偽装結婚2

4人は国鉄金融の入っていたビルを後にする。

「あの男の言うこと当たってる…」

「でしょ?」

「私は確かに…なんていうか…すっごい煮詰まっていて……」

(あの男の言うことに感心してりゃあ世話ない…しかし…)

男が窓から帰宅する4人の様子を窓から見る。

「フフフ…ああいう頭のゆだった奴ばかりだと大助かりだが、最近のガキは慎重だからな、難儀したぜ。ククク、俺が“いい人”なわけがねェじゃねェか…!話にならねェ甘ったれ…鉄ヲタがああいう単純な人間であればあるほど、1に餌食、食い物!」

「で、この後あいつらの親の印鑑使ってどう婚姻届出すンですか?」

事務所にいたもう一人の男が聞いてくる。

「まずあいつらの履歴書に書いてある親の情報と印鑑から俺があいつらの親になりすまして、債務者クズどもと彼女たちの婚姻届の「その他」の欄に、例えば、

“舎利弗南の婚姻に同意します

妻の父親 舎利弗尊 印 

妻の母親 舎利弗昌子 印”

と書く。これで未成年者の場合の保護者の同意は得られたことになる。

続けて債務者が残る「夫になる人」の欄に記入して署名、捺印。

婚姻届の裏にある証人には他の債務者に書いてもらう」

「なるほど」

「ここからが本番だ。婚姻届が受理されたと同時に転居届も出して債務者の名字も住所も携帯電話番号も変える。さらにはそうしてできた生まれ変わった債務者の新しい住民票を手に顔写真、印鑑、原付で運転免許の試験を受けさせる。原チャリなら一日で簡単に試験合格できるから、真新しい運転免許証番号に生まれ変わった名前での運転免許証が即日交付される」

「なんだかすごいですね…」

「だから言ったろ?回収すンだよ!回収するためにはどんな手段だってとるさ…」

「……」


―数日後


国鉄金融から再び連絡をもらった4人は再度湘南新宿ラインで渋谷を目指す。

先日と同じ列車で。


大宮

15:57発

平塚行き(籠原始発)

2851Y

E233系(15両)


渋谷

16:35着


「失礼します」

国鉄金融のオフィスに通され、ソファーに通された4人。

「まぁ座れ。聞いてくれ。この前の婚姻届は確実に受理された。よってあの鉄道マンらは真っ白な鉄道マンとなった!」

「真っ白?」

「金融ブラックリストの対義語、金融ホワイトのことだよ。まぁ要するに新たに借金できるようになった、というわけだ」

(そんな!それじゃあ私たち新たな借金の片棒を担がされたことになったんじゃ?)

南がホワイトの意味を聞いてびっくりする。

「それじゃあ約束のバイト代だ、受け取れ!」

―ドン

男が机の上に大量の札束を用意した。

「うっうぉっ!?」

「全部で80万円、一人頭20万円が報酬だから4人分な」

「は、80万円っ…!?」

「ううっ…」

(1人20万円…私が…私がどれだけ働けば…届くんだこの金額に…それを…ものの数日で印鑑を貸しただけで…すごいっ!!いいの?こんなにあっさり…こんな大金…)

目の前に積まれた、自分たちでは到底稼ぐことのできない80万円の束に4人は驚愕している。

それに4人は恐る恐る手を取り、1人当たり20万円ずつ分け与えた。

「あ、ありがとうございます!!」

4人は男に深く礼をした。

「これでお前らの仕事は終了だ。それとついでにお小遣いをくれてやる」

「お小遣い?ですか?」

男は机に切符の束を出す。

―ドン

「これって…!」

「青春18きっぷ…!?」

「そうだ!この18きっぷの束をこの新橋の金券ショップに持って行って換金してこい。そうすればかなりの額になる」

「18きっぷを…換金…?」

「18きっぷシーズンになると使い切れなかったりする所謂18きっぱーが余った分を金券ショップに売りに来るンだよ。店側は1回でも使用したきっぷは安く買い叩くが未使用のまだ期限が切れていない18きっぷなら定価に近い金額で買い取ってくれる」

「そんなことがあるんですか…」

「今回は俺の名刺をその店に見せれば他より高く買い取ってくれる」

男は名刺と店の地図を描いた紙を4人に渡す。

4人は男から渡された、ごく一部の駅でしか発券していない18きっぷ赤券の束と男の名刺と地図、そして報酬の金額を持って国鉄金融を後にする。

金券ショップの場所は新橋。渋谷から銀座線で一本の場所にあるため4人は銀座線に乗って一路新橋に向かった。


新橋

17:59発

浅草行き

B1725

1000系6両

新橋

18:12着


金券ショップのメッカ、ニュー新橋ビルにその店「濃いみどりの窓口」はあった。

「すみません」

「はい」

「こちらの方の紹介でこれを買い取ってほしいんですけど」

「んん?」

金券ショップの男はしばらく国鉄金融の男の名刺を擬視したのち態度を変えて赤券18きっぷの束を受け取り、買取査定に入った。

「紹介の方ですね?でしたら枚数を数えて査定しますので今しばらくお待ちください」

「…………」

―数分後

「はい、1枚あたり10500円で、計50枚でしたので、合計525000円ですね」

「525000円!?」

―ガーン

買取金額を見た4人に衝撃が走る。

「ありがとうございます!!」

18きっぷの束は50枚もあり、すべて未使用だった。

4人は買取金額の525000円を受け取り、新橋から上野東京ラインで帰路についた。

一気にお金が入ったので近くの総菜屋で弁当とお茶を買い、グリーン車に乗った。


新橋

18:42発

籠原行き(平塚始発)

1922E

E231系(15両編成)


「いや〜新橋から大宮までのグリーン車移動って快適でいいね〜」

「それよりも、旧新橋停車場とか見たかったなぁ〜」

「だ〜め!もう夜も遅いしお母さんたちも心配するでしょ?それに今回得た金はちゃんと鉄道部の部費としてプールします!」

「ちえ〜」

「それにしても青春18きっぷにそんな事情があったなんて…知らなかった」

「金券ショップに売りに来る人の事?」

「うん、それに金券ショップに置いてあった販売用の18きっぷもあれ1枚5回分で11300円だったでしょ?定価が11850円で550円しか違わないけど、駅とかじゃなくてあのようなお店で買う人もいるんだなって」

「今回の事で分かったけど、社会に出たら良い事と悪い事とが絡み合ってその上に成り立っているってのが身をもって知ったって感じ。綺麗事ばかりじゃ社会に出たら生きていけないっていうか…」

「その通りだよ!だいぶわかってきたじゃない!」

「さて、次はどんなアルバイトして部費を調達するの?」

「そうだよ!私たちの部活動はとにかく金・金・金なんだから、130万円くらいでウキウキしてどうするの!?」

「ダメよ!仕事数が増えればアラが出る!アラが出ればバイト代どころの話じゃなくなる!それに今回は使い切ってしまった1年分の部費を埋め合わして旅行資金を得るのが目的!本当にお金が足りなくなった時にするのがちょうどいいんの!下手に欲をかかないで!」

「そうだね、楓ちゃんのいう通りだね」

「楓ちゃん頭いいからなぁ〜」

「交通機関の乗り継ぎ時間と旅費の緻密な見積もりとそれを算出する計算力!そして算出したその数字をどんな手段を使ってでも稼ぎ出す清濁併せ呑む勇気と柔軟さ!“頭がいい”とはこういう人の事を言うのよ!」

「後半は絶対金融屋のあの怖い人の受け売りでしょ?」

「目覚めたといってちょうだいっ!」

「ハハハハハ……」

その後大宮に着くまでの間に、車内で今回の仕事で得た大金13250000円の使い道は鉄道部の部費と4人全員で決定した。


大宮

19:18着


4人は大宮で解散した。

部費となった13250000円は副部長で金庫番、今回の言い出しっぺである楓が現金袋に入れてボディバックに一晩保管することにした。

翌日、昼休みに学校を抜け出した4人は学校の近くにあった埼玉の地銀、SSA銀行大成支店に部長、左衛門三郎絹を代表に大宮大成高校鉄道部名義の法人口座を作り、その口座へ楓が昨晩ボディバックに保管していた昨夜のお金13250000円を預けた。

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