77話 親友の過去 その2
アキは思い出しながら話を続ける。
ミトゥースは、アキから思わぬ答えが帰ってきて一瞬戸惑ったがそこはできるOL女神、すぐさま冷静に質問を続けた。
「もっと、他にあるでしょう? やり残したことがあるとか、将来の事とか……」
「将来の夢とか考えた事なかったのでなんとも……。それよりも、今プレイしていた”俺とお前の学園パラダイス”をクリアしていない事の方が心残りです!」
アキのブレない答えに、できる後輩女神は顔を引きつらせながら、何とかいい言葉が出てこないか頑張る。
「いやいや、他にこう……、そう、例えば家族の事とか……」
「家族の事ですか……。確かに先に死んでしまって……、多分すごく悲しんでいると思います……。でも、今回私が死んでしまったのは、私の責任ではないですし……」
アキは残った家族のことを思うと、流石に胸が痛くなった。
ミトゥースはさらに誘導する。
「それに、親友とかどうかしら?」
「紫音ちゃんかぁ……。確かに、紫音ちゃんは以外とヘタレで不器用なんで、まともに友達が作れずに、親友と呼べる存在が私以外にいないから心配といえば心配です……」
アキは紫音の事を聞かれ急に寂しそうな表情を浮かべた
「紫音ちゃんは優しくて良い子だから、私の死を自分が私の誘いを断らなかったらって思っているかも知れない……。それにホントヘタレだから私の死に、きっとすごく悲しんでいるはず……」
アキは家族の事と、大事な親友のことを想い涙する。
ミトゥースは親友のことで涙を流すアキに再び尋ねた。
「家族の事と親友の事で泣いている、今のその他人を思いやる気持ちを踏まえて答えなさい。何かしたかったこと、将来の夢はないかしら?」
「女神様、一つありました、将来の夢……」
「何かしら!?」
「BL作家になりたいです! 私の紡ぎだす物語で、世界の同志達をキュンキュンさせたかったです!!」
「もう、それでいいわ……」
アキの返事を聞いたミトゥースは、彼女に少し投げやりにそう言うと、ミトゥースは手から不思議な光を放ち光の通路を作り出す。
「私のあとに着いてきなさい……」
そして、そう告げると光の通路を作り出して、その光の通路を困り果てた顔で歩み始めた。
暫く光の通路を歩いていると、目の前に大きな扉が見えてきてその前で、ミトゥースはアキに例の説明を始める。
「この先に私の大先輩にあたる、別の世界を管理する素晴らしい女神がおられるの。けっして粗相の無いようにね」
先程のやり取りで、ミトゥースはアキを警戒して紫音の時より厳しめの声で注意した。
ミトゥースはブラウスの首元のボタンを外すと、扉を4回ノックする。
アキはその様子を不思議に思いながら黙って見ていた。
すると扉の中から、「どうぞお入りなさい」と凛々しい女性の声が返ってくる。
「失礼します。ご命令により山川亜季を、連れてまいりました」
部屋に入ると、ミトゥースは背筋を伸ばしかしこまった感じで部屋の主フェミニースにそのように用件を報告した。
「ご苦労さまです、ミトゥース」
そう言いながら、フェミニースは2人に近づいてくる。
「始めまして亜季。私は女神フェミニース、あなたの居た世界とは別の世界の管理と、そこにいるミトゥースの教育係を任されている……」
そこまで言い終わると、フェミニースはミトゥースが入室前にわざと外したブラウスのボタンが外れていることに気付く。
「ミトゥース、服装はきちんとしなさい。私達にとってこの服は鎧のようなものです。男達と競い合う職場という名の戦場に、アナタは装備を怠って出向くのですか? それでは、男達に負けてしまいますよ!」
フェミニースはミトゥースのボタンをはめ直しながら厳しく、そして優しく諭すように注意した。
「はい、申し訳ありませんお姉様……」
「職場では先輩と呼びなさい、ミトゥース」
「はい、申し訳ありません。せんぱい~」
フェミニースは、働く女性としての意識が低い後輩にまた注意するが、嬉しさの絶頂のミトゥースには聞こえていなかった。
(この後輩女神様、意外と策士だね……)
その光景を見ながらアキはそう思って、浮かれているミトゥースを見つめている。
そして、フェミニースは浮かれるミトゥースを放置し、本来の用件をアキに説明し始めた。
「亜季、あなたがここに連れて来られたということは、アナタが私の試験を合格したということです」
「試験? 何の事ですか?」
「お姉様、実は……」
ミトゥースは慌てて、フェミニースの耳元で先程のアキと自分のやり取りを報告する。
「そうですか……。まあ、いいでしょう」
(いいのですか!?)
ミトゥースは存外試験の合格ラインが低いことに驚くが、それよりも敬愛するフェミニースの顔が近くにあることに大興奮した。
(ああ、お姉様の顔がすごく近い! ある意味ありがとう、あんな酷い試験結果を出してくれた山川亜季! アナタのお陰で報告という大義名分で、お姉様の耳元に近づくことが、できたわ~)
浮かれる後輩女神を無視して、フェミニースはさらに説明を続ける。
「ここからが本題なのですが、私の管理する世界にあなたを転生させます。そこで、世界が認めるような活躍する女性となって欲しいのです。つまり、アナタに第二の人生を与えるということです」
アキはその言葉を聞くと驚きこう呟いた。
「第二の人生……、異世界……」
「お姉様の世界では女性は、男性にも負けないよう女神の祝福という身体強化が付与されるの。但し神として不平等になってはいけないので、心根の正しい男性にもある程度女神の祝福は付与されるわ。さすがはお姉様、まさに愛の女神!」
(できれば、その愛は私だけに……。だっ、駄目よ、ミトゥース! アナタは女神なのよ、そんな一人よがりな事を考えては駄目よ! 女神の愛は等しく与えられなければいけないのだから!!)
愛に生きる後輩女神が、心の中で葛藤している間にアキがフェミニースに質問する。
「あのー、もしかして魔物が出たりしますか? それを強化した力を使ったり、魔法を使ったりして倒さなくてはいけない世界だったりしますか?」
「そうです、私の世界では魔物がいます。しかし、よくわかりましたね?」
フェミニースの質問にアキは冷静にこう答えた。
「ラノベとかアニメのテンプレ的な設定なので、もしかしてと思いました」
「そうですか……。では、魔物を束ねる魔王がいることも……」
「あー、やっぱりいるんですか。まあ、身体強化してくれる世界なら、難易度的にいてもおかしくないかとは思っていましたが……」
あまり動じないアキにフェミニースは少し戸惑いを覚えながら、冷静な顔は崩さずアキの次の質問を聞く。
「ちなみに、身体強化というのは俺TUEEEできるぐらいチート強化してもらえるんですか?」
アキのその質問にフェミニースは、毅然とした態度でこう答える。
「いえ、私はそのような強力な力は与えません。そのように、始めから強い力を与えられてそれで活躍して、誰がアナタを心の底から認めてくれるのですか? あなたが努力を惜しまず自分を成長させ、活躍するからこそ初めて他人に認められるのです! ですから、アナタには人より少しだけ強い強化を与えます」
「あっ、じゃあ転生してもらわなくてもいいです。このまま、成仏させてください」
アキはあっさりと異世界転生を断り、それを聞いた女神達は驚く。
そんな女神達に、アキはその理由を淡々と語る。
「だって、普通の中学生の私がその程度の強化で、そんな世界でなんの頼りもなく一人で生きていくなんて無理です。それで、打倒魔王! なんて考える女の子は、余程自分に自身があるか、能天気な子ぐらいだと思いますよ」
※三年後に女神に言いくるめられた、能天気な親友が打倒魔王に旅立ちます。
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