第六話 反董卓連合結成
彼らが徐州に赴いてから早一月が過ぎた頃。緊急の招集を受けた龍二達は劉備の許に急いでいた。
早朝、魏の曹操から早馬が到着し、急変を伝える書状が届けられた。その内容がこの国の根本を揺るがすようなものだったからであった。
───西涼の董卓、若き帝を弑逆。
およそこのような内容の書状であり、檄文であった。
集まった諸将は憤慨した。たかが臣下の分際でこの国を統べる皇帝を虐げる行動をとっているのだからそれは当たり前だった。
しかし、どういうわけか若干名顔色がすこぶる悪い。
「翼徳、どうしたの?」
顔色が疲労に染まっている張飛に関羽が尋ねた。見れば、関平や星彩らも真っ青にやつれていた。何故か呉禁は楽しかったような顔をしていて、趙蓮の頬は真っ赤に腫れ上がっていた。
「さあ? 悪い夢でも見たんじゃないですか?」
周平が意味ありげに不敵な笑みで述べると、関係者の背筋に悪感が走った。
「はいはい。軍議を始めるので真面目に」
孔明が注意して軍議は開始された。
先に劉備が集まった彼らに開口一番「冀州に向かう」と宣言していた。この軍議では冀州に派遣する兵数と留守役の将軍を誰にするかというものだった。
現在、徐州領内の兵数は約三十万。全軍を向けることはここをどうぞ奪ってくださいと言っているようなものなのでできない。会議の結果十万は領内防衛に充てることに決定したが、誰が残るかで時間を予想以上に食ってしまった。
結局ホウ統を防衛軍の軍師に、馬超・姜維らが残ることになり、即日発つとの触れを立てた。
「尚妃ちゃん」
出陣の時間、達子は孔明の妻である
二人はひょんなことで知り合ってから妙に気が合い、これまでもよく一緒にいることが多かった。
「私、今回は尚妃ちゃんの隊の副将になったから、よろしくねっ」
「そうなんですか! お願いしま~す」
二人が楽しそうに馬を並べて会話しているのを見た朱雀は、何だか嬉しそうだった。
「なあ青龍」
抑揚のない声で、龍二は隣にいる青龍に声をかける。
「何じゃ? 白龍」
馬上の青龍が反応する。。
「ここって、異世界だろ? お前らのような力を使える奴がいるのか?」
「いや、誰しもが使えるとは限らんのじゃよ。むしろ使えぬ奴がほとんどじゃろうよ。現にお主じゃて、今はわしのサポートのもとで力を使うておるわけじゃからな。まあ、素質はあるがそれに気づいておらぬ者や素質はあるが、敢えてその力を使わぬ者もいるがな」
「やっぱそんなもんか」
「そういうものじゃよ」
「───ところで、話変えっけどよ・・・・・・やっぱ目立つだろ? それ」
龍二の指摘に、青龍は暫く唸って「やはりそうか」
と言った。
青眼ならまだしも、青髪はこの時代の人間には珍しすぎたらしい。物珍しさに将兵らがチラチラと横眼で彼を見ていた。
青龍にはそれが嫌だったらしい。
「仕方ないのぅ」
青龍が渋々髪に少し触れると、髪の色があっという間に黒に変わった。
「青龍? アンタ、めっさ見られてんぞ」
髪の色が一瞬にして青から黒に変わったのに仰天した周りの者達が、眼をパチクリさせながら青龍を凝視していた。
(ですよねぇ~・・・・・・・・・)
そんな連中を見ながら龍二は彼らに同情した。
「やはりマズかったかの?」
「あぁ、凄くマズかったと思うぞ?」
龍二は正直に青龍に告げた。
(やはり・・・・・・あの者は・・・・・・・・・)
青龍のことを見ていたある将軍は、己が胸の内に抱いていたものが確信に変わったのを感じた。
冀州には、既に曹操の檄に応じた多くの諸将が集まっていた。
「待っていたぞ、玄徳」
「玄徳殿、よく来てくれた!」
発端者である曹操と反董卓連合総大将に任じられた袁紹が、劉備一行を迎えた。
「孟徳。何呑気に迎えてんのよ。もうすぐ軍議が始まるんだから早くしなさいよ」
そこに、右眼に眼帯をかけた女武者───曹操の無二の親友夏侯惇、字は元譲が近づいてきて彼を急かした。
放心している龍二を達子が肘で突っついた。
「ねえ、白龍?」
「何かな尚妃クン?」
「あの、隻眼の女の子をどう思う?」
「・・・・・・まあ、そうだろうなぁとは思ったよ、うん」
「だよねぇ?こう見ると改めて実感するわね」
夏侯惇を見ていた二人は、ここが改めて
しかしビミョーな点がそっくりなだけに、どうにもここが別世界であることに踏ん切りがつかないのもまた事実。
会議には劉備と関羽・張飛の双璧、それに劉超が出席した。
「アレが『鉄を斬る男』、か・・・・・・油断ならぬ男よ」
劉超のことは、中国全土に広まっていた。鉄だけではなく最近では〝この世のもの全て〟を斬るとかという専らの噂である。
それだけに、劉超は警戒の眼差しを諸将に向けていた。
───少しでも妙な真似をしてみろ。即座にその首を宙空に舞わせてやる。
そんな眼差しで彼らを睨んでいた。
「さて。始めるか」
会議内容は総大将以外の個々の役割分担が主だった。
二時間ほどの議論の結果、先陣は孫堅、右翼劉備、左翼曹操、後陣公孫サンらと大まかに決まり、残りの諸将は遊軍として各個臨機応変に動けるようにした。そして、遠征軍の要、兵糧奉行には袁紹の甥袁術が就任した。
会議が終了し、諸将が解散した後、その場所に劉備、曹操、孫堅、袁紹が残り密談を交わしていた。
「どう思う?」
曹操が口を開く。それを皮切りに彼らは思い思いの言葉を口にする。
「あの男・・・・・・何か良からぬ事を考えているようだった」
「まさかとは思うが ・・・・・・・・・」
「あの男は、いわば野心の塊。なきにしもあらずでは? 万一に備えていて損は無いと思うが」
「───そうだな。わしは顔良と文醜を回そう」
「俺は元譲と文遠を」
「私は・・・・・・そうですね、趙蓮君達四人を送りましょう」
「文台。用心に越したことはないが、くれぐれも気をつけてな」
「分かった。皆、頼む」
「やっほ~君達。元気してる?」
突然知らない女武将に声をかけられ、四人はきょとんと互いに顔を見る。そして安徳を除く三人は小さく固まって小声で話し出す。
「おい。誰だアイツ? 知ってるか?」
「知らないわよ。こっちに来て間もないんだから。もしかして変人?」
「いや違うよ。きっと頭のネジが何本かトンデしまった───」
その会話は公孫サンの耳にしっかりと聞こえてしまい、彼女はハリセンを取りだすや三人の後頭部に強烈な一撃を喰らわせる。ハリセンなので大した痛みではないが。
「ボクは変人じゃないし、頭のネジはトンデないよっ!」
「ほう。ツッコミはなかなか」
「そこ。冷静に分析すな」
呑気に分析する安徳に龍二がツッコミを入れた。
「んで、アンタ誰よ」
「ボクは公孫サン、字は伯珪。玄ちゃんの幼馴染みだよ」
───あぁ、そうきやがったか。ボクっ子ときやがったかこんちくしょう
「あーわりぃ。俺、まだ慣れねぇわこれ」
「安心なさい龍二。あたしも慣れてないから」
「僕もさ。それに比べ・・・・・・・・・」
三人の視線は、ある人物に注がれた。
「いやぁ、貴方は実に面白い人ですねぇ」
「えーっ。君の方が面白いよぉ?」
安徳は公孫サンと馬が合ったようだ。聞いている限り他愛もない話だろうが花が咲いているように盛り上がっている。
「アイツは何だってこんなに順応できんだよオイ」
「言うな龍二。考えるだけムダだ愚問だ。そもそも僕らとアイツは頭の構造が違う」
「そうね。きっと頭がどっかしらヘンなのよ」
「誰の頭がヘンですって?」
いつの間にいたのか、安徳が悪魔の微笑みで長光の柄に手をかけてそこにいた。
「あっ・・・・・・あ~ら封徳さん。一体いつからいらしたので?」
龍二は恐怖により声が上ずっている。額には冷や汗が滝のように流れている。
「『アイツが~』辺りからですが、何か?」
「あっ、あはは・・・・・・け、結構早ーくからいらっしゃったのですね・・・・・・あははは・・・・・・・・・」
三人の顔が真っ青に染まり大きく引きつらせながら、足はゆっくり後退していった。ここに来て、三人は巨大な地雷を踏んでしまったような後悔に襲われた。やっちまった、と。
「さ、て・・・・・・皆さん。どうなるか、分かっていますよねぇ?」
三人の全てが止まった。安徳の不気味な笑顔はここまでくるのにかなり不気味さが増している。完璧にこれはつんだと龍二らは悟った。悪魔を宿した安徳には、最早どのような言い訳も弁明も通用しないのだ。
「ね、ねぇ、君達・・・・・・・・・」
完全に蚊帳の外に置かれ、困惑している公孫サンの側に呉禁がトコトコとやって来た。どうやら龍二に用があるらしい。
「え~皆さん。ここは一つ」
「えぇそうね」
「───逃げろーっ!」
こうなってしまってはどの
「私から逃げられると思っているのですかフフフ」
その不気味な笑いで、低い地獄から聞こえてきそうな呻きとも取れる声で、安徳はゆっくりと愚か者達の後を追っていった。その不気味な笑いに、公孫サンビックリして思わずひゃっと声をあげ、呉禁はあまりの恐ろしさから公孫サンの後ろに慌てて隠れた。
「・・・・・・あの子達で、本当に大丈夫かなぁ?」
これから起こるであろう事態に関わるだけに、親友劉備から事の次第を聞いていた公孫サンは、だんだん不安になってきた。
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