05.5話 冒険者の街への道のり(1)



 今から私が天音様の子孫かどうか確かめる質問が、アリシア様から行われる。


(このクイズ大会、今からでもやめられないだろうか…)


 紫音はこのように考える。


(だって、私は別に証明できなくても構わないわけだし、失敗したら騙したと言われて下手したらレイチェルさんに殺されるかもしれない…。いや、この人はやりそうな気がする……)


 ※紫音の一方的な感想です


(私にとって、リスクだけが大きすぎる気がする… 逃げたいけど私の背後にいる凄腕の騎士さんには、今の私では絶対に勝てないしおそらく逃げ切れない…)


 そのため紫音は、アリシアに「やめましょう」と念を込め彼女の顔を見つめるが、アリシアは紫音に見られていることに気付くと少し頬を染めてから、シオン様なら大丈夫と見返してくる。


(想いって結構伝わらないのだなあ…)


 そう思う紫音であった。

 そうしているうちに、アリシアが質問の前にこのような事を言い始める。


「今からする質問は、とても秘匿性の高いことだとわたくしは思っています。ですから聞いた者はこの後すぐに忘れ、くれぐれも口外しないこと。決して違わないと今その剣に誓ってください」


 ユーウェインは、剣を抜くと誓いを立てる。

 レイチェル、ミゲルも続けて誓いを立てる。

 紫音も、見様見真似で慌てて誓いを立てる。


 アリシアは皆の誓いをさせると、質問を始めた。

「それでは質問です紫音様、第一問。アマネ様の故郷、ニ…ニホン?で一番高い山は?」

「富士山?」

「フジ、正解です!」


「第2問、アマネ様が故郷にいた時の、国を支配していた王族の名は誰ですか?」


「王様というとちょっと違いますけど、徳川です。天音様は200年前の人だからたしか、徳川家斉だったような……」


「トクガワ、正解です! レイチェル、これではっきりしましたね。シオン様がアマネ様の子孫だということが!」


(よかった、思ったより簡単だったよ。二人だけの秘密って言うから、私はもっとこう…、大人の質問かと思ったよ…)


 紫音は正解した事により緊張から解放され、このような頭お花畑な妄想をしていた。

 質問の答えに納得のいかないレイチェルが、反論を込めた疑問を話し始める。


「そんな馬鹿な、有史以来この世界を治めてきたのはアースライト王家なはずだ。トクガワなど聞いたことが…」


「だから、最初にアリシア様が秘匿性の高い内容だと言って、我々に剣の誓いをさせたはずだ。これ以上このことについて、異議を唱えすぐに忘れるという誓いを破るというのであれば!」


 その彼女の言葉を聞いたユーウェインは、そこまで言うと剣に手を掛ける。

 

「わかりました…。これ以上は何も…」


 レイチェルは自分に否があると感じると、アリシアとユーウェインに頭を下げて、アリシアの後ろに下がる。


 アリシアはこの緊張した空気を払うべくパンと手を叩くと、紫音にこのように促してきた。


「では、シオン様。一緒に参りましょう。さあ馬車へどうぞ」

「あううう!?」


 彼女はそう言うと、半紫音の背中を押して半ば強引に馬車に乗せてしまう。

 そして、逃げ出せないように紫音の横に座る。


 紫音は対面の空いている座席を見ながら、横に座るアリシアに問いかけた。


「あのー、あちらの席が空いていますけど……?」


「馬車の中は、走り出すと意外と音が五月蝿いのです。お話するならこれぐらい近くないといけません……」


 そう言いながら、アリシアはさらに紫音との距離を詰めてくる。


 後から乗ってきたレイチェルが、前の座席に座り二人のやり取りを暫く見ていたが暫くして彼女はこう言ってくる。


「どうぞ、私の事は気にせずむしろ居ないと思って、お二人でキャッキャウフフ… いや、仲良くご歓談をしてください…」


(キャッキャウフフ…?)


 紫音はその言葉に引っ掛かったが、レイチェルの態度が軟化したみたいなので、ひとまず良かったと思うのであった。


「ミゲル、出発だ」


 外からユーウェインの指示する声が聞こえると、馬車はゆっくりと走り出す。


「しかし、隊長。彼女を馬車に乗せてよかったのでしょうか? 彼女は英雄アマネ様の子孫かもしれません。ですが冷静に考えれば、それは彼女自身が信頼できるという事とは、別なのではないですか?」


 ミゲルは馬車と並走するユーウェインに、中に聴こえないギリギリの声で意見した。


「ならどうして、その事を乗る時に言わなかったのだ?」


 ユーウェインは、そんなミゲルに逆に質問する。


「それは……、彼女を見ていると何故か不思議と悪い人物ではないという印象を受けたからです」


 ミゲルがそう答えるとユーウェインはその答えを聞いて、少し間をおいてからこう言った。


「私も同じだ、ミゲル。そして、レイチェルもそう思ったのであろう」


 後で分かることだが、紫音には今回のような時のために、女神から相手に好感を与え人間関係をスムーズにする為のスキルが付与されており、それが本来の彼女の好印象と相まって彼らに信頼を与えたのだ。


 馬車の中は意外と静かで車輪の音は確かにするが、腕が当たるほど密着して話す必要はないと思った。


 何よりその至近距離からアリシアは、同年代の同性冒険者である紫音に興味があるのか、その顔をじっと見てくる。


 そして、前に座っている女性はその様子を無言で見ているが、ニヤつきそうになる顔を必死に耐えているようにも見える… というか、耐えていた。

 

 このなんとも言えない空気に、いたたまれなくなった紫音はこのような質問をしてみる。


「アリシア様って、やっぱりお姫様なんですか?」


 姓名からして墓にあった女王様と同じ姓である以上、王族だとわかりきっているが、親族という可能性もあるし、何より会話の話題が他に思いつかなかったので、取り敢えず聞いてみることにした。


「君はそんな事も知らないのか?!」


 先程までニヤつきを我慢していたレイチェルであったが、紫音のあまりの無知な質問に驚いている。


 それに対しアリシアが、すぐさま助け舟を出してくれた。


「シオン様の故郷は、情報がほぼ入ってこないようなすごい辺境なのです。ねえ、シオン様?」


 反論してくれたアリシアのその表情は、私は全て承知していますという表情だった。


「はい、そうなんです」


 紫音は、そのアリシアの設定に乗ることにする。

 アリシアは話題をそらすために、さっきの紫音の質問に答えることにした。


「はい、そうです。わたくしはこの国の王女で、兄は現国王ルーク・アースライトです。なので、正式には王妹殿下でしょうか? そうだ、一緒に旅をしてくれている方達も紹介しますね」


「はい、お願いします」


 紫音が彼女らの自己紹介をお願いしたのは、この人達が知っていなければ、おかしいぐらいの有名人なら覚えておかなくてはと思ったからだ。

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