第6話森では洗わない
「で、お前らはいったい何者?」
まあ聞かなくても鑑定で分かっているんだけどさ。
正直に話すかどうかで対応を考えるよ。
「僕らはリリパットだよ~~~」
「リリパット~だよ」
「リリパット~」
「とっても賢くていい奴なんだぜ~」
「賢い~いいやつ~」
駄目だ、こいつら会話にならない。自分の事を賢いとか、良いやつっていうやつは普通ダメなやつだ。俺?決まってんだろ、自称ナイスガイで、ちょっとダメなやつだ。
【鑑定:リリパット】
森に住む小人族。そのサイズからは想像できないほどの高出力高機動力を誇る。社交性に富み知能も高いが、精神年齢は低い。悪戯や、悪ふざけが好きで、他人の言葉を真似て騒ぎ立てるなどの行為も好む。悪気無く相手をイラつかせる言動が多いが、決して邪悪な存在ではないと言われている。
「あ~もう。誰か話しの出来るやつは居ないのか!」
「居るよ~」
「居るかも~」
「居たような気がする」
「一人が話せば分かるから、複数で話すな。それと話しの出来るやつが居るなら連れて来てくれ」
「同胞がご迷惑をお掛けしてまことに申し訳ありませんじゃ」
現れたのは大分歳を重ねた感じの、男性リリパットだった。曲がった腰を杖で支えていて顎に白い髭がある。そして、なにやら物言いたげな目で俺の顔を見てくる。なんだろうか?俺に、ちっさい爺さんと見詰め合う趣味は無いんだが。
「…おぬしは…ニホンを知っているかの?」
「な!…に…知っているのかライデン」
リリパットの爺さんの口から飛び出た爆弾発言に動揺した俺は、反射的に叫んでしっまったが、どうにか気持ちを落ち着け、かの有名な言葉で切り替えし平静を装った。
「うむ。然様、ワシの名はランデンじゃ、おぬしこそよく知っておったの」
「く、・・・そこはライデンではないランデンじゃだろ?」
よもや、爺さんの名がランデンだったとは…爺さんの耳では聞き分け不可能なレベルで名前が一致しているじゃないか。
「よく分からんが、おぬしも大概じゃの。まあ、それはどうでもよいんじゃが、ワシは何故よばれたんじゃ?同胞が話しの通じぬ奴らというのは知っておるが、ワシは呼ばれた理由を、なんも聞かされておらんのじゃ」
「ああ、それは…あいつらとの最初の一言からかみ合わず、その上あまりにも五月蝿くてつい『あ~もう誰か話しの出来るやつは居ないのか!居るなら連れて来てくれ』と言ってしまった。ご老体には申し訳ないが、責められる筋合いは無い」
うん俺は悪くない。寝ていたのに騒音で起こされ、いきなり変態呼ばわりで最低と罵られていた…マジで訴訟起こしていいかもしれない。
「それは、重ね重ね、すまなんだ。ニホンについては昔、ワシの親父が『自分は前世の記憶をもっている。昔はニホン人という黒髪黒目の…』と言っておっての、村では親父の語った
「へ~そうなんだ」
いや、転生はともかく、あいつらのアレは絶対に素だ。それに一代で伝説を創るとかファンタジー関係ない。
「あ~そんで、あんたらはこの辺に住んでいるのか?俺は最近森に住み始めたばかりで、このあたりに疎いんだ、何でもいいからこの森の事教えてくれないか?」
これ以上グダグダしていると、本当に時間の無駄でしかない。
「ほう、最近とな。実に興味深いが、それは後でよいじゃろう。そうじゃな、ここからワシらの足で三日程のところにゴブリンが村を作っておる。あ奴らに捕まるほど抜けた奴はワシらの同胞におらなんだが、それでも時折追い回されて迷惑しておるの。それから極たまにじゃが、耳長族を見かけるの。ワシらと獲物を交換することもある間柄じゃ」
「耳長って、もしかしてエルフか?」
「そうじゃの。ワシの親父はそう言っておったかも知れんの。それでじゃ、差し支え無かったらおぬしの事を教えてくれんか?」
俺の事か・・・エルフも気になるが、この爺さんの父親が日本人だったとすれば、転生などの不可思議な事象にも理解があるのだろうか?
「ああ、いいぜ。俺は奈良健人、この森で自由な暮らしを望むナイスガイだ。俺の足で、ここから1日ぐらいの場所に住んでいる。俺が住むまでは単なる森で他に何も無かったが今はちょっと違うな。あ、それとデスベアというデカイ熊に住処を襲われたが、返り討ちにしたぞ」
爺さんは酷く驚いた顔をして『おぬし、デスベアを倒したのか?』と聞き返してきた。
「いや、まあ、ちょっと俺の拠点には秘密があってな。そのおかげで怪我一つ無いし拠点も無事だ」
軽く説明したが、更に爺さんの顔は更なる驚愕に染まる。
「え、ちょ・・・どうした?」
「・・・・その拠点というのは、どのくらいの大きさか聞いてもよいかの?」
爺さんは俺の問いに答えず更に問うてきた。俺は特に隠す事でも無いので素直に答える。
「大きさねえ…端から端まで歩くと俺の足で5分…ゆっくり300数えるくらいの時間かな?その大きさの住みかと思ってくれていい。そこまで興味があるなら一度観に来るかい?」
軽く言ってみたつもりだったが、爺さんは首が千切れるのではないかといぐらいの動きで、首を縦振りしていた。
「是非、お願いしますじゃ。もし可能なら住みかの端にワシらを住まわせてくれんかの?無論、相応の礼はするし同胞には悪させんよう言い聞かせる」
「うん、まあ、あれだ、あの五月蝿さとウザイところをどうにかしてくれれば、俺としては問題ないぞ。ただ、俺の拠点には俺の他にも二種族居るんだが大丈夫か? 割と温厚な奴らだとは思っているんだが…いや、まて。あんたら何人居るんだ?住居もだが、食料の問題もあるぞ」
危なかった。大きな声じゃ言えないが、鑑定でリリパットが悪では無いって分かっていたので、基本的に受け入れるつもりでいたが、人数の問題を失念したまま許可するところだった。
「ワシらの人数は60人程じゃ。実は一度あの熊に拠点を襲撃されての、人口が激減してしまったんじゃ。食料はこれまでも、森で採取して暮らして来られたから、住処の場所を提供くだされば大丈夫じゃ」
リリパットも熊の被害者か。あいつ暴れすぎじゃね? もし日本なら熊被害者の会が出来てそうだな。
「そうだったのか。俺の拠点は安全に自信があるぞ。まあ熊が複数居るのかは知らんが、また襲われてもどうにかなるだろう。静かに暮らしてくれるなら是非うちに来てくれ」
今までは、異世界で孤独なボッチ生活だったけど、これからは、にぎやかになりそうだ。
翌朝俺は、ランデン長老(爺さん)と共に拠点へと向かう。拠点の位置を確認して、他の同族を連れて来るそうだ。
二日ぶりに拠点へと戻ると、ハイ・コボルトの耳垂れさ 「ヒャ!」…いや、たれ耳さん?が一人で立って居たらした。なんか一瞬すっごい威嚇されたような気がした。エスパーなの?心が読めるの?逆だと確かに失礼だったけど怖いよ。
「や、やあ、もう戻ったのか。他の4人と同族はどうした」
俺は平静を装って、声をかけた。我ながら100点満点で120点もらえそうな自然な声かけだと思う。
「はい。先ほど戻りました。他の者達は一族の荷作りの手伝いと移動の警護をしながらこちらにくる予定です。・・・話は変わりますが私もこうして進化しましたので、名前を変えようかと思うのですが、何かよい名前は無いでしょうかね」
「・・・・・・・・そうだね。身体的特徴を名前にしているのは、あまり良くないかもね」
チビとかデブや傷痕とかだと、本人達にその気がなくても俺からしたら虐めみたいなものだからな。
「はい。つきましては、お館様に命名をお願いできないかと思いまして・・・・」
「え、俺が?というか、お館様ってなに?」
「はい。お願いいたします。お館様というのはですね、我々の族長は別に居ますが、その上の存在としてこの館にちなんで『お舘様』とお呼びしようと皆で決めました」
「へ~~そうなんだ」
お舘様って昔の殿様の事じゃなかったっけか?まあ、犬っぽいけどご主人様っていわれたらちょっと違うし、深い意味じゃなさそうだから別にいいか。
「命名については、確認しておきたいことがあるから、ちょっと待ってくれないか。それとな、実はここに新しい住人が増えることになってな、先ずは二人紹介しよう」
俺は駐車場で軽バンを召喚する。軽バンのリアシートにはホモブの二人が座っている。最初は『これからどうなるのか?』という少し緊張した面持ちだったが、やがて戸惑い顔になり、俺を見つけ何かいいたそうにしていた。
「ついたぞ、ここが拠点だ」
俺がドアを開けてやると恐る恐る出てきた。
「これは・・・どうなっている?」
「まあ、すごいわ。いつの間に移動したのかしら?」
「はっはっは。驚いたか、これが超魔術だ」
うそだけどな。俺、ステータスで魔力=微レ存(微粒子レベルで存在の意)だからたぶん魔法は使えない。でも、ギフトを隠すと魔法や魔術以外に表現できないんだよ。
「それと、もう一人…おい、爺さん起きてくれ。ここが俺の拠点だ」
俺は、ミニショベルのキャビンで居眠りしていたランデン爺さんを持ち上げ、皆に見せながら起きるよう声をかける。
「んで、こっちがリリパット族長老のランデン爺さんで、そっちがハイ・コボルトのたれ耳(仮名)さんだ。後日、コボルトとリリパットの一族も来るが、皆仲良くしてくれよ」
とりあえず、今居る連中に自己紹介をさせた後、店内イートインに移動し、俺の食卓を囲んで、打ち合わせを行う。
「先ず住居と食料について確認したい。コボルトについては知っているがホモブとリリパットはどんなものを食べているんだ?」
「鳥や小動物を狩で取っていたな。あとは、木の実や野草だ」
「わしらも似たようなものじゃが、狩は大仕事じゃからの~そう多くは出来んの」
「じゃあ、俺と同じもので大丈夫かな?俺が食べているのはこんな感じだ」
俺が、常温レトルトシリーズを出してふるまうと、やはり大喜びだった。
「だけど問題があってな、この食べ物は数が決まっていて人が増えすぎると足らなくなってしまうかもしれないんだ。だから畑を作って作物を育てようと思っている。ここに住むからにはそれを手伝ってもらいたいし、道具を提供するので狩もして欲しい」
「畑というのはよく分からないが、狩は任せてくれ。住む所世話になるんだ。何でもやるぞ」
ホモブの男の方が協力を申し出る。彼の怪力は頼りになるだろうな。しかし、彼らに名前がなかったのは驚いた。ゴブリンは元々名前をつける習性がないのに加え二人だけだから名前を考えなかったそうだ。
コボルトとリリパットからも協力を取り付け、次に移る。コボルトだけは種族の代表者ではないが、現在の族長が黒足の父親で、既に進化した黒足の方に権限が委譲されつつあるとかで、たれ耳 (仮名)さんに『黒足なら協力を断らない』と言われ納得した。
「次は住処だ。先ずはホモブやコボルト住処として考えている物を見せよう」
俺はユニットハウスや小型ログハウスの展示エリアへと皆を案内する。
「小さいかもしれないが、先ずはここにある建物を利用してもらって、必要に応じてもっと大きな家を新築するなり増改築で対応する予定なんだがどうかな?」
「いや、小さいなんてとんでもない。俺たちは小さな洞穴で生活してた。この大きさなら十分だ」
「雨も風も入らないし、きれいな住処だと思いますわ」
「コボルトもこれでいいと思いますが、数はどのくらいあるのでしょうか?」
「あ~コボルトは40人弱だっけ? 実はここにある建物を移動すると、翌朝には同じ建物が新しく増えるんだ」
「は?」
「え?」
「増えるんですか?」
「増える。だから今あるログハウスとユニットハウス7種類を全部移動すれば、明日には14個にな「いや、待ってくれ」る…どうした?」
「いや、正直意味が分からない。何で明日の朝増えるんだ?採っても翌朝には増える?この家は野草かなにかか?」
ホモブ(男)が、何を馬鹿なと、言わんばかりに突っ込んできた。他の者も意味が分からないという顔をしている。木で作られた家は勝手に増えないのが、この世界の常識らしい。実は俺も同感だよ。
「・・・超魔術?だからな。さっき食べた食べ物も明日には増えるんだぞ。俺にもよくわからんが、俺が生きている限りここは、そういう場所だ」
皆、信じられないという顔で、固まっているが、無理やり「そういうものだ」と納得させた。ランデン爺さんが「稀にあることだ」とフォローをしてくれたが何か知っているのだろうか。
「まあそんなわけで、2~3日あればコボルトの人数に足る家が用意できるんだが、リリパットはどうすればいいんだ。
「ワシらはこの家が5個もあれば十分じゃが、寝床用に小分けの部屋が欲しいの。ワシの親父様はロッカーとか棚とよんでおったが、おぬしなら分かるじゃろ」
転生者の親父さんの知識チートか・・・どういう経緯で転生したのか謎だな。
「分かった。大きさなどの要望は後で聞かせてくれ。俺の技術で可能な限り善処しよう」
「これが風呂か?」
「ああ、風呂だ」
話を終えた俺は、ユニットバスの説明を始めた。
「見ての通り小さくて一度に入れる人数は少ないが、これが風呂という物だ。俺が手本を見せるから、それを二人が家族に伝えてくれ。そして更に家族から、他の者にも説明してほしい」
「何故だ、直接説明すればいい」
「知り合ったばかりの女性に、そんな真似できるか。ホモブ(男)が嫁に説明して嫁が同じ女性のたれ耳に説明するんだ。爺さんも同じようにうまくやってくれよ」
そして、俺はごつい男(原人)と爺さんに凝視されながら風呂に入る。これで風呂を理解してくれるかな? 俺的には近々に大浴場が必要だと思うんだけど、一人じゃ出来ないから協力してもらうためにも、風呂を広めなければならないと考えている。
「何のために体を洗うんだ?森では誰も洗わないぞ」
「ワシの親父は『風呂に入りたい』といっておったから興味はあるが、何故入るのじゃ」
え~と、アフリカとかの原始的な生活の部族も風呂入らないけど、沐浴はするよな? それとも潤沢な水がなければ全く体を洗わないのか?
「汚れたままだと、体調を崩す事もあるんだよ。目的がわからなくても、とりあえず嫁達に作法を教えてやってくれ。そうすれば、たぶん説明の必要も無くなる」
風呂は衛生管理だけでなく、娯楽としての側面があるし、少し乱暴かもしれないけど、習うより慣れろというやつで、風呂に入ればどうにかなる気がした。
俺達が風呂から出ると一騒動起きた。ホモブ(男)の茶褐色だった体色が、本来の色に戻ったからだ。ぶっちゃけ、日焼けしてはいるが、俺と大差ないくらいに変わった。地球で肌の色がどうのと言ったら人種差別に聞こえそうだけど、単に泥汚れが落ちただけだ。そして、想定通り風呂は、女性陣に受け入れられた。むしろ、住居整備が終わり次第、大きな風呂を作って欲しいと頼まれた。ま、ホモブ(男)や黒足達に手伝わせればどうにかなるだろう。
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