学校の悲哀

 学校の授業はつつがなく終わっていき、俺達は一つの部室でお茶をすすっていた。

目の前には少し小太りだが決して不細工という訳でなく、大人し目な印象を与える、優しそうな女性が座っていた。


「その、私、見ちゃったんです、夕方、部活が遅くなってから校門を潜ろうとした時に屋上に男の子の幽霊を、もしかしたらって、思ってここに来たんです」

「ふんふん、詳しい日時とかは分かるかな?」

「えっと3日前、見間違いかなって思ったので、すぐに言えず」

「おっけおっけ、でもそういうの見たら、見間違いとかそういうの気にせずじゃんじゃん来ちゃっていいから、それじゃいつものやっちゃうぜ、霊・水・晶」

「霊水晶?」

「日時と場所さえわかれば、そこを映し出して幽霊がいればそれも映る、幽霊にだけ使える監視カメラとでも思ってくれていい」

「そうですか」


 たてぼうはその大人しめの女性に色々と聞いていく、ここは俺達が学校に頼まれて創部された幽霊事件相談部、幽霊事件は霊能者に少し相談するだけでもかなり手間だし費用がかかる。そこで学校側は一定の活動が認められれば学費免除をすると俺達に持ちかけ無料で生徒や教員の幽霊事件の相談に応じるように言ってきたのだ。


「……お、見えた見えた、幽霊の反応もあるべ、バリバリだわ」

「本当ですか、どんな幽霊ですか?」

小田倉間おたくらはざま去年、自殺した今も生きてるなら高校3年生だ」

「え、どうしてそんなことがわかるんですか?」

「お前、わかってたんなら、とっとと除霊しろよな、つか小田倉先輩か」

「学費免除の為だ泳がせてた、実害は出てなかったしな」

「がめついねぇ、とにも今回も除霊……か、こんなのばっかだよな」

「そういうものだ、朝言ってたストーカーの除霊も任せた」

「了解だ、そっちは任せるぜ、お待たせしました、報告ありがとうございました」

「それじゃぁ、お疲れ様です、頑張ってくださいね」


 報告をしてくれた優しそうな女生徒が一礼をしながら部屋を出ていく。最後まで礼儀正しい女性だった、さてと、時間は14時か。


「後は俺がするから、動物霊とストーカーの霊、行ってこい」

「わかったわ、お前も気を付けろよ……って、気を付ける要素は無いか」

「まぁな」


 先にたてぼうを帰して、俺はもう少し時間が過ぎるのをお茶をすすりながら、外の雲を眺めて待つ、やがて下校時間が来てしまうので職員室に行き、今日の報告。

夜に屋上に入る事を説明すれば、警備員さんによろしくと言われる。


「夜18時、そろそろかな?」

「…………」

「初めまして、小田倉先輩、享年17歳、趣味はアニメ、過度ないじめに耐えられず屋上から飛び降り自殺、遺書も残してたそうですね、ま、学校が隠蔽して無かった事になってますが」


 屋上へと昇り、痩せぎすな眼鏡をかけた学生服の自分より少し大人な雰囲気を持った男へと極めて丁寧な口調で話を始める。


「そうだ、なんでだよ、ただアニメが好きなだけでなんでいじめられなきゃいけなかったんだよ、何もちょっかいかけてこなければ僕もあいつらの事なんてどうでもよかったんだよ、なんで、なんで僕が死んであいつらのうのうと生きてるんだよ」

「そういう世界だからです、最後通告です迷わず逝ってくれませんか?」

「嫌だね、あいつらにあいつらも恨み殺すまでは死ねない、なのに、ここから動けないんだ、あいつらが笑ってるのにどうしてここから動いてあいつらを絞め殺せない」

「死んだ人間は死を決めた場所から動けなくなるんです、地縛霊って奴ですね、最後通告はしました、貴方には逝って貰います、眠れ!」


 恨み節は全て聞いた、だが、それでも幽霊はこの世界に留まる事は許されない。

死人に口なしという言葉がある、命あっての物種という言葉も。

死んだら何もできないのだ、俺は小田倉先輩の顔面に思いっきり拳をぶちかます。


「なんで、なんでぼくだけなんだよぉおおおお! あいつらはいあいつらはぁ!」

「知りませんよ、あんたと一切接点の無い俺にあんたの事はでも幽霊は逝かなきゃなんですよ、悪霊になる前に」

「う、う、が、が、GYAAAAAA!!!!!」


 拳を当てた所から鉄のように溶けて行ってしまう、細かい原理はすっ飛ばす。

俺の場合は物理で幽霊を殺せる、それだけだ。最後まで恨みがこもった言葉を吐き続け最後は夜の校庭に霊能力者しか聞こえない大声で叫び上げ消えていく。

 

 なんだかなぁ……なんだかなぁ。


「やりきれねぇや」


 見境なく暴れる悪霊になる前に成仏させなきゃいけないと分かっていても。

この手の哀れな幽霊を成仏させるたびに、思うのだ、悲しいなって。

 





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