05話 冒険者の街への道のり(1)



 残りがゴブリン一体だけになった時、ユーウェインは木の上に居た紫音に声をかけた。


「そこの少年、君も冒険者の端くれなら降りてきて魔石ぐらい回収してくれないか?」


 少年という言葉に気づかないほど、精神的に余裕のなかった紫音は「はい!」と、反射的に返事をして下に降りて魔石を拾い始める。


 紫音が四つ目の魔石を拾いユーウェインを見た時、ゴブリンは五個目の魔石に姿を変えており、その五つ目の少し大きい魔石を拾ってからユーウェインを見ると、彼は馬の手綱を引っ張っていた。


「少年、話は後だ。まずはここを離れ街道に戻ろう。また魔物に襲われるかもしれない」


 そう言うと、ユーウェインは馬を連れて街道に戻る。

 紫音も「はい」と答え、その後をついていく。


「本当にありがとうございました、これ拾った魔石です」


 街道に戻ると、剣を鞘に納めるユーウェインに紫音は近づき頭を下げて、お礼と共に両手に集めた五つの魔石をユーウェインに差し出した。


 するとユーウェインは、魔石を差し出した紫音にこう話しかける。


「少年、そいつを教会で換金するといい、今日の宿と夕食代ぐらいにはなるだろう」


 そして、彼はこの距離で紫音が女の子だとようやく気づく。


「これは失礼した。君は女の子だったのか……」

「あ、いえ、大丈夫です……」


 そう答えた紫音の眼は、虚空を見つめていた……。

 すると、馬車の中から声が聞こえてくる。


「いけません、アリシア様。どこの馬の骨とも解らない者に、興味本位でお会いになられては!」


「いいではないですか、レイチェル。お声からしてわたくしと同じ年頃の女の方みたいです。わたくし一度同じ年頃の同性の冒険者の方とお話してみたかったのです」

「いけません!」


 同乗者の反対を押し切って馬車から降りてきたのは、髪は綺麗な長い金髪で貴族のお嬢様が着るような立派なドレスを着た高貴な気品の漂う、紫音より少し年下の少女であった。


(すごく可愛らしい…)


 紫音は同性から見ても、見惚れてしまうような可愛らしい少女を、見ていると彼女が自己紹介を始める。


「はじめまして。わたくしアリシア・アースラ――」


 そこまで自己紹介をするとアリシアは、紫音を見てとても驚いた顔して問いかけてきた。


「アマネ……様?」


「えっ……、あっ……、アマネ様は自分のご先祖様です、ハイ。とは言っても、私はアマネ様の妹の鈴音様の子孫です、ハイ」


 まさかこんなところで突然先祖の名前が出てきて驚いたので、紫音は口調と説明がおかしくなってしまう。


「まあ、アマネ様の子孫の方だったのですね! どうりで肖像画にそっくりなわけです。では、改めてご挨拶を。わたくしアリシア・アースライトです。どうぞよろしくおねがいします」


「あまか……、シオン・アマカワです。こちらこそよろしくお願いします」


 紫音がそう挨拶を返すと、アリシアは紫音の顔に近づきこう言ってくる。


「しかし、シオン様はわたくしが何度も見たアマネ様の肖像画にそっくりですね……。でも、こう近くでシオン様のお顔を拝見させていただくと、肖像画のアマネ様よりシオン様のほうがお若いですね」


 その眼も覚めるような可愛らしい少女の顔が、至近距離に近づいてきたので紫音は動揺して、「そうですか…」としか答えられなかった。


「アリシア様、それ以上はいけません!」


 アリシアは馬車から出てきた女性に紫音から引き離された。


 馬車から出てきた、女性は二十代半ばくらいの赤い髪をした美しい女性で、紫音が見てもかなりの強者だと分かる佇まいである。


「もう、レイチェル邪魔をしないでください。ようやくわたくしは、あのアマネ様のご子孫の方に会えたのですから」

 

 レイチェルと呼ばれたその女性は、紫音を見ながら彼女に不用意に近づくアリシアを制止した。


「駄目です、アリシア様。こんな正体もわからない者とこれ以上話をさせるわけにいきません。私は貴方様を護るのが役目ですから!」


 酷い言われようだと思ったが、確かに今の紫音は何の実績もない怪しい人間であるので、仕方がないと納得するとこう考える。


(ややこしい事にならないうちに…… あの一件がバレないうちに早くこの場を去ろう)


 そうあの犯罪行為(不法侵入)がバレない内に、逃げようと考えたのだ。


「では、私はこれで失礼します。助けていただいて有難うございました」


 紫音は別れの挨拶を口にしてから、一同に頭を下げると足早にその場を去ろうとするが、アリシアに呼び止められる。


「紫音様お待ちになってください。わたくしと馬車の中でお話しませんか? 見た所行き先はわたくし達と同じ方向なようですし」


「アリシア様!」


 レイチェルの反応に、アリシアはすぐさま反応すると反論を始めた。


「あなたは見たこと無いかもしれないけど、わたくしは子供の頃から何度もセシリア様とアマネ様が、お二人で描かれている肖像画を見ているのです。紫音様は間違いなくアマネ様のご子孫です」


「偶然似ているということも……」


 レイチェルの反論は正しい、当然ありえる事である。


「では、こうしましょう。私が今から紫音様に子孫の方しか知らないことを質問します。それに答えることができれば、紫音様がアマネ様の子孫だと証明できますよね?」


 だが、レイチェルも護衛としての役目上食い下がる。


「そんなもの、詳しく調べていれば…」


 それに対して、アリシアは自信に満ちた瞳で答えた。


「いえ、それはありません。何故なら今からする質問は、アマネ様がセシリア様にだけ打ち明けた二人だけの秘密。わたくしもそれが記されたセシリア様の日記を、今も保存されているお部屋の隠し場所かつい最近見つけたのですから」


「そんなものが……わかりました。」


 レイチェルも渋々承知する。


(えっ!? そんな二人だけの秘密とか言われても…… 私にだって分かる訳ないじゃないですか!?)


 紫音は心の中で狼狽した。彼女が知っているのは代々伝えられている話ぐらいであり、それらは全て元の世界での話だからだ。つまり伝わっていない話や、ましてやこちらの世界での天音の事を聞かれたらアウトだからだ。


(これ答えられなかったらどうなるの? 偽物ってことで斬首?! 聖墓不法侵入の前科もあるから、絶対斬首だよね!?)


「はわわわ……」


 勝手に話が進み、翻弄される紫音は言葉にならない言葉を発して、青ざめるのであった。












 




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