閑話 知識と、龍二の太刀
話は劉備達と出会う少し前に戻る。高蘭はある日、龍二達を集めて講義を始めた。
講義、といっても大学などの堅苦しい物ではなく、『知識』を教えるものである。
「この時代の人達の呼び方なんだけど、字で呼ぶこと。名は決して呼んではいけないよ」
どゆこと?と龍二と達子が首を傾げるので高蘭は自分の名で解説をする。
「私は姓は高。名は蘭。字は義孟というんだ。姓はいいよね? それで名については、基本的に親や主君しか呼べないんだ。それ以外の人が名を呼ぶことは無礼とされているんだ」
「何で?」
龍二の端的な質問に高蘭はうんうんと頷く。
「名は諱とも言ってね。本名はその人の霊的人格と強く結びついているといわれてるんだ。だから、名を呼ぶということは、その人の霊的人格を支配すると考えられているからなんだ」
説明しながら彼らの顔を見るが、二人はよく理解していない表情をしていた。
「良く分からんけど、赤の他人が名を呼ぶことが頗る宜しくないというのは分かった」
そういうことにしようと思った。小難しい事よりも、ひとまずは名を呼ぶことが失礼に値するから呼んではいけないということが分かればそれでいい。
「そこで、字の出番が来るわけだ。字は成人した男性につけるもう一つの名前だ。他人はこっちでその人を呼ぶ。私の場合だと義孟がそれにあたる」
「この先合う人には気を付けないとってことね義孟さん」
「そう。これから先、会う人達はきっと君達が知っている者が多い。うっかり名を呼ばないように気を付けないとね」
「そこは、僕らがきっちりフォローするから」
泰平がポンと胸を叩いて笑う。彼らに任せれば安心と高蘭は頷く。
高蘭は話を続けることにした。次に、彼らのパートナーとなる『四聖』に関することである。
「青龍達は元々我が主が制作した4振りの剣に宿った化身みたいなものなんだ」
彼の話によれば、高蘭の主というのは特殊な力を持っているようで、その4振りを制作したときに彼の力の一部がそれらに宿ったらしく、ある日突然顕現したという。それ以後、龍二達の一族のもとに行くまでは彼を助けていたという。
青龍達は彼らの一族のもとに渡った後、彼らと共にその力で世界を様々な障害から護ってきたという。その後、日本の女帝に乞われて渡来しその後は日本を陰から護ってきたらしい。
青龍と朱雀は炎、白虎は雷、玄武は土の力を宿していて、伝授するか、憑依するかで使用できるという。その力は使い方を誤れば身を亡ぼす強大なものだからしっかりと彼らから学ぶようにと忠告した。
他人から見れば化け物と同義なのでその使いどころも考えるようにと。
ついでだからと彼は進藤家について話し始めた。
進藤家は殊更に特殊だったようで、祖である趙子龍の頃から『龍』と呼ばれる意思を持った力が宿るようになったそうだ。『龍』は傍系を含めて一族全員に宿るようで、その力はそれぞれの家の当主から告げられ、その時に『龍』と対面して初めて彼らの力が使えるのだという。つまり、進藤家は青龍の炎と『龍』という二つの力を行使できるのでである。
「初めて知った……」
唖然とする龍二に高蘭はにっこりとして解説を始める。
「『龍』の力は青龍のそれとは比べられないくらい絶大なものだから、物事の分別や自立できる年頃まで秘匿しておくのが決まりみたいなんだ」
『龍』の力はその気になれば国の一つや二つ簡単に滅ぼせるぐらいのものらしく、文字通り危険極まりない。
「さて、この話はこれくらいにしてと。君達にここの世界で使う姓と名、字をお伝えしないと」
彼は懐から四枚の紙を取り出した。そこには達筆で四人の姓名が記されていた。
一枚目
姓 趙 名 蓮 字 白龍
二枚目
姓 劉 名 安 字 封徳
三枚目
姓 周 名 平 字 泰明
四枚目
姓 司馬 名 尚妃
それに加えて同じように書かれた四枚の紙を手渡した。そこには姓、名、字の文字が抜かれた同じものが書かれていた。
「今日からこれを使ってくれ」
女性である達子には字がない。それがこの國での常識らしい。故に字から先がない。しかし、自分達の名前を一字使うとは味なことをしてくれる(達子を除く)。四人は分かったと了承した。
「ところで・・・・・・・龍二君。それは一体・・・・・・」
高蘭は龍二の右側を見ながら呟く。彼は起きたらあったとだけ告げた。それを彼は見たことがなかった。
「太刀という武器です」
龍二は言いながらその鞘を払った。多分じい様が使っていたモノだと。
「へぇ、これが」
安徳が覗き込んでしげしげと見始める。深い反りは高蘭を魅了した。
「良い物ですね」
「聞いた話だけど、じい様が自分で鍛えたみたい」
それから暫くこの太刀について話した後、龍二は高蘭に紐と布を所望した。高蘭は外に出て数分でそれらを持ってきた。彼はそれを器用に手先を使って帯とそれと太刀を結びつける紐を作った。立ち上がって腰に帯を巻きそこに紐を括り付けて「うん、よし」と笑顔で言った。
「彼は手先が器用なのですね」
「見た目によらずね」
高蘭は注意点を再度告げると散会した。
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