34話  スピード勝負!





 紫音とソフィーは、お互い間合いを取りながら相手の様子を窺う。


「このまま、にらめっこしていてもしょうがないわね!」


 先に動いたのはソフィーであった。


 ソフィーは紫音に向けて突進すると、紫音の眼の前で高速で切り返し彼女の視界から一瞬にして消える。


「速い!!」


 紫音は一瞬彼女の姿を見失ったが、動体視力を駆使してソフィーの動きを捉えた。

 しかし、既に紫音の斜め後ろでサーベルを振り上げており、紫音は何とか初撃を刀で防ぎ、二撃目も防いだ。


(非力な女の子が、片手持ちしているから斬撃が軽いな… でも、移動スピードは速い! 私もかなり速いほうだと思うけど、彼女は私と同じかもっと速いかも……)


 彼女の斬撃は軽いため、まともに受けても手に衝撃はなく平気であった。


(私の動きに反応した!?)


 ソフィーはこのスピードで相手を翻弄して、隙を突いて連撃を入れる戦法を得意としており、この戦法で戦果をあげていた。


 そして、このスピードに反応できる者は少なく、こんなダメそうなポニーが反応できるとは思っていなかったので、心の中で驚いてしまう。


「やっ、やるじゃない! でも、ここから本気で行くんだから!」


 だが、ソフィーが攻撃をしようとする前に、紫音が先に動いた。


「あのスピードを出される前に先に行く!」


 紫音はソフィーに向けて突進すると、ソフィーの眼の前で高速で切り返し彼女の視界から一瞬にして消える。


「私と同じ動き!?」


(しかも、スピードも私と同じくらい速いじゃない!)


 紫音はソフィーの後ろから、袈裟斬りを繰り出す!


「オーラステップ!」


 ソフィーは、足に溜めたオーラで地面を力強く蹴って急加速する技、”オーラステップ”で攻撃を回避すると紫音の斬撃は空を斬る。


「!?」


 紫音は空振った刀を構え直すと、ソフィーの動きを追う。


 ソフィーは紫音を中心に、円を描くように高速移動し隙を窺っている。

 彼女は意を決し、紫音に向って間合いを詰める!


「ファントムステップ!」


 ソフィーはオーラステップによる超加速で左右にステップし、残像を生み出し相手を撹乱する応用技”ファントムステップ“で、紫音を撹乱してその隙きを突く。


「もらった!」

「オーラステップ!」


 紫音はソフィーの斬撃が当たる寸前に、超加速でバックステップし残像斬撃を回避する。

 スライム戦の時におこなった掌にオーラを集める要領で、ソフィーが隙を窺いる間に足の裏にオーラを集めいていたのだ。


 だが、うまく集められなかったので少しの距離しか移動できなかった。

 そのためバックステップの着地と同時に、”攻撃は最大の防御”とばかりに前に出て、ソフィーの追撃に斬撃で対抗する。


「やあっ!」


 ソフィーは続けて左で斬撃を放つ!


「はあっ!」


 その左手のサーベルの斬撃に、紫音は横薙ぎを合わせてソフィーの左手のサーベルを弾く。


「なっ!?」


 両手で刀を握って放つ紫音の斬撃の威力に、片手持ちのソフィーは簡単に左手のサーベルを弾かれ体勢を崩した。


「そこだ!」


 紫音は体勢を崩したソフィーに追撃で斬撃を入れるが、またもやオーラステップによる急加速で回避されてしまう。


「これじゃあ、きりがない……」


 紫音は初めて戦う自分と同じスピードで動いて、回避する相手に戸惑っていた。

 そして、それはソフィーも一緒である。


(もう、何なのよアイツ! 速くて当たらないし、私より斬撃も重いし!)


 そして、それはソフィーも一緒である。


(このままだと、オーラステップが自在に使える向こうのほうが有利だ。なんとかしないと……)


 紫音は剣士としてこの手は使いたくなかったが、ある戦法を使うことにした。


「仕方ない、この戦法で行くか。まあ、それでも勝てるかどうかわからないけど!」


 紫音は、ソフィーの周りを高速で走り出す。


「さっきの私と同じ戦法で、仕掛けてくるつもりね!」


 紫音はオーラを足に集めるまで周りを走ると、ソフィーの隙を突いてオーラステップで急加速して攻撃する。


 彼女にオーラステップで回避されると、すぐさま距離を取りまた周りを走り始める。


(この高速戦闘、止まっているほうが死角を突かれて不利だわ! こっちも動いて先手を取り、戦いの主導権を握る! そして、何よりも私がスピード勝負で負けるわけにいかない!)


 ソフィーは紫音の仕掛けた高速移動戦闘を受けることにした。

 二人は並行移動で距離を取りながら走り、相手の背後を取ろうと円を描くように走り続け、オーラステップで急接近し斬撃を交え、再び距離を取り走り続ける。


 お互い何とか相手の死角に回り込もうとするが、相手が速いため不毛な追いかけ合いを続けるしかなかった。


「しかし、二人共すごくスピードが速いですね……。きっと速さのスキルが、すごく高いのですね」


 エレナは目の前で行われている高速戦闘に、感嘆の言葉を発した。


「アレだけ速く走れるのは、二人ともあの走るのに向いたフラットな胸のお陰ッスね! 空気抵抗良さそうだし、何より揺れないから、動きの邪魔にならないみたいッス!」


「「誰の胸がフラットよ!? あと微かにだけど揺れているから!!!」」


 紫音とソフィーは、息の合った怒りのツッコミをリズにおこなう。


「はうっ!? ごめんなさいッス……」


 二人同時に怒られたために、リズは反射的に謝ってしまった。


(そうか…。彼女に感じていた親近感は、同じ速さ重視の戦闘方法ではなく、同士だったからなんだ。こんな出会いでなければ、いい友達になれたかも知れない……)


 紫音が同士を見る目でソフィーの胸を見る。


「ちょっと、何を”仲間!”みたいな眼で見ているのよ! 私はAサイズあるから! アンタとは違うんだから!」


 すると、ソフィーはアナタと一緒にしないでと言わんばかりに反発してきた。


「わっ、私だってAだから!」


 そんなソフィーに対して、紫音はまた見栄を張ってしまう。

 そして、そんな紫音を見たエレナとリズは、そっと目を逸らすのであった……


 




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