65話 新たなる武器







 代理石で創られたゲートを抜け、しばらく木々の間の道を進む。

 初めてこの世界に来た時に歩いた道を、再び歩いていることに紫音は感慨深さを感じていた。


 あの時、自分にも親友が出来るかどうかと、心配して歩いていた紫音であったが今は違う。


(親友にはアリシアとエレナさん、大切な仲間にはミリアちゃんにリズちゃん、頼れる人にミレーヌさんにクリスさん達がいる。それにお手伝いしてくれるソフィーちゃん、アフラちゃんがいる。思えばとてもいい縁に恵まれた、これもフェミニース様のお陰かな…)


 そんな事を考えながら歩いていると、二つの大きく立派な墓が見えてきた。

 フィオナが墓の前に立つと説明を始める。


「このお墓がアマネ・アマカワ様のお墓です」


【女神武器】はどこに?

 そう質問しようとしたが、この大きな墓石の中だよねと自己解決させ、墓石の周りを歩いて観察してみた。


「言い伝えでは、子孫なら封印が解けるようになっているとのことです」


 フィオナが教会に伝わる言い伝えを語る。


「墓石の後ろに、何か文字が彫ってあるわ」


 クリスは墓石の後ろに、彫っている文字を紫音に指差す。

 紫音は墓石の後ろまで来て、書かれている文字を見る。


「これ、日本語だ。えーと……、“墓石の金属板に気を込めろ”かな?」


 文字は日本語だったが、江戸時代のものであったため、紫音は解読に苦労した。

 紫音は墓石の前に戻ってくると、碑銘の書かれているプレートにオーラを込める。


 すると、プレートが子孫のオーラであることを認識すると下にずれて中に大小二振りの刀と、手紙が一つと剣術書が収められていた。


「これが、天音様の【女神武器】……」


 天音の【女神武器】は大小共に鍔と刀身の接地部分に宝玉がはめ込まれている。

 本来ならこんな所に宝玉などはめ込んでいたら、分解も出来ないし何より強度が下ってしまうが、神秘の力で造られた【女神武器】は問題ない。


「天音様、大事な刀お借りします」


 紫音は墓に手を合わせお参りすると、墓から刀を取り出す。


 墓から取り出した大小二振りの刀は、【女神武器】特有の金属の輝きを鍔や柄から放っており、何より女性の腕力でも二刀流できるぐらい軽かった。


 紫音は早速大小を腰に差すと、深呼吸して精神を落ち着かせてから大小を同時に鞘から抜く。


(これが【女神武器】……。刀の目利きでない私でも、名刀だということが解るぐらい綺麗な刀身だ。そして、やはりかなり軽い。私の腕力でも片手で楽に扱うことが出来る)


「おめでとうございます、シオンさん。【女神武器】に無事選ばれたみたいですね」

「おめでとうシオン。これで、武器の心配をせずにオーラ技を使えるわね」


「お二人共、ありがとうございます」


 二人に礼を行った後、紫音は自分の懸念を口にする。


「ただ、私は二刀流に慣れていません。元の世界では私の腕力では、二刀流なんて無理だったので、あまり練習していないんです。一応は流派に二刀の型と技はあるのですが……」


 紫音は思い出しながら、二刀の型から技を放ってみる。


「確かに少しぎこちないわね。でも、こればかりは慣れと修練を積むしか無いんじゃない? または、無理して二刀流に拘らず大きい刀だけで、今まで通り戦うかね」


 クリスの意見を聞きながら、紫音は技を使い続けて見る。


「やっぱり軽いなぁ、これちゃんと破壊力あるのかな……」

「それは、大丈夫よ。【女神武器】は軽いけど切れ味は抜群よ」


 自分の【女神武器】使用経験を紫音に話すクリス。


「それより、一緒に納められているプレートと書物はなんなのでしょうか?」


 フィオナが興味津々といった顔で紫音に問いかける。

 紫音はそのフィオナの姿を見て、刀を鞘に収めると手紙を読むことにした。



 ”この手紙を読む者がいるとしたら、私の未来の子孫だとフェミニース様に聞いて不思議な因果を感じますが、私の【女神武器】を見てきっとあなたも戸惑っていることでしょう。


 私も頂いた時は戸惑いました。我らの流派である天河天狗流は一刀の技が大多数であり、二刀流は一応存在しますが、元の世界では2刀流は重くて扱えずにいたからです。


 おそらく、これを読んでいる子孫も同じ境遇だと思っています。そこで私はこの世界で私自身が、長年かけて得た二刀流の技を記した書を残すことにします。


 どうか魔王討伐に役立ててください。あと、私の【女神武器】の名は打刀が私の名である天音の天を取って【天道無私】、脇差が妹の鈴音の鈴を取って【鈴無私】です。


 それでは、我が子孫である貴方に武運があることを祈ります。 天河天音“


「天音様、ありがとうございます。刀と剣術書は大切に使わせていただきます」


 紫音は手紙と剣術書を鞄にしまうと、下っていたプレートを元の位置に上げて再び両手を合わせる。


 クリスとフィオナも、それぞれの宗教で黙祷を捧げた。


「では、目的も果たしましたし、そろそろ帰りましょうか?」

「そうですね」


 紫音達は墓を後にする。


(今度ここへ来る時は、魔王を倒した報告を大切な仲間達と一緒にできたらいいな)


 帰りの木々の間の道を歩きながら、紫音はそう理想の未来への思いを馳せながら、そう出来るように頑張ろうと心の中で決意していた。


「ところでお姉様、どうして天音の武器は二刀流だったのですか?」


 一方天界では、着替えを済ませミトゥナカイから後輩女神に戻ったミトゥースが、フェミニースに質問する。


「一本で強いなら、二本のほうがもっと強いはずでしょう?」


 フェミニースがそう答えた。


(お姉様それは違います。単純に一本から二本になったからと言って、剣術では強くはなれません)


 そう思ったミトゥースだったが、勿論嫌われたくないので称賛する。


「さすが、お姉様! なんて思いやりのあるお考えなのでしょう! でも、紫音は不器用そうなので、あの子用の武器を与える時は一本の方が良いかも知れませんね」


「確かに紫音は少し不器用な所があるから、その方がいいかもしれないわね」


 フェミニースを賛美しつつ、ちゃんと紫音のフォローもする出来る後輩女神であった。

 紫音は帰り道にフィオナに例の質問をしてみる。


「オータム801という漫画の作者さんを知っていますか?」


「ごめんなさい、存じないですね。どうして、その質問を私に?」


「その人の漫画が、最初王都のフェミニース教会に仕える一部の修道女さん達の間で、流行ったらしくて」


「そういえば、二年半ぐらい前に何か読み物が流行っていたみたいですが、みなは私には見せてくれなかったので、どんなモノだったかまでは……。タイトルは見たことありますよ、確か “男子限定、温泉―」


「フィオナ様はそれ以上思い出してはダメです!」


 紫音はフィオナの記憶の呼び覚ましを止めさせる。


「はい、わかりました……」


 彼女のその迫力にフィオナは大人しく従った。


(危ないところだった。もう少しでフィオナ様が思い出したタイトルから興味を持って、そっちの道に目覚め、その罪で私が異端審問にかけられ死刑にされるところだった)


 少し飛躍しすぎている気がしたが、そうならないとも限らない。


(何故ならばアキちゃんが言っていた、”BLの嫌いな女子はいない!”と!)

(※あくまでアキの個人的な意見です)


 紫音はオータム801のことは気になったが、もうこれ以上は聞く事をやめようと思った。


「フィオナ様、ありがとうございました」


 紫音は馬車に乗り込むフィオナに今回の礼をする。


「いいえ、貴方が困った時に力になると言ったはずです。それに、貴方が力を得れば魔王打倒に一歩近づくはずです。それはこの世界が平和に近づくということです。頑張ってくださいね、シオンさん」


「はい」


 紫音が返事すると、フィオナは笑顔で馬車に乗りその場を後にした。


 後ろの窓から彼女が手を振っている。

 紫音も馬車の姿が、見えなくなるまで振り返した。


「それでは、私達もアルトンに戻りましょう」


 クリスが紫音に促すと、「はい」と返事が帰ってくる。

 一同は馬車でアルトンの街へと来た道を帰ることした。




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