにも行かないので取り敢えず携行食を少し食べて、二刀流の訓練をしながらアキが目覚めるのを待つことにする。


 紫音が庭で二刀流の稽古をしていると、ようやくアキが起きてきて紫音に抱きつく。


「どっ、どうしたの、アキちゃん!?」


「目が覚めて家の中を探しても紫音ちゃんがいないから、昨日の再会が夢だったんじゃないかって思って……!」


「ごめん、アキちゃん……」


 アキは落ち着くとお腹が減ったのか、紫音にも空腹でないかを尋ねてきた。


「紫音ちゃん、お腹減ってない?」

「うん、もうお腹ペコペコだよ」

「じゃあ、食堂に行こう」


 辺りはすっかり夕焼けに染まり紫音とアキは家に入ると、食堂に向かい夕食の用意をする。


「アキちゃん、ご飯作れるようになったんだ」

「まあ、もうこっちに来て三年だからね」


「私も、この三年で料理を覚えたんだよ」

(花嫁修行でだけど……)


 紫音とアキは食事をしながらお互いに質問しあう。


「ところで、アキちゃんのペンネーム、オータム801って何?」


 アキはその質問にこう答える。


「描いている内容が内容だけに流石に本名は不味いと思って、でも自分の名前ももじりたい、そこで私の名前は亜季、アキ、秋は英語でオータム。ということでオータム801にしたの。あっ、801はヤオイからね」


(あー、以前の自分の推理は当たっていたのか……)


 紫音がそう思っていたら、今度はアキから話を振ってきた。


「この前の要塞防衛戦で、活躍した黒髪の新人冒険者シオン・テンカワの名を聞いた時、もしやとは思ったけど、紫音ちゃんがこっちの世界に来ているなんて思っていなかったから、紫音ちゃんの偽名とは思わなかったよ」


「アマカワの名前は、こっちだと面倒なことになると思って」


「そうそう、私も天音様の話を聞いた時はびっくりしたよ。それにしても、本名を名乗っていてくれたらもっと早くこっちから会いに行ったのに」


「なるほど、こっちの世界に来てから大冒険だったんだね。それに沢山の素敵な人とも会ったんだね。つまり……」


 アキは紫音の今までの冒険の話を聞くと、獲物を狙うような眼で紫音の話を纏め直す。


「強引な王子アリーシス、普段目立たない同僚エレン、ツンデレのソーフイ、元気なアフル、いつも冷静な副団長クリム、頼れる兄貴分スギハシ、クールな司令官ユーイン、後輩の少し生意気なリズルと内向的なミリオ。いや、ミリオは実は本当は鬼畜という方が、キャラとしてはいいわね……。そして、三年振りに再開した幼馴染のアキト! 新シリーズ、クオン総受け! これはいいわ、久しぶりに創作意欲が、アイデアが湯水のように湧いてくるわ!! 早速ネームを描こうかな!」


 三年で腐女子から貴腐人に進化した親友は、隙きあらば腐らせてくる。


「やめて、アキちゃん! 私の大事な冒険の思い出を、勝手に腐らせないで!! あと、ミリアちゃんは本当に良い子だから、ミリオは辞めてあげて!!」


 紫音はその飢えた貴腐人に、半泣きになりながら懇願する。


「ところで、詩音ちゃんはどうして私がオータム801って思ったの?」


「知り合いが持っていた漫画の表紙を偶然見て、以前にアキちゃんに見せてもらったモノに絵が似ていたから……。それで、かな……」


 紫音はエレナの名は伏せておくことにした。


「そういえば、紫音ちゃんには見せたことあったね」

「その知り合いが、アキちゃんの漫画の大ファンなの!」


「そうなんだ、じゃあ今度何か漫画をプレゼントするよ! その人のお陰で紫音ちゃんと再開できたわけだしね!」


「ありがとう、きっと喜ぶよ!」

「それに、たまには別の人ともBL談義したいしね。フフ腐腐腐……」


 紫音は自分のこれ迄の話をあらかた終えたので、今度はアキの今までの話を聞いてみることにする。


「今度はアキちゃんの話を聞かせてよ。どうしてこっちの世界に来たのか、三年間どうして過ごしていたのかを……」


「そうだね……、どこから話そうかな。女神様に会ったところからかな」


 アキは紫音に自分の事を聞かれると、少し考えてから三年前の話を語り始める。


「あれは三年前、私は気づくと神殿のような場所にいたの」

「私と同じだね」


「”私は確か秋葉原でBL本を買い漁って、それから……“と、私が独り言を言っていると後ろから声を掛けられたの」


「ミトゥース様?」


 紫音の質問にアキは頷く。


「私が誰か尋ねると、“私は、あなたが生きていた世界の管理を100年前から大神様により任されている女神のミトゥースです”と答えたわ」


「ソレ私も言われたよ。あの言葉、ミトゥース様の自己紹介のテンプレだったんだね。しかも、私達が想像する女神様の格好をしていないから、びっくりするよね」


 紫音は、ミトゥースに初めて会った時の印象をアキに語った。


「そうそう、あの紹介を受けないと、このOLさん何を言っているのだろうって思っちゃうよねぇ。まあ、聞いても暫く疑っていたけどね」


 アキは脱線してしまった話をもとに戻す。


「その後に“あなたはそんなに若くして死んでしまったけど、未練はないのかしら?”って聞かれたの」


「私もそんな感じのこと聞かれたよ。それで、アキちゃんはなんて答えたの?」


「私は、”今回買い漁った戦利品を、もといBLを読みたい!!”と答えたよ」


 紫音はその答えを聞いて呆然とした。




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