20話 運命の任務(1)




 やる気の無くなったシオンが、どうすれば元に戻るかを考えたエレナは、パロム村での事を思い出した。


「シオンさん、服を買いに行きませんか? 女の子らしい服を! きっと新しいお洒落な女の子らしい服を着れば元気が出ますよ」


 紫音は、お洒落な女の子らしい服というワードに乙女心をときめかせる。


「是非、いきましょう!」


 紫音のその反応に、エレナは手応えを感じた。

 服屋に来た紫音は、エレナが選んでくれたお洒落な女の子らしい服を来て、大きな鏡の前で眼を輝かせ喜んでいる。


 とはいえ、冒険者が着る服なのでそこまでお洒落ではないが、今まで着ていた服がアレなだけに紫音には十分お洒落に見えた。


「シオンさんは、スタイルが良いので体のラインが出る服がお似合いですね」

「そっ、そうかな~」


 紫音も、女の子なので体型を褒められると嬉しい。


 そして、紫音が何より気に入ったのがキュロットスカートである。

 中が半ズボンでありながら外見はスカートであり、自分の事を女の子であることをアピールしてくれるこのアイテムがすごく気に入った。


「ありがとう、エレナさん。これで、もう誰も私を男の娘だなんて言わないはずです!」

「それはよかったです」


「なんかこの服を着たらやる気が出てきました! さあ、次の依頼を受けに行きましょう!」


 紫音は、新しい服を着てテンションが爆上がりする。


「でも、今装備はメンテナンスに出しているんだった……」


「どんな依頼があるかだけ、見に行くのはどうでしょうか? シャーリーさんも、心配していましたよ?」


 こうして、2人は冒険者組合に足を運ぶことにした。

 中に入ると、シャーリーが2人に気付いて近寄ってくる。


「どうやら、元気が戻ったみたいねシオンちゃん」

「はい、ご心配掛けました」


「さっそくだけど、シオンちゃんに依頼したい任務があるの。こっちに来て」


 シャーリーは二人を小さな個室に連れてくると、二人を席に座らせ依頼の説明を始める。


「この任務はとても特殊で、まず依頼を受けられる条件も特殊なの。冒険者ランクF以下で、総合スキルランクはA以上、さらに18歳以下。はっきり言って、こんな条件に合うのは居ないって、一ヶ月前に依頼が登録された時に私は思っていた。でも、シオンちゃんはこの条件に全て合致しているの。この任務はアナタが受けるのが、運命なのかも知れないわね」


「……」


 紫音は、確かにその条件に何か運命じみたものを感じた。


「ただし、この任務はとても難しい任務なの。でも、成功した時のメリットもとても大きいわ。何故ならこの依頼主はこの街の領主であり、あの元王宮魔道士長だったミレーヌ=ウルスクラフト様だからよ」


「あのミレーヌ=ウルスクラフト様ですか?!」


 エレナがその名を聞いた瞬間、驚いて声を上げてしまう。


(ミレーヌ=ウルスクラフト様……、あのメテオを使ったという凄い魔法使いさんか、そんな偉い人とは会うことはないと思っていたけど……)


「成功することができれば、この街一番の権力者であるミレーヌ様に名前を売ることができるわ。失敗すれば逆になるけど……。どうするシオンちゃん?」


 紫音は、内容次第だと思ったのでシャーリーに質問する。


「肝心の依頼内容は、どんなものなんですか?」

「それが、依頼内容は会った時に直接説明するってことなの」


 紫音は、少し考えたがこの運命的な依頼を断ることができなかった。


「その依頼、受けます!」

「そう……。では少し待っていて、ミレーヌ様に面会の約束を取り付けてくるから」

 

 そう言って、シャーリーは部屋を後にする。


「また… 私はお役に立てませんね……」


 エレナが、暗い顔でこう呟いた。


「今回はしょうがないですよ。それにエレナさんは、私にこんな素敵な服を選んでくれたじゃないですか? おかげ、やる気が戻りましたし、私はお洒落とかあまり解らなかったから、とても感謝しているんです!」


 紫音は笑顔で、エレナに感謝の言葉を口にする。


「シオンさん……」


 エレナは少しだけ心が救われた気がした。

 そういう話をしているとシャーリーが帰ってくる。


「今日早速会いたいって。大丈夫よね、シオンちゃん?」

「はい。でも、今装備をメンテに出しているんですけど……」


「装備は必要ないって、言っていたわ」

「装備が必要ない任務なんですか?」


 シャーリーの装備が必要ないという言葉を聞いた紫音は、装備のいらない任務とは何かと思って質問した。

 

「それは、私には解らないわ。私は向こうからそう聞いただけだから。特殊な任務だから向こうで特別な装備を貸してくれるのかも? まあ、今日の4時にこれを持って、この街の行政府に向かって」


「わかりました」


 紫音はシャーリーから紹介状を受け取ると、冒険者組合を後にする。

 一度宿に帰り時間まで過ごしてから、三時半に紫音は宿を出て行政府に向かう。


「では、行ってきますエレナさん」

「はい、いってらっしゃい、シオンさん」


 紫音は、地図を見ながら行政府を目指す。

 大通りを街の中心に進むと、大きく立派な建物が見えてきた。

 建物は至るところが彫刻で彩られており、行政府としての威厳を示している。


 ”お高そうな建物だな~”と思いながら、中に入ると中も豪華な調度品で飾られていた。

 紫音は受付に紹介状を渡すと、暫く待つように言われてソファーに座り待つことにする。

 周りの調度品を見ながら時間を潰す。


「なんか、こういう場所って緊張するなあ……。ミレーヌ様ってどんな人なんだろう、恐い人でなければいいけど……」


 少し不安に思いながら呼ばれるのを待っていると、案内係の人がやってきて紫音をミレーヌの部屋の前まで案内してくれた。


「失礼します、シオン・テンカワ様をお連れしました」


 案内係の人が扉をノックし、部屋の中にいる人物にそう報告すると中から、「入りたまえ」

 と落ち着いた感じの大人の女性の声が聴こえてくる。


 紫音は少し緊張した声で、「失礼します」と声をかけながら、ミレーヌが中で待つ部屋の中に入った。


「やあ、始めましてシオン・テンカワ君。私がここの領主で依頼主のミレーヌ=ウルスクラフトだ」


「始めまして、シオン・アマカワです」


 この人がミレーヌ=ウルスクラフト様……

 ミレーヌは20代後半で外見は青い長い髪と、少し大胆な大人の魔道士服を着たスタイルのいい女性で印象はフェミニースに近い、クールでできる大人の女性という感じだ。


 彼女はセシリア・アマネと共に魔王を倒した魔法使いの子孫で、その魔力は人間側で敵う者はいなかった。


 冒険者ランクはSS、総合スキルランクはSの持ち主で、現在総合スキルランクSなのは、彼女とユーウェイン、スギハラ、フィオナ、王国騎士団長だけである。


 彼女の現在の役職は、この冒険者の街アルトンを含めた地域の領主兼この街の総督であり、北にあるユーウェインの前線砦が突破された時に、第二の防衛拠点となるこの街の指揮を取ることも職務となっていた。


「まあ、掛けたまえ」


 ミレーヌは、紫音を自身の執務机の前にある応接用のソファーに座るように促すと、自分はテーブルを挟んだむかいにあるソファーに座る。


 暫くすると、別室から秘書らしき女性が紅茶を持って現れ、紫音とミレーヌに差し出す。


「ありがとうエルフィ。さあ、シオン君遠慮なく飲みたまえ」

「はい、頂きます……」


 紫音は、高級そうなティーカップを持つ。


(これ、落として割ったら… 明日からご飯全部パンの耳になるかも知れない……)


 だが、一口だけ飲むとティーカップをゆっくり受け皿に戻し話を切り出す。


「ミレーヌ様、私への依頼の内容をお聴かせください」


 すると、ミレーヌは深刻な顔になり話はじめる。


「実はシオン君。私はいま個人的な事なのだが、重大な問題を抱えている……。おそらく私にとって、これからの人生に大きく関わるであろう……。この任務の結果次第では、私は総督の職を辞そうとさえ思っている……」


 紫音は思っていた以上の重大な任務に、少し引き受けるのが怖くなってきていた。


「実は、私のカワイイ姪のミリアちゃんが、【冒険者育成学校】の卒業試験がクリアできなくて、落第しそうなのだよ!!」


 ミレーヌは、悲しみと不安で一杯という顔で紫音に訴えてくる。

 そこには、先程までの素敵な大人の女性の姿は見る陰もなかった……


 その後ろで立って控えているエルフィと呼ばれていた女性も、その様子に眼を背けている。


「えええ……」


 紫音は、思わずそう呟いてしまった。



 次回より、『第二部 風雲竜虎編』 始まる……


 予定ですが、直前で何のお知らせもなく内容及び構想が変わり、

『第二部 ドキッ!? イケメンだらけの激闘編』になることが、あるかも知れない事をご了承ください。






  

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