第3話異世界の犬?

翌朝、防具を考える。

 

「ファンタジー物の定番は、騎士が全身金属鎧で、冒険者は部分金属鎧か革鎧ってってとこか。鍛治なんて出来ないし革もないな。丈夫な布っていってもケブラーとか売ってないしなあ」


とりあえず、作業服売り場で大きめサイズのベストを探す。このベストをベースに補強をしよう。

資材売り場にあるガルバリウム板・ボンド・極細のステンレス針金・玉掛け用繊維スリング・ステンレスメッシュを組み合わせてみよう。ベストの表面にステンレスメッシュを縫い付け更に玉掛け用繊維スリングを重ねる。玉掛け用繊維スリングは荷の吊り上げで、使われるのでとても丈夫だ。縫い付けは千枚通しで下穴をあけ針金で縫い付けた。重ねた面にはボンドを塗ってあるので取れにくいはずだ。最後にガルバリウム板を重ねる。動きは制限されるが革鎧程度には防御力があると思う。まあ、あの熊相手じゃ裸と大差ないだろうけど、それは仕方が無い。同様にズボンの前面や膝下部分に繊維スリングを縦に縫いつけ、両側面に平板の金物を縫い付ける。これは主に四足獣の爪や噛み付き対策だ。


頭はバイク用ジェット型ヘルメットにした。フルフェイスよりは軽く、シールドで顔を守れるのが利点だろう。もちろん金属などで叩かれれば壊れるが、爪などを一瞬でも止められれば、その分生存率が増すはずだ。靴は編み上げで革の安全靴にした。これで、おおよその準備が整ったと思う。


「次は勝つ!」


自身を鼓舞すべく、森に向かって俺は叫んだ。



たぶん一週間は過ぎたと思うが熊が現れない。

前回で懲りて二度と来ないならそれでも良いんだが、来るか来ないかはっきりしないのは精神衛生上よろしくない。

じっとしていてもイライラが募るので、各所に監視装置を取り付けて回る。赤外線モーションセンサーで動体を感知したら防犯カメラが起動し、同時に主装置から警報が告げられる仕組みだ。これがあれば、一人では目の届かなかった部分の警戒ができるだろう。


車で敷地内を巡回する。

燃料の不安はあるが、生身で歩いていて襲われたら逃げ切れないので、車は必須だ。

すると、森から喧騒が聞こえ、それは徐々に近づいてくるようだ。

やがて、それは現れた。

二足歩行で起立した犬のような生物が五体、周囲を警戒しつつ森から出るてくると、車に気が付いたのかガウガウと、吠えながら威嚇してくる。

身長は140cm程か?灰褐色で衣服はつけていないが、動物の頭蓋骨を兜のように被り、それぞれが武器を持っている。四体が一握りほどの太さの木の枝、そして一体が剣らしき物を持っているが、緑色なので鉄ではなく、銅か青銅の表面が腐食したものかもしれない。


 「グルルルル、ガウ」


はっはっは、生意気にもなにやら威嚇してくる様子で、グルグルギャンギャンと吠えながら、テコテコと走ってきやがる。おいおい、お前ら何故二足歩行になった?その頼りない足取りなら素直に四足歩行していた方が良いんじゃないか。


「…車の実験をするチャンスだな。結界があるから攻撃されても大丈夫なはずだけど、スパイクなどへの結界の影響を調べるには、いい機会だろう。悪いけど相手をしてもらうぜ」


車をゆっくり移動させて、森から離れる。

お、逃げると思ったのか追いかけてきたよ。

頑張ってついてこいよ~。

森から十分離れたら進行方向を変えて加速。

一気に引き離してUターン。

そして。


「突貫!!」


全速力で体当たりを行うと、犬共が慌てて逃げ散る。


「ふふふふ、犬共よ、聞こえていないだろうが、あえて言わせてもらおう。怨むなら自分の生まれを怨むがいい……俺は猫派なのだよ。犬に生まれた、お前たちががいけないのだ。フハハハハ……は?…やば、熊も出た!」


若干ハイになりながら、コボルト(推定)に車で向かっていくと森から新たに、黒い影が出てくるものが見えた。それは忘れもしないあの大熊だった。


「でたよ、熊でた!」


犬を放置して、熊へと向きを変える。

熊は走る俺の車を見て超警戒し始めた。

いやあ、改めてみてみると、やはり大きいね。

こっちの軽バンに勝るとも劣らない大きさの熊が、ゆっくりと歩いてくる。

ま、動きはゆっくりだけど、歩幅が半端ないから、意外と移動速度は早い。


「ガアァ!!」

「ブオン!ブオン!ブォ!ブォ!ブオン!! ブォ!ブォ!ブォ!ブオン!ブォ!ブオン!!」

「ヴオォガアアア」

「パアー ブオン!ブオン! プァプァプァー」


前回のことがあったからか、いきなり突進してくることは無かったので、互いに向き合い吠えあって威嚇しあう。もっとも、こちらはクラクションとエンジン音で威嚇しているけどな。エンジンを族のバイクのような感じで、フカシてみたがちょっと違う気がする。まあ威嚇にはなっていれば問題ないな。

チラリと犬達の様子を見てみれば、意外にも逃げ出さないで、俺たちの周囲を取り囲んでいる。漁夫の利狙いで様子見しているのかもしれないが、あいつらどう動くのかな。

熊に向かってアクセルを踏み込む。

熊はこちらを迎え撃つつもりのようで、立ち上がって威嚇を続けている。


「はっは、的がでかくなった。そのまま動くなよ」


今乗っている軽バンのスパイクは鉄筋製で大きくは無いが、とりあえず突っ込んでみる。


「死ねえや~~~~」


俺は叫びながら突っ込むが、熊は右手を振りかぶりフロントガラスへと振り下ろしてくる。スパイクが短いため、熊の攻撃も届きそうだ。怖い!半端なく怖いが跳ね返せるはずだ。

ガン!!   


「グオアアア~~~」


ドン!メキメキメキメキ・・・・・ドドオオオン


右上に振りかぶられた手は…ん? 足か…熊の手っていうし手でいいな。熊の右手が右上から左下へと斜めに、運転席の俺をめがけて振り下ろされる。そして、その途中にあるガラスに触れる直前、結界の効果が発動。映像を逆再生するように、腕が再び右上へと振り上げられた。その勢いは振り下ろしの数倍の速度で、勢いのまま体ごと後方へ捻り回転ですっ飛んでいった。熊は悲鳴を上げながら樹木をなぎ倒し、森へと突っ込む。


「やったか!って、フラグ立てんな、俺!」


樹木をへし折り倒れた熊は動かない。また気絶しているのかも知れないが、これで終わりにしたら、また逃げて襲ってきての繰り返しだ。それでは俺の精神か胃袋のどちらかが、崩壊しかねないので、ここで決着をつけたい。

俺は車を動かし、後部スライドドアを熊の方へと向けると運転席から後部荷室へと移動する。


「ああ、くっそ狭い。ハンドル邪魔だな、あた、あいたたたた足つった。くそ、絶対熊許さん」


狭い車内を、無理やり移動し後部荷室へと移動する。次は別の方法を考えよう。

俺は荷室に用意しておいたクロスボウを手に持ち熊を睨む。


「食らえ!」


カシュン

トリガーを引いて射出。軽い音と共に打ち出されたボルトが熊の腹に突き刺さる。ああ、見えるボルトの長さから推定して,刺さった深さは5cmもない。あの巨体じゃあまり効果が無いだろうな。


クロスボウを車に戻し、いくつかの薬瓶を取り出し投擲する。


「先ずは、一杯飲んでくれ。今日は俺のおごりだ、遠慮は要らないぜ」


投げた瓶は熊の近くの木に当たり砕ける散り、中身の液体が熊の顔にかかる。割れ易いようにガラスカッターで筋を入れておいたが上手くいった様だな。


「フゴン!グモガアアァァァァ」

「薬品売り場で売っていた、無水エタノールの味はどうだ?アルコール純度99%以上だそうだぞ。俺は飲まないから味を教えてくれよ。ほら、お替りもあるぞ」


熊はもがき暴れている。


「次はこれだ」


車から取り出した水鉄砲を構え、ポンプアップして熊の顔を狙い撃つ。

子供用の玩具だが6m程度は水を飛ばせるやつだ。

やがて銃から一直線に液体が打ち出され、熊の顔を濡らす。


「ギャウウウウウウウウウ」

「どうだ、ハッカ油の感想は?ミントがスーっとして、酔いも覚めるだろう?」


アルコールが熊の目をつぶし感覚を鈍らせ、ハッカ油の匂いと刺激が更に目と鼻をつぶす。直ぐに洗えば大きな危険は無いが、熊にそんなこと出来やしないからな。目を磨ろうものなら更に悪化だ。

運転先に戻り、車を後退させながら、大声で熊に向かって叫ぶ。今、熊は目と鼻をふさがれた状態で逃げるのもままならないが、俺の声を聞けば怒りで向かってくると思う。


やがて熊はゆっくりと森から這い出し、俺の方へと向かってきた。計画通り熊を釣り出した俺は、時折クラクションを鳴らしながら、資材置き場近くへと熊を誘導。


「水鉄砲第二段、作戦名混ぜるな危険!」


熊の顔目掛けて塩素~

熊の顔目掛けて酸性~


混ぜるな危険は本当にヤバいからな。

まだ世に注意表示がなかったころ、風呂掃除でうっかり両方使ったら、風呂桶の中でひっくり返った状態で、目を覚ました。水道の蛇口が曲がって、自分の腰に痣があるのを見て、ぞっとしたのを覚えている。


そして狙い通り、熊の意識が飛んだ。


車をフォークリフトに乗り換えて、大型スパイクを装着する。

熊の近くに戻ったところで、モロトフ、モロトフ、モロトフ三連打。


「グウオアアアアアアアア」


全身を炎で包んだ熊が、意識を取り戻して、立ち上がった。

だが、熊は悲鳴を上げ恐慌状態だ。熊は周囲の状況がつかめず、闇雲に腕を振り回しているが、それはただ空を切るだけでしかない。


フォークリフトの爪の高さを調整して、スパイクを熊の体にあわせ、資材置き場と熊を挟む位置に移動してから、熊へと一気に突撃する。本日2度目の特攻だ。


熊はフォークリフトの音に気が付かず、炎から逃れる事に夢中で、逃げはしなかった。

スパイクが立ち上がっていた熊の腹を捕らえる。

突然の衝撃に熊は暴れるが、構わずフォークリフトで、資材置き場に向かって押し進む。熊が両手で結界を叩くがフォークリフトにダメージは無いし、スパイクから体を抜く事も出来ないようだ。

もろ手つきでもすれば、反動で抜けだせそうだが、そこまでの知恵も余裕もないようだ。

そのまま結界まで推し進め、フォークリフトで熊を挟む。フォークを降りて、資材置き場のクレーンを操作し破城槌の吊元を前方へと移動する。破城槌の後部にはロープが結ばれ天井付近の滑車を通って床のアンカーへと繋がっている。そして破城槌といっても木製ではなくH鋼製で、しかも刺さり易いように先端部を斜めに切り落とした傑作だ。

俺は熊を横目に長柄の斧を振りかぶる。


「今度こそ終わりだ」


俺は斧を振り下ろし、ロープを叩き切った。

直後、破砕槌が振り子となって熊を襲う。


「グガッ」


それは狙いたがわず、熊の体を刺し貫いた。さすがに逆側まで貫通するようなことは無かったが、それでも鉄骨は深々と熊に刺さっていた。衝撃でフォークリフトにつけたスパイクも、根元まで見えなくなっている。スパイクは単管杭を加工したもので長さは1m程だ。さすがにこれが刺さって死なないということは無いだろうが、油断せず監視する。


やがて・・・・・。


「ワン!」

「うぉんうぉん」

「がうが~う」

「わん!」

「がう?」


犬が近づいてきて熊を見ながら騒ぎ始めた。なにか相談しているようにも見えるが、当然犬語は分からない。こいつら俺に敵対していたはずなのだが、どうしたのだ。


コボルトは、徐に武器を掲げて熊を攻撃し始めた。熊は僅かに反応したが反撃できるような力が残ってないのか、されるがままだ。ひとしきり殴って満足したのか、犬がこちらを向く。やる気かと、身構える俺の前で犬は俺に顔を向けたまま、横になって腹を見せた。


「…いや、態々寝転がらなくても、腹はさっきからずっと見せられていたぞ」

「「「「「 !!! 」」」」」


「お前ら服着てないし二足歩行だから、常に丸見えだよ。…何で『俺に指摘されて初めて気が付いた』みたいな顔しているのだよ。愕然とする犬って初めてみたわ」


…ん?


「何で四つん這いになっている? いや、犬だからそれが正しいのか?」


「わん。わんわん、おんわーん」

「「「「「「わんわん」」」」」

「わん?わんわんお」

「……」


急に犬同士で言い争い?されてもなあ。


「なんだか知らんが、込み入った話なら帰ってやってくれないか」


「「「「「わおん」」」」」


何か驚いているが、付き合いきれないので店舗に入って飲み物を飲む事にする。この世界に来て以来悩みの種だった熊をやっと倒せた。ここは勝利の美酒を味わおうじゃないか。

冷蔵ケースから缶ビールとグラスを出して注ぎ一気に呷る。

ぐびぐびぐび


「うまぃ…ぶーーーーー」

「キャイン」!Σ(×_×;)

「げっふぉ、げふげふぉ」

「「「「わふ?」」」」

「何で、お前らが中に居るのだ!?」


目の前に犬がいて思わずビールを噴出してしまった。結界はどうなっている? 

今襲われたらさすがに不味いぞ。

武器を探して周囲を見回すが、近くには武器になりそうなものは無い。隙を見てダッシュで逃げるか。俺は犬の様子を窺う。


「………」


犬は大騒ぎだった。

たぶんビールを被った奴が、俺が残した缶ビールを飲もうとしていて、残りの奴らがオロオロしながらも止めている。


「……」Σ((*ω*)

「「「「……」」」」(´Д⊂三⊃Д`)


どうなっているんだろうか。

とりあえず鑑定するか。


【鑑定:コボルト】

名前:黒足

種族:コボルト族

年齢:3歳

職業:警備隊員リーダー(オス)

レベル:3

生命力:18/20

魔力 : 5/5

筋力 :55

敏捷 :15

知力 :45

状態 :酔い(ほろ酔い期)・警戒2・統率1

魔法 :

ギフト:

備考 :奈良 健人を崇拝中


俺を崇拝!?何でだ?

そして数字表記か…俺と比較できないんだけど、これが普通か?




名前:たれ耳

種族:コボルト族(メス)

年齢:2歳

職業:警備隊員

レベル:1

生命力:15/15

魔力 : 3/3

筋力 : 45

敏捷 : 10

知力 : 43

状態 :奈良 健人に好意を持っている

スキル:追跡1

魔法 :

ギフト:

備考 :

以下3匹略


 コボルト族:犬に近しい生物から進化した種族。比較的高い知能を有し温厚であるが、彼らの群は強者が率いる慣わしがあるため、その者の性質によって、群れの性質も左右される傾向にある。

調べるとどいつも大差ないステータスだったが、一応リーダーが一番高かった。だが、そんなことは どうでもいい。一匹妙なのがいる。俺は種族の壁を越えようとは思わんし、頼むからお前も自分の種族を忘れるな。

それにしても、こいつらやけに察しがいいな。まさか言葉が分かるのか?


 「右手を上げてみろ」


 (`・ω・´)ノ

 (`・ω・´)ノ 

ヽ(`・ω・´) 

  (`・ω・´)ノ 

ヽ(`・ω・´)ノ


「・・・正解は一匹だが話しは分かるようだな」


 すげえ、話せなくとも理解はできるんだな。意外と頭がいい?・・・いや、幼児くらいか?右手間違えているし。


 「お前達は何故ここに居る」

 「「「「「わん」」」」」<(_ _)>

 「…すまん。聞いても分からなかった」


 ピロンピロンピロン


 ん?スマホのメール音?

 俺は懐からスマホを取り出しタップ。こいつ動くぞ!と思いつつ、復活したスマホを操作しメールを確認する。


差出人:管理者 

件名:業務連絡 

本文:言語理解アプリを導入しました。スマホからアプリを起動すると以降は徐々に言語理解能力が向上していきます。このアプリは貴方を中心に周囲へと効果を広げていきます。但し、対話を拒む物、相手を否定し拒絶する者には、効果が及びません。

あなたの忍耐に感謝致します。

…もはや、どこから突っ込めばいいのか…いや、神様アプリありがとうございます。早速起動させていただきます。 


 「お前達は、何故ここに居る?そして目的は何だ」

 「わおん」(はい。是非あなた様の配下にしていただきたく追ってきました)

 「配下に?」

 「うおふ」(あの熊を倒されたお力に感服いたしました)

 「ふむ。しかし、お前らは今群れに所属しているだろう?その群れはどうするんだ」

 「く~んわんわん」(群れは近くにいます。数は30くらいです。群れ長と話し配下に加わるよう説得いたします)


 意外と少ないな・・・野犬の群れと考えたらそのくらいなのか、ほかに理由があるのだろうか。


 「数が少ないようだが?」

 「わふん…わう」(元はもっと多かったのですが熊に襲われるたび大人が戦ったり囮になったりで、既に自分らのような半人前と女子供以外は…)


 そうか、あの熊に追われていたのは囮になっていたのか。良い奴らじゃないか。


 「よし、わかっ「わんわんわん」(リーダー大変だ!仔供が小さな箱に入れられている)た…何の騒ぎだ?」


 声のした所にいけば、延々ペットフードの宣伝を繰り返すモニターを見て騒いでいる奴らの姿があった。そういやリーダーと話しているうちに数が減っていたな。こいつら勝手に探検していたのか。


 「落ち着け。それは本物じゃなくて動く絵だ」


 俺は懐からスマホを取り出し、リーダーを撮影しながらポーズをするよう指示を出し録画する。


 「これを見ろ、ここにリーダーが居るだろう。これと同じ事だ」


たった今撮影された映像ならば映っているのがリーダーと納得し易いだろう。


 「うおん。わう~」(へ~凄いリーダーが箱に居る。じゃあ、この仔の本物はどこに居るんです?)


 「いや、この仔の本物はここには居ないし、これは犬といって、お前らとは違う生き物だぞ。似ているけど違うからな」


 大切なことだから二度言っておく。


 「く~ん」(そうなんだ・・・可愛いのに・・・じゃあ、この仔が食べているものも無いんですね)


「わん!?」(それなら、これじゃね!?)


早速ドッグフードがばれたか。どうすっかな食わせてみるか?元々犬みたいだし害は無いよな。味覚と現在の食生活しだいか。


 「お前・・・いや、黒足達は普段どんな物を食べているんだい?」


いい加減お前呼ばわりは失礼だな。生物学的には犬系だけど、存在としては人だな。しかも、仲間のために命を張ってきたんだ、その生き様には敬意を払うべきだろう。


 「くく~ん。ばう」(鳥や小動物かな・・・あと木の実とかかな)

 「じゃあ、食べてみるか?ただ、味の保障はしないぞ」


 なんか食いたいと騒いでいるやつらが居るんだよな。


 「これは犬といって、君たちのように道具を使ったりできない種族だ。もしかしたら、なが~~~~~い時間をかけたら、君たちのような生き物になるかもしれないけど、これはまだ違うんだ。だから、この犬が美味そうに食べていても、君達が食べて美味いとは限らない。だから不味くても俺に怒るなよ?」


 そう言い置いてからドライフードを開封して皿に出す。


 「少しにしておけよ」


 再度念を押したが、だめだな結構掴んだぞ。しかも菓子好きの子供みたいにガバッと口に入れた。

 あれ?犬や猫って租借しないで、飲める大きさに噛み砕くだけだよな。小さければそのまま、まる飲みだろ?味覚は関係ないのかもしれないか。


 「わん?わん…わん…わん」(これは? なんだか…食べだしたら…止まらない)

 「まじで? あ~それ食ったら水も飲めよ。腹の中に水分が少ないと消化に悪いからな」


 5匹、5人か?揃って食い始めたよ。きちんと説明したし、これで体に害が無ければ問題ないか。

さて、熊の様子を見に行くか。と言っても見た目で、死んでいるかどうか判断じゃなくて、鑑定で生死を確認すればよかったんだよな。




【鑑定:熊】

名前 :

種族 :デスベア

年齢 :7歳

職業 :

レベル:25

生命力:5 /600

魔力 : 0

筋力 :700

敏捷 : 35

知力 : 8

状態 :瀕死


スキル:威圧(咆哮)・気配察知1・強打3

魔法 :

ギフト:

所持品:

備考 :


 「マジでまだ生きていた。さすがにもう動けねえか?そういって前回やばかったから、近寄らないぞ。ステータスを見ながら離れてトドメだ」

一旦店内に戻り、建築工具売り場から大ハンマーを持ってきた俺は、しっかりと狙いを定め、鉄骨を叩いた。無理して熊殴らなくても刺さってんだから鉄骨殴ってればダメージ入るだろ。

 「ぐうううぅぅ…」

 「鑑定」


  生命力:1 /600


 「もいっちょ」


 ゴン

 状態 :死体

 生命力:0 /600

 やっと死んだ。

 備考 :資金化部位あり


 お?資金化って何だ。

資金化=対象に金銭的価値が認められた場合、ゴールドに変換される。また1G=1円として店の資金に充当される。


「ほ~~。金は差し迫って必要ではないけど、このまま放置も嫌だし森に捨てに行くのも嫌だから丁度良いな」


 よし変換だ

 変換対称:デスベア

 肉:状態D5級

 臭みがあって人には好まれない。

 =4500G

 毛皮(加工素材):状態D3級 傷あり

 防寒着や敷物等に加工される。低級の魔物を寄せ付けない効果がある。

 =21500G


 爪・牙(加工素材):状態B2級

 罠や簡易な武器として加工される。欠け・中折れ・ヒビあり

 =25400G


 「微妙だな。命がけで5万ちょっとか」


体を穴だらけにしてしまったし、そもそも死体を何かに使えるとか換金できるとか、考えてなかったからな。毛皮の価値がダダ下がりでもしかたないな。

あ、一応黒足たちに欲しいものがあるか聞いてみるか。肉食うかもしれんし。

俺は、店内に戻り黒足たちを探すが、見当たらない。もしかして、まだ食べているのだろうか。とりあえずよんで見ることにする。


「お~い。黒足どこだ~」

「きゅ~ん」(ここです~)


返事はとても苦しそうだった。まさか苦しくなるほど食ったのだろうか。声のした方へといくと、5人とも床に倒れて呻いている。しまった、ドッグフードが体に合わなかったのだろうか。


「おい、どうした!しっかりしろ」

「きゅ~んくきゅ~ん・・・」(急に苦しくなって・・・)


くそ、鑑定で原因が分かるか?

【鑑定:黒足】

名前:黒足

種族:コボルト族(進化中)

年齢:3歳

職業:警備隊員リーダー(オス)

レベル:3

生命力:18/20

魔力 :5/5

筋力 : 55

敏捷 : 15

知力 : 45

状態 :悶絶

スキル: 警戒2・統率1

魔法 :

ギフト:

備考 :奈良 健人を崇拝中

   : 辞世の句を考え中


進化中!?何だ、それ!というかこいつは!!


「おい!!何弱気になってんだよ!辞世の句とか、はえーよ、まだ死なねえよ!」


【鑑定:進化中】

現在の種族から上位種族への進化中。進化条件は種族によって変わる。

くそ、もひとつ鑑定

【鑑定:コボルトの進化条件】

コボルトの進化条件は十分な栄養及び大量の経験値


十分な栄養?まさかドックフードが!?

鑑定内容を見ているうちに、黒足達のうめき声と悶える姿ガ落ち着いてきた。あれ?なんか姿が変わってないか?いや、明らかに違うぞ。ノーズが縮んだ…というか別の生物になってないか。

【鑑定:黒足】

名前:黒足

種族:ハイ・コボルト族

年齢:0+3歳

職業:警備隊員リーダー(男)

レベル:2

生命力:40/40

魔力 :15/15

筋力 :85

敏捷 :35

知力 :48

状態 :俺はコボルトを超越した

スキル: 警戒2 統率1

魔法 :

ギフト:

備考 :奈良 健人を崇拝中・俺はコボルトをやめる。UREEY…


やめい!!それやめろ!UREは、やめろ!!どうなってんだよ、ステータに爆弾仕込むなよ!これ、あれか、あの女神の仕込みか?


顔・・・口の形状が変わってブルドック? 明らかに短くなっている。これ進化なんか?


「ふう。やっと体の痛みが消えました。ご心配おかけしましてすみませんでした」

「は?」


え、なに、副音声じゃなくて普通に喋っているように聞こえるんだけど、どうなってるの。


「なあ、黒足君や。君普通に喋ってないかい?」

「何の話ですか?自分今まで通りですよ」


うっそ~~~~~~。完全に会話が成立しているだけど、これ何!


俺のステータスはどうなっている?

【鑑定:ステータス】

名前 :奈良 健人 (なら けんと)

種族 :人族(男)

年齢 :18歳

職業 :自宅警備員

レベル:2

生命力:若さ爆発

魔力 :微レ存

筋力 :筋トレ推奨

敏捷 :動かざること山の如し

知力 :異界

状態 :無職


ちょ!ちょい待ち。職業が自宅警備員で、状態が無職ってどういうこと!? ニートだっていいたいの? 違うよね、俺ちゃんと戦ったでしょ? 自宅と序にコボルトも守ったよ。自宅警備員は誇りある職業だよ。無職じゃないよ、これからコボルト達を住人として迎えるんだ、つまり寮経営も始めるって事でもあるんだ。俺は日本でも建設関連の自営業で、ちゃんと働いていたんだよ! あとさ、魔力準備終わったけど魔力無いに等しいんだね。期待させて落とすとか鬼ですか。それとですね、敏捷なら動くもんに例えろって思っちゃったりするんですけど、不敬罪で神罰とか怖いから口には出しませんよ。


スキル:運転3・会計3・ 潜伏2・大工1 ・左官1・武器作成1・投擲1・射撃1

魔法 :

ギフト:鑑定・ホームセンター

所持品:サイフ・スマートホン・異世界の武具・防具


スキルが増えた!?…って、これ順番が違うな。スキル習得したら出来るじゃなくて、出来るからスキルとして表記だったはずだから自分のスキル欄はあまり意味が無いな。

そういや、ギフトのホームセンターを鑑定してなかった。確認しておこう。

【鑑定:ホームセンター】

奈良健人が居た異世界の小売店。奈良健人と共にデーター化された店舗を元に管理者が独自の調整を施している。


 あれ、説明これだけか?確か女神様は「敷地内の全てを貴方の意思で任意の場所に呼び出せます」っていっていたのに。やっぱりマニュアルが欲しい。俺、感覚で使っていると最後まで本当の性能や便利な使い方知らなかったりするからなあ。

状況把握を終えて、熊の前に戻って黒足達に欲しいものがあるか聞くと、彼らは毛皮が欲しいそうな。


「あの、毛皮もですが、その・・・御館様が着ていらっしゃる服をいただけたらありがたいのですが…」

「あ、ああ、そうだな。それは熊と別に分けてやるよ」


彼らは進化の後、なんというか妙に人間的になった。昔、聴いた話では猿は進化しても猿としての能力を追及するだけで、人にはならないって話しだったんだが、彼らは股間やらなんやら隠すようになって、より人間っぽい精神を持つようになったようだ。コボルトとの同族意識残っているのか心配になるな。


「毛皮を現物で。残りは換金お願いします」


とりあえず女神様?に向かって換金を依頼した。熊は光の粒子になって消えて毛皮が残った。


「でかい熊の死体を、さくっと後片付けできて助かった」


その後、俺が飯の用意を始めるとハイ・コボルト達も食べてみたいという事で、皆で夕食にする。地球の料理は非常に喜ばれた。更に酒まで一緒に飲んで騒いで寝た。あれ?一族全員きて同じものを食べたら、補充が間に合わなくないか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る