20.5話 小さな魔法使いの前日譚
ミリア・パーネル 14歳。
彼女はセシリア・アマネと共に魔王を倒した魔法使いの子孫である、名門ウルスクラフト出身の母を持ち、その母の妹は天才魔法使いと言われたミレーヌ=ウルスクラフトである。
彼女の母も優秀な魔法使いであったが、母親は病弱で彼女が8歳の時に病気で亡くなってしまう。
彼女は母親が亡くなる時に、母や叔母のような立派な魔法使いになると約束した。
それから彼女は父親の元を離れ、叔母であるミレーヌのいる王都に移り、彼女の元で朝から晩まで、部屋に籠もり魔導書を読み漁り立派な魔法使いになる勉強を始める。
この時、隣の屋敷に住んでいた同い年のリズ=エドストレームに出会う。
彼女もまたセシリア・アマネと共に魔王を倒した弓使いの子孫で、名門エドストレーム家の人間である。
リズ=エドストレームは、銀色の髪と眠そうに目を開いたジト目が特徴の可愛らしい少女で、この手のジト目キャラは口数が少ない事が多いが彼女はよく喋るキャラであった。
あと、名門出身のはずなのだが語尾が「ッス」と砕けた言葉使いから、彼女が変わった子だということがわかる。
元から内気な性格で、人見知りの激しいミリアにとってこのよく喋る隣人の女の子は少し苦手であったが、「ミリアちゃん、私と遊ぼうッス」と弓の練習が終わったリズが、よく誘いに来てくれた。
「う……、うん」
小さい声でミリアが答えると、リズは嬉しそうにミリアの手を引いて、公園などに連れて行く。
後から知ったことだが、リズが領土から離れて王都にいたのは王宮勤めの父親が、彼女が修行をサボらないように監視するためだったらしい。
ミリアは三年前の魔王襲撃後に、叔母と供に王都からアルトンの街にやってきた。
そして、二年前に尊敬する母や叔母のような立派な魔法使いになるために、【冒険者育成学校】に勇気を奮い立たせて入学する。
そこには、彼女が入学すると聞いて入ってきたリズの姿があり、気弱で内気で人見知りなミリアは他の友達が作れず、部屋で魔導書を読んで過ごし、授業はいつもそのリズの横で受けていた。
そのリズはと言うと、興味の無い授業ではカードゲームのデッキ構築などをしている。
「やはり、コストの低い魔物を多く入れ事故を無くすほうが……、いや、やはり運に任せた一発逆転のロマンを求めたデッキ構築を……」
そして、何度も教官にみつかっては怒られていた。
ミリアはそんなリズを見て、自分もあんな強い心を持ちたいと思う。
(※真似してはいけません)
ミリアは筆記試験の成績は良かったが、人に見られるのが苦手な彼女は実技では実力が発揮できず、成績はギリギリであった。
リズは授業をサボっているわりには、学科は普通の成績であり弓の実技に至ってはトップの成績を修めている。
そして、二年が経ち卒業試験の日
卒業試験は今迄の総合的な試験であり、生徒だけでPTを組み学校が用意した低レベルの魔物を実際に倒し、最後に大型の魔物を倒すというものであった。
アリアはリズのお陰で何とかPTに彼女と一緒に入ったが、試験の途中にスライムに襲われた時に事件が起こる。
スライムは物理攻撃に耐性があり、まだ14歳ぐらいのオーラ技の使えない物理前衛職では歯が立たない。
ミリアが勇気を振り絞って魔法を唱え始めると、スライムが一斉にミリアに向い始めた。
スライムは何故か魔法に反応する習性があって、それを抑えて魔法使いに魔法を撃たせるのが前衛職と盾職のセオリーなのだが、いかんせん未熟なため抑えきれない。
一斉に自分に向かってきたスライムに、怖くなってしまったミリアは我慢できずにその場を逃げ出してしまう。
もちろん、試験は不合格となりPTメンバーはミリアを責めたが、リズが反論する。
「あれは、本来なら私達がスライムを、後衛に行かせないようにするべきだったッス!
自分達ができなかったことを棚に上げて、ミリアちゃんを責めるのは間違いッス!」
他のPTメンバーは、そう言われては何も言えず引き下がった。
後日、他のメンバー達は別のメンバーを加え合格したが、ミリアはあの出来事で怖くなってしまって部屋に引きこもってしまう。
そして、卒業試験期間終了5日前の朝―
彼女の部屋の扉をノックする音が聞こえる。
「ミリアちゃん、ちょっといいッスか?」
リズの声がしたのでミリアが扉を開けると、そこには見たことのない黒い髪と瞳をした素敵なお姉さんが立っていた。
「はじめまして、ミリアちゃん。今日編入してきたシオン・アマカワです。卒業試験のPTを組むことになりました。一緒に頑張りましょうね」
お姉さんはミリアの目線まで体を屈めると、優しい笑顔でそう言うと握手するために手を差し出してくる。
ミリアは初めて見るそのお姉さんの手に、何故か恐る恐る手を差し出してしまい握手してしまう。お姉さんの手は剣の修業でタコができて、少しゴツゴツしていたがとても暖かかった。
ミリアは自分でも何故かは分からないが、このお姉さんとなら卒業試験が上手く行きそうな気がしてしまい
「はい、よろしくお願いします」
と小さな声で答えた。
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