64話 波乱尽くめ







 翌朝――

 朝食を済ませたリズ達は、屋敷を後にすることにした。


 リズは両親達と暫くの別れの挨拶をすると屋敷をでる、勿論リズの頭の上にはミトゥルヴァが乗っている。庭を歩いて門を目指す途中、エレナは庭の惨状に気付きリズに尋ねた。


「昨日の爆音の正体は、コレだったんですね」


「そう言えば、エレナさんもアフラさんも部屋から出てきていなかったッス。気にならなかったんスか?」


「わたしは、一度寝ちゃうとなかなか起きないんだー」

「わっ、私はフェミニース教の教典を読むのに夢中になっていたので……」


 アフラはそう答え、エレナは慌てながら答えた。

 リズの実家の門を抜けると、ミリアの鞄の中からケットが出てきて彼女の肩に乗る。


「ミリアちゃん、その猫のようなものは何ですか?」


 エレナがケットに気付いて、その存在について問いかけた。


「この子は……、フェミ・ローズ様から頂いたものです……。名前はケットっていいます」

「フェミ・ローズ様?」


「フェミ・ローズ様は、サンタ・ローズ様のさらに上位存在だと言っていたッス。ミリアちゃんが良い子なので、プレゼントを持ってきたって言っていたッス」


 リズが咄嗟に設定を付け加え説明する。


「その人、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫ッス、信頼できる人ッス!」


「リズちゃんが、そこまで言うなら……」


 エレナはリズの自信に満ちた返答を聞いて、この事は後で紫音に相談することにして、今は納得しておくことにした。


 リズは頭の上のミトゥルヴァに話しかける。


「ところで、ミトゥルヴァ。咄嗟の時にアナタの名前は呼びにくいので、”ミー”と略して呼んでいいッスか?」


「ホ――、ホ――」


 その提案にミトゥルヴァは、リズにしかわからない鳴き声でこう答えた。


「えっ? ”リズはお子様で仕方ないからいいよ”?!」


 リズはミトゥルヴァが、自分をお子様扱いしたことに対し少し頭にきた。


「アナタみたいな玉子梟に、お子様扱いされたくないッス! 自分だってそんなファンシーな姿のくせに!」


「ホ――」


 ミトゥルヴァが怒ってリズの頭を、丸みを帯びた嘴で突っつく。

 リズもポカポカと叩いて反撃する。


「喧嘩はだめですよ」


 エレナがミーを捕まえて引き離そうとする。


「ナー」


 すると、その前にケットが鳴き声を出して、素早くミ―に飛びつく。


「ケット……、ダメ……」


 ミリアが引き離そうとするが離れない。


「ケットの捕食者の血が騒いだんだね」


 アフラがその様子を見て、呑気にそう意見を話す。


「両方とも動物では無いですけどね」


 エレナがアフラの意見に冷静に突っ込む。


「ホ――(泣)」

「ナー」


「ケット、ミーを虐めないであげて欲しいッス」


 リズがそう言うと、ケットは軽快にジャンプしてミリアの肩に戻る。


「ホ――」


 すると、ミトゥルヴァがリズの頭に逃げてきて、彼女は慰める。

 そうしている間に、リズとミトゥルヴァはすっかり仲直りした。


 ミリアがその様子を見て


「もしかして、二人を仲直りさせてくれたの?」


 ミリアが肩に戻ってきたケットにそう小さな声で尋ねると、「ナ―」と一声だけ鳴いて答える。


 その表情は”ヤレヤレ、手のかかるお嬢さん達ね……”と、見える気がしないでもないが、何せ可愛いくデフォルメされた顔なので真偽は不明である。


 その頃、紫音一行は三日目に泊まったグリース村の宿で一波乱起きていた。


「あら、どうしたの、ソフィー。随分と眠そうな顔をして?」


 クリスは明らかに寝不足で、機嫌の悪いソフィーに質問する。


「眠れなかったんです! このベッドのせいで!!」


 ソフィーはそう答えながら、バンバンと自分の寝転がっているベッドを手で叩く。


「そもそも、この三日間ずっと四人部屋じゃないですか! 宿についた途端お姉様が、“ツイン? 馬鹿云わないで。シングル? とんでもない、四人部屋で!”て、部屋を選ぶものだから!」


「しょうがないでしょ、お金がないのだから」


 ”月影”はお金に余裕のないクランであった。


「でも、この宿には四人部屋が丁度空いていなかったから、ツインの部屋に無理矢理ベッドを二つ足してもらったわ」


「クリスさんの交渉術凄かったです、勉強になりました」

「ありがとう、シオン」


 紫音がクリスの交渉術を思い出し感動している。


「で、その足されたベッドが明らかに質の悪いベッドで、誰が寝るかジャンケンで決めたじゃないですか?」


 ソフィーの言葉の後に紫音が話に入ってきた。


「それで私とソフィーちゃんが、ジャンケンに負けて質の悪いベッドになったよね」


「仕方ないと思って、私はこの質の悪い今シオン・アマカワが寝ているベッドで寝ようとしました。するとシオン・アマカワが、“ソフィーちゃん、そっちのベッドと変わって欲しいなぁ”って、言ってきたんです! シオン・アマカワって距離感おかしい時あって、その時も顔をすごく近づけて、お願いしてきたんです。この人近くで見るとすごく素敵で……、ドキドキしてしまって、それで思わず了承してしまったんです……」


 昨夜のそのシーンを思い出して、顔を赤くしてソフィーが話す。


「そしたらこのベッド、スプリングが体にあたって痛いんですよ! こんなベッドでは私は眠れないんですよ! おかげで寝不足なんですよ!」


「ごめんね、ソフィーちゃん。そして、ありがとう」


 紫音はソフィーに謝り握手した。


「馬車の中で寝ればいいじゃない」

「うちの馬車は、乗り心地最悪じゃないですか!」


「しょうがないでしょう、お金がないんだから……。その内に割の良い依頼受けないとね……」


 クリスが経済面で苦労している姿を見て、紫音は他人事とは思えなかった。


 グリース村から聖墓に向けて、馬車を操つるノエミは警戒しながら馬車を走らせる。

“月影”所有のこの馬車は、大量人員輸送目的のため中は縦長に広いが乗り心地は悪い。


 寝不足のソフィーは、なんとか寝ようとしていたが眠ることが出来なかった。

 聖墓に到着した時、ソフィーはKOされていた。


「ソフィーはもうダメだって。やられたから、馬車の中で居るって言っているわ」

「ソフィーちゃんは、ノックアウトですか……」


 聖墓の前には、フェミニース教のマークが付いた馬車が一台停まっている。

 その中から、フィオナ・シューリスが出てきた。


 紫音とクリスがフィオナに向かって歩いて行き、ノエミは馬車から周りを警戒している。


「フィオナ様、お久しぶりです」

「はい、お久しぶりですシオンさん」


 フィオナに近づくと紫音は、再会の挨拶をして話を続けた。


「お忙しいところを、わざわざすみません」

「いいえ、大丈夫です」


 クリスも続けて、挨拶する。


「お久しぶりです、フィオナ総主教猊下」

「お久しぶりですね、クリスティーナさん」


 三人は挨拶を済ませると、聖墓の入り口にある代理石で創られたゲートまで歩みを進めた。


「それでは中に入るため、聖墓の結界を一部解除します」


(ここ、結界が張られていたんだ…)


 紫音は初めてきた時に、自分がここを通った時に感じた違和感は、結界だったのだと知る。

 フィオナが結界に手をかざすとその手が輝く。


 すると、目の前に結界が光の壁として視認できるようになり、その光の壁に一人通過できるぐらいの穴が作られた。


「では、中に入りましょうか。素早く入ってくださいね、結界が元に戻ってしまうので」


 そう言って中に入るフィオナに続いて、紫音とクリスも後を追うように素早く中に入る。

 紫音の慎ましやかな胸は、【女神武器】をもう少しで手に入れられるという思いで、高鳴っていた。

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