33話 一致団結しよう
翌朝―
紫音は朝食後、自分の部屋にエレナ、リズ、ミリアを呼んで昨日考えた事を、エレナと打ち合わせした通りに説明をはじめた。
エレナはコホンと軽く咳払いをすると、紫音と会話を始める。
「シオンさん、今日は何をするのですか? 自主訓練ですか??」
「違います」
「では、外に魔物退治をしにいくのですか?」
「いえ、リズちゃんの矢弾が足りないので出来ません」
(この茶番は、長くなるかも知れないッス…)
リズは年上二人が、明らかに芝居がかった説明を始めたので、このように思いながら質問することにした。
「あのー、明らかに台本通りの説明で、まだまだ続く感じッスけど、結果だけ聞くってことは駄目ッスか?」
「リズちゃん。昨日お姉さん達が頑張って、夜遅くまで打ち合わせした説明だから、優しい気持ちで聞いてほしいかな!」
「そうなんッスか。それなら、続けてくださいッス…」
”リズはそんな打ち合わせをしたのだから、要点を纏めて欲しかった”と思いながら、年上二人の茶番に付き合うことにする。
紫音とエレナは、打ち合わせ通りに会話を続けた。
「では、何をするのですかシオンさん?」
「今私達がするべきことは、PTが一致団結し、四人の輪を作り、絆を深めることだと思うんです!」
エレナは紫音のこの提案に少し大げさに相槌を打つと、こう話を切り返す。
「なるほど、それは大事ですね。どうやって一致団結するのですか?」
「この街の周囲を、文字通り輪を描いて歩きましょう!」
「えっ、それってどういう事ッスか?」
二人のお姉さんが発した言葉を聞いたリズは、思わずそう言葉を発してしまう。
リズの質問に紫音とエレナはこう答える。
「街の周囲を歩きながら、親睦を深めよう! ついでに体力もつけようという企画だよ。お昼とおやつにはエレナさんの作った美味しいご飯とお菓子もあるよ」
「まあ、ピクニックですね」
お姉さん二人は楽しそうに話をしているが、リズは正直心配な事があった。
「あのー、水を差すようで悪いスけど、この街の周囲を歩くってことは5~6時間はあるくことになるッス。そうなると引き篭もりミリアちゃんが、体力が尽きて途中でリタイアするのは分かりきっていますけど、そうしたらどうするッスか?」
「がーん」
ミリアは親友の的確な分析に反論できず、ショックを受けてしまう。
だが、ミリア自身も確かに心配なところではあった。
「それなら、ミレーヌさんに頼んである物を借りておいたから大丈夫」
紫音達はそう言って、外に年下達を連れ出すと屋敷を出た所に、1人で引くことができるサイズの木で作られた荷車が停めてあり、その荷台の部分には木の車輪からの衝撃を和らげる為に、柔らかそうなクッションが設置されている。
「ミリアちゃんが疲れたら、この荷車に乗って休憩すればいいよ」
「できるだけ… 自分で歩くようにがんばります…」
ミリアは意気込みを語った。
リズは思いの外、親友がヤル気を出したので拒否できなくなってしまう。
「では、出発!」
荷車にお弁当を積み込むと紫音は、元気よく出発の号令を言って、荷車を引っ張りピクニックの開始を宣言した。
紫音達は街の周囲を雑談しながら歩く。
気温も天気も良くて、格好のピクニック日和であり、いつの間にかリズも悪くないなと思い始めていた。
三時間たった時点でミリアに疲れが見えてきたので、紫音は遠慮するミリアを荷車にお姫様抱っこで強制的に乗せる。
四時間が経った所で、丁度お昼ご飯の時間になったので、ランチを取ることにした。
荷車に積んでいたシートを広げて、そこにエレナが作ったお弁当を並べる。
「エレナお姉さんのお弁当、すごく美味しいッス」
「とっても美味しいです……」
「ありがとう、リズちゃん、ミリアちゃん」
相変わらず、エレナさんの料理は美味しい。
今度、料理を教えて貰おうかなと思う紫音だった。
四人はお腹が満たされ、さらに昼の陽気で眠くなってしまい一時間ほどシートの上で昼寝をする。
「お昼寝もして休息もバッチリだし、午後も頑張ろう!」
「「「おー!」」」
紫音の再開の言葉に、一同は自然と声を揃えて応えると四人は再び歩き出した。
昼休憩から1時間が経った頃、エレナが紫音にこう申し出る。
「シオンさん、荷車を引っ張るのを代わります」
「でも……」
「大丈夫です。私、田舎育ちなので体力には自信があるんです」
紫音はエレナの厚意に甘えることにした。
「では、エレナさんお願いします」
エレナが荷車を引っ張っていると、リズがこう言って後ろから荷車を押しだす。
「エレナさん、私も荷車を引っ張るのを手伝うッス」
(もっと体力をつけて、みんなの役に立てるようになろう)
ミリアも手伝おうとしたが、気持ちだけで十分と言われてしまいこう思うのであった。
” 何だろう……、すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を“
”今確実に私達は一致団結している……“
紫音達がそう感じて歩いていると、後ろから大きな声で誰かが声を掛けてくる。
「やっと見つけたわよ、アンタ達!」
四人が後ろを見ると、赤い髪をツーサイドアップにした、ツリ目の年齢は17歳ぐらいの気の強そうな少女が立っていた。
「誰!?」
四人がそう思っていると少女は続ける。
「なんで街の外を荷車なんか押して歩いているのよ! おかげで朝からずっと探す羽目になったじゃない!!」
突然現れて大声で捲し立てるツンツン少女。
そして、一番後ろを歩いていてその少女の近くになってしまったミリアは、その大声で捲し立てる彼女にびっくりして涙目になってしまう。
「あぅ……」
涙目になって怯えるミリアに気付いた少女は
「ああ、ごめんなさい。びっくりさせるつもりはなかったのよ」
慌ててミリアを困った感じで宥め始める。
(悪い子じゃなさそうだ)
紫音達がそう思っているとリズが、その少女に対して物怖じせずに質問する。。
「ところでツンツンお姉さん、何の用ッスか?」
「誰がツンツンお姉さんよ!」
そう言われた少女は一呼吸置くと、腰に手を当ててこう言い放つ。
「まあ、いいわ。私はソフィー・ディアーニュ! クラン「月影」所属って言えば、私が来た理由が分かるんじゃない? シオン……、何とかさん!」
どうやら名字までは覚えていないようだ。
「クラン「月影」ということは、スギハラさんの意趣返しってところかな?」
紫音がソフィーと名乗った少女に尋ねると、彼女はこう答える。
「別に団長が負けたとかは、私はそれほど興味ないのよね……」
「では、クランの面子的なことかな?」
「まあ、そんなところかしら」
(本当はそれも別にどうでもいいのよね……。私がアナタと戦いたいのは、アナタを倒せばお姉様が私を認めてくれるからよ!!)
ソフィーの目的は憧れている副団長のクリスに認めてもらうことにあった。
彼女が「月影」に入っているのも、彼女の側に居たいからである。
ツンデレちゃんは、両腰に装備していた少し小振りの片刃のサーベルを抜くと、二刀流で構えた。
「まあ。殺し合う気はないから、お互い峰打ちでいきましょう。まさか、逃げないわよね!?」
ソフィーは刃の部分を返して構え直す。
(まあ、殺し合いじゃないなら、色々な人と戦うのはいい経験になるかな……)
彼女の少し挑発的な言葉は置いておき、実戦経験を積みたい紫音は彼女の挑戦を受けることにする。
「いいよ、殺し合いじゃないなら。みんな、少し離れていて!」
そして、紫音は刀を抜くと、そう返事をして峰を返して構えた。
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