第4話ゴブ?
翌朝、黒足達ハイ・コボルトは一族を呼に群れのもとへと向ったため、今拠点に残っているのは俺一人となった。
昨夜気がついたが、住民が増えるとなると当然食料が必要になる。現状では店内に食料と倉庫の在庫分を合わせれば、十分な余裕があるがコボルトの進化が進めば食料が足りなくなる事もありえるだろう。いずれ何らかの食料調達手段が必要になるだろうな。
駐車場に停めた車の中から店舗を見つめるとコマンドが表示される。このコマンド表示は俺の指示が無い場合に自動で表示されるようだ。
送還しますか? はい・いいえ
ホームセンターは任意の場所に呼び出せるとあった。これが、そうらしい。ならば試してみるべきだ。
土地を復元しますか? はい・いいえ
送還で「はい」を選択すると再び選択肢が現れたが、よく分からないので「はい」を選択する。店舗の上に赤い魔法陣が出現し、徐々に降りてくる。そして魔法陣に触れた部分から音も無く店舗が消えていく。店舗が完全に消えるとそこには何も無「うわ!」何も無いと思っていたが、完全に消えた瞬間そこは森になっていた。これが復元というわけか。駐車場も森に埋まり車は木々に挟まれ傾いていた。
「えっと、召喚」
今度は森の中に半透明な店舗が表示される。向きと場所を指定できるようだ。
召喚しますか はい・いいえ
土地情報を保存しますか? はい・いいえ
召喚しようとしたら続けて土地の保存とやらの選択を迫られた。これは先ほどの復元と対になる設定だろうか?「いいえ」を選択すると地面に魔法陣が現れ上へとあがっていく。
そして店舗と駐車場が現れ車の周囲にあった木々も無くなった。
その後も何度か実験を行った結果、土地情報を保存しないで送還した場合は地表に何も無いむき出しの地面が現れ、森の生き物を巻き込んださいは、召喚時に敷地外に強制させられた。
森でヤマアラシのようにトゲトゲしたウサギを見つけた。
鑑定したらその生き
日本は古くからウサギを食べる習慣があったが、時代時代で獣肉食がタブー視されることがあり、そんな時は「うさぎは鳥の仲間」だと苦しい言い訳をして食べたという。ウサギを数える場合に一羽二羽とするのは当時の名残らしい。現代日本ではペット色が強くなり、あまり食べられることは無いが、地域によっては食肉として飼育される事もあるようだ。
だがこの世界では、おそらく『肉』であり『肉』でしかない。
召喚と送還を繰り返し、およそ2,000m×2,000mの更地を作った。これによって、カーナビに表示された森のサイズが分かるのではないかとも思ったが、森の外周を表示させた時には画面中央に小さく確認できるだけだった。どうみても半径数十キロ以上はあるようだ。一回の召喚で更地になる大きさは500m×200m程なので、森を突き抜けるには200m幅の更地を作りながら進むか、車を木々に挟まれながら進むかだろう。流石に生身でというのは危険だし移動のたび歩いていては疲れてしまうから無しだ。
キュリキュリ ギュオ~ン ウイーン ガシャン ガガガガ キュラキュリ ウイーンガシャン ガガガガ キュリキュラ…
森の中を無限軌道の黄色い奴が行く。枯葉を掻き分け木の根を乗り越え進路に立ち塞がる枝を、その豪腕でへし折り進んでゆく。その様はまるで無人の森を行くが如く…って、そのまんまだな。
数日前、俺は森に入るために役に立ちそうな物が無いかと、ホームセンターの敷地内を徹底的に調べていた。
広い敷地の移動では、いつ外敵が襲ってくるかも分からない恐怖があったが、俺は不退転の決意を胸に自転車のペダルをこぎ進めた。そして、疲れと筋肉痛がピークに達しようとするその時、俺の前にその偉容が姿を現した。誰かが…げふんげふん。俺は我知らず叫んでいた「伝説のショベルカーは実在した!」と。
とまあ、発見話を盛大に盛ってしまいたくなるのは、水スペ川○浩探検隊(1978-1986)を見た事のある世代ならご理解いただけるだろう。
「やらせだ」と言いながら、ついついTVを見てしまったあの頃が少し懐かしい。
妄想で、居もしない誰かに語り掛けつつ、発見物を再確認する。見つけたのは、業者向けの積み込みや配送に使用していたらしいショベルカーと小型ダンプだ。・・・・まあ、単にお客の目に付かないところに置いてあっただけで、発見したと報じたら、捏造レベルだろうな。
車両:K社製ミニショベル:機体質量2.76tエアコン装備
「車両!! 結界があるなら森も安心!…かな?」
嬉しさのあまり、俺は不思議な踊りを踊りまくった。
…MPは吸収できなかった。
小型ダンプは2t程度の普通のダンプだ。まあ、特に変わったところは無い。
俺は「小型車両系建設機械運転業務に係る特別教育」という長い名前の運転資格と、自動車の中型運転免許もっているのでどちらも運転できる。まあ、異世界に免許制度は無いだろうから自己責任で乗ってOKって話しなだけどね。
ちなみに自転車も軽車両という区分で車両に含まれるらしいが、結界のサイズが全く分からないので生身と同じだと思っている。死にたくないので実験する気も無い。ここはテストに出ないから忘れていいぞ。
…コボルト帰ってこねえかなあ。
猫派だけど、一人だと思考が独り言になるから、犬でもいいよ。
さて、ミニショベル…といっても、日本で最初に販売された製品の商品名が、車両の名称として定着してしまい「ユ○ボ」(商標)とよばれたり外国での呼び名から「バックホー」(バックで掘り進むから)と、よばれたり、うちのは「パワーショベル」だと言ってみたりで、名称がバラバラだったが、20世紀の終わりごろに建設機械業界で「油圧ショベル」を正式名称としたそうな。まあ商標を、共通の呼び名にはできんわな。そして便宜上、油圧ショベルの大きさに応じてミニやマイクロといった区分をしている。俺の資格は確か「整地・運搬・積込み用」及び「掘削用」で運搬にはフォークリフトも含まれるが、機体重量3t未満という制限がある。
油圧ショベルは主に二本のレバーで操作する。レバーを前に倒せば前進・手前に引けば後進だ。ただし油圧ショベルは排土版というブレードが付いているほうが車両の前部になる。運転席はキャタピラと別に360°回転するため、運転席の方向に注意しないと前進のつもりで後進する危険がある。そしてキャタピラは片側のみや左右逆回転も可能なため、その場で進行方向を変えることが可能だ。その上このミニショベルはアームをたためば、全長は軽自動車よりも短くなる小型タイプなので、森の中での活動も楽ちんだ。
移動を開始して3時間程、移動距離7~8kmだろうか。時折スマホの地図を操作し、方向を確認しながら移動しているが、特に何も見つかっていない。そもそも、拠点たるホームセンターから離れすぎるのは怖いので、渦巻きを描くように旋回している。走行距離の割に拠点からの直線距離はそれほどでもない。
それでも小型の魔物から何回か襲撃を受けていたので、その際に鑑定した内容をメモして残しておく事にする。
ハリウサギ:なんか全身にとげのような毛が生えたウサギ。ハリネズミのウサギバージョン。体当たりからの気絶で自爆。バケット(土を掘る部分)で殴って勝利。鑑定では肉が上手いとの事なの肉ゲット。異世界初の生肉です。肉はC2級
ツノシシ :サイのような角の生えた猪。体当たり~以下略。肉2号 B3級
スライム :ゲル状の魔物。可愛げは無い。非常に不安定な生物。刃物は効果が無いが、バラバラにすれば死亡する。死骸は食えないし、踊り食いも不可。
「さて、折角の肉だし帰って焼肉でもするかな」
スマホ地図の現在地にマーカーをつけて帰ろうとした時だった。
『警告、西方およそ150mに、未確認生物反応があります。ご注意ください』
「また何か出たか!」
俺は、敵襲に備えて右方向に目を向ける。
「・・・ん?」
そこには、また新種の生物がいた。
まあ、全てが未確認だから俺にとっては新種だよな。
大きさは人とほぼ同じくらい。体型は人によく似ているし、粗末ながら衣類らしき物を着ている。見える部分の体色は茶褐色で黒いモヒカンのような髪も確認できる。目と耳が2対あり、鼻と口もあるが…顔は…濃いな。原人?少し耳が長め?まあ、地球人にもほりの深さとか違いがあるし異世界の人類なら、むしろ地球人に良く似ていると言える…かな?
俺はとりあえず、ミニショベルのエンジンを止めて、キャビンから顔を出してみる。キャビンはガラス窓で囲まれ、車の運転席と同じように安全で、しかもこれは冷暖房完備だ。屋根だけの物はキャノピーというが、結界機能を考えた時、割高なキャビンタイプだったことに感謝する思いだ。
「やあ、こんにちは」
相手を刺激しないように静かに声をかけながら鑑定をする。
【鑑定:目の前のアレ】
ホモブ・ゴブリン。ゴブリンの特殊進化種。性格は温厚で高い知性を持つ。生まれた時からホモブ・ゴブリンである場合や後天的に変じる場合もあるが、総じてゴブリンとは相容れない関係になる。実態は再び人類への道を進みだした、新たな原人。
…マジか!!
ゴブリンから進化した原人?…スーパーゴブリンじゃないんだな。
名前 :なし
種族 :ホモブ・ゴブリン族
年齢 :7歳
職業 :狩人
レベル:8
生命力:80 /105
魔力 :15/15
筋力 :180
敏捷 :25
知力 :40
状態 :空腹
スキル:潜伏2・ 気配察知1・槍術2
魔法 :土魔法1
ギフト:
所持品:木の槍・毛皮の服
備考 :前世の魂を継承
前世!? 転生者? さらに鑑定発動。
【鑑定:前世の魂】
前世の記憶ではないので、前世を覚えているわけではないが、前世の価値観が本能に刻まれている。
おおおお~~転生のモラルとな。見た目ちょ~と怖いけど、人間らしいゴフ原人ってことか!
魔法も持っているようだし、これは是非、友好的な関係を築きたいな。もう一度声をかけてみるか。
「こんにちは~」
「…ホブ?」
おお!返事があった。しかも「なに?なんか用?」って感じの返事だ。ここは一つ食べ物で釣ってみよう。俺は軽食用にと持ってきていた「干しいも」を、つかみゆっくりキャビンを出る。袋を開いて中身を良く見えるようにしながら、取り出した「干しいも」を食べて見せる。そして、ホモブ・ゴブリンにも「干しいも」を勧めるジェスチャーをしてから、そっと地面に置いてキャビンに戻った。芋は袋の上においてあるので、袋ごと食べようとはしないだろう。
ホモブ・ゴブリンは首をかしげている。
俺は、キャビンで芋をかじっている。
ホモブ・ゴブリンは俺と地面の芋で、視線をせわしなく動かしている。
俺は別の芋袋を取り出し、また食べる。
ホモブ・ゴブリンは、ゆっくり近寄り芋を拾い匂い確かめる。少しだけ千切って口に…いや舐めただけで、まだ食べない。更に千切った小さなかけらを口に含むと慎重に芋を吟味している様子だ。毒を疑っているのだろうか?しかし、敵意などは感じられない。やがて、かけらを食べ終えたのか、最初に千切ったかけらの残りを食べ、残った芋を全て袋に戻した。
おお、ビニールの袋を理解できるのか。
俺は芋の袋を差し出しながらゆっくり歩く。
そして、ホモブ・ゴブリンもまた、ゆっくりと芋を受け取とり「ホブホブゴブホブ」と何事か俺に告げ、回れ右して森の中へ走って行った。
「あ、え?ちょっとまって」
困惑し呼び止める俺など気にもせず、ホモブ・ゴブリンは芋袋二個を手に、森へと消えた。間も無くナビにも表示されなくなった。
「何かまずかったかな…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます