第三話 黄巾の乱一 地公将軍張宝討伐
龍二らは、劉備率いる義勇軍の一将軍として行く先々の戦場で大いに暴れまわりその存在を世に知らしめた。
中でも将兵を驚かせたのは彼らの特殊な能力であった。
人外の力である龍二・達子の火炎に安徳の雷、泰平の風である。これは、劉備軍と合流する前に四聖に教えてもらった彼らの柄らである。
劉備軍の者達は彼らを化け物視することなく、温かく迎えてくれたことに龍二らは嬉しい気持ちになった。
「ばっ、化け物だー!」
ある戦場で、賊は恐怖のあまりそんな言葉を吐いて後退りする。常人の普通に当然の反応なのだが、この日に限って今の言葉は自ら死地に足を踏み入れることになるとは賊は気づいていない。その言葉は、ある人物の起爆スイッチであるからだ。
「化け物女がいるぞッ。逃げろー!」
賊の誰かがもう一度起爆スイッチを押した。しかも今回のはかなり致命的だった。
達子の全行動が停止した。
「ゲッ!!」
「マズイ!!」
たまたま彼女近くにいた龍二と泰平は、マズイ汗が額から流れだした。そして、近くにいた味方兵士達にこっちに来るなと必死に訴えた。何故だと反発したり困惑したりする味方に対し
「どっかのバカがアイツの地雷を踏んじまったんだよっ!」
「死にたくなかったら下がって!」
と叫び、それでも反発する者は鳩尾に拳をめり込ませて強制退去させた。青龍や玄武にも協力を要請した。
それは間一髪間に合った。
「・・・・・・が・・・・・・ですって?」
少し怒りがこもっている。見れば陽炎らしきものが上っているように見えるが、わけが分からない賊は攻撃するのを忘れて互いの顔を見合った。
「誰が化け物ですってぇ?」
恐ろしい形相で賊を睨みつけた。悪鬼のような顔に、賊共はひぃと悲鳴をあげながら一ヶ所に密集した。
達子は『朱鋭』を投げ捨ててずかずかと賊に近づくや、いきなり一人の胸ぐらを掴みかかった。
「おい、誰が言った!? テメェか!」
彼女の豹変には味方もビックリした。いつもはどこにでもいるような少女なのに。
(分からなくないけどねぇ)
こうなった達子はたとえあの安徳であっても止めることは不可能である。怒りが自然に収まるのを待つ他ない。更に言えば、この時の達子は敵味方の区別が判断できない。故に達子の被害が及ばぬ範囲まで近づいてはならないことが鉄則となっている。
過去にそれを忘れてひどい目に遭ったことがある。
捕まれた賊は恐怖のあまり近くにいた者を指した。
達子は標的を指された者に変えた。
「お前かゴラァッッ!」
賊は逃げ回った。たった一人の為に恐怖状態に陥ってしまったのだ。
「しゃらくせぇ。テメェらまとめて地獄逝きじゃぁ!」
(字、違くね?)
その様子を、劉備軍は遠くから見ていた。
「えー・・・・・・趙蓮、君? あれは・・・・・・・・・?」
呆然としながら劉備がここまで避難してきた龍二に訊いた。
「・・・・・・アイツ、『化け物』とかそういう類いの言葉を聞くと性格が変わるっつうか、なんつうか・・・・・・・・・」
「あぁなった彼女は周りにいる人を敵味方見境なく無差別攻撃しますからね。ヘタに彼女に視認されたら死にますよ?」
安徳が言うと物凄い重みがあるように感じる。そうこうしている最中に、賊の阿鼻叫喚の悲鳴が辺りに響いている。
劉備軍はそれを黙殺した。敵とはいえ、あれには同情せざるを得ない。
その内、敵の声は聞こえなくなった。どうやら全滅したらしい。
「ちっ、手応えねぇな」
殺り足りないのか、達子はえらく不満顔だった。他にいないか獲物を探すのは、さながら肉食獣のようだった。
(彼女を怒らせるのは止めよう・・・・・・・・・)
劉備軍内にそれが暗黙的規則として組み込まれることになったのは言うまでもない。
「玄徳殿、少々よろしいですか?」
その夜、劉備の幕舎を高蘭が訪れた。手には何か握られているようだ。
「やぁ義孟殿。どうなされた」
快く出迎えた劉備に、高蘭は手に持っていた手紙を劉備に差し出した。
「まずはこれをお読みください」
「これは?」
劉備が尋ねると「我が主の書状です」と答えた。
「我が主?」
高蘭の言葉に疑問を持ちながら、劉備は彼の持ってきた受け取って読み始めた。
読んでいる途中で劉備の眼が見開かれたが、読み終えると彼はふぅと嘆息して書状を綺麗にたたんで簡易机の上に投げた。
「なんともまあ、あの方も無茶をなさる」
「いやぁ・・・・・・申し訳ない」
「あの方の性格は知っていましたが・・・・・・やれやれ」
再び劉備はため息をつく。
「致し方ありますまい。如何せん彼らの力を借りなければ、この世界を救えぬのですから」
高蘭は、はっきりと断言した。手紙の内容を思い返し、劉備は肩を落とす。
「とはいえ、まだ少年少女である彼らに ・・・・・・・・・。
───あの人の力はそんなにも?」
「いえ。力はなんとも。ただ両の眼の光は失いました」
「そうですか・・・・・・・・・」
劉備は、暫く考えるかのように沈黙した。
劉備はこの話を断るかもしれない。仁義の人という噂を持つ劉備だが、こんなすっとんきょうな話を受けてくれるかと言えば自信はない。劉備とて人外の力でを持つ者同士の戦いに巻き込まれたくないだろう。そう高蘭は思っていた。
しかし劉備の口から告げられた言葉は彼を安堵させることになった。
「承知しました。この件、引き受けましょう。
───この事は、私の胸の中にしまっておいたほうがよろしいかな?」
彼らを軍に誘ったのは私だしねと。
「そうしていただけると大変助かります。感謝します玄徳殿。いやしかし、玄徳殿にお任せしできて良かった」
高蘭は笑った。つられて劉備も笑う。
「そうそう、玄徳殿。『彼』は来ていませんか? 龍二君に良く似た───」
「『鉄を斬る男』、のことですかな? えぇ、来ていますよ。そう言えばよく似てるなとは思いましたが、ひょっとして?」
「───今は私の口からはなんとも」
「そうですか。
───まあそれはいいとして、私としては、彼らにあの者をつけたいと思うのだが・・・・・・・・・どうかな?」
「それは願ってもないこと。是非お願いしたい。彼らには死んでもらっては困りますから。
───それに、あの者がいれば彼らに何らかの刺激が期待できると思うのですがね」
ふふんと笑う高蘭を劉備は訝った。
「義孟殿。貴方は彼に一体何を期待しているのですか?」
「まあ、色々と・・・・・・ですね」
「色々と・・・・・・ですか」
「えぇ、色々とです」
高蘭の曖昧な答えに、劉備は苦笑いした。
「今後ともよろしくお願いします」
その言葉を機に、高蘭は幕舎を出た。
「やれやれ。大変なことになった」
劉備は立ち上がり幕舎の天を仰いだ。
龍二らは、戦では大いに働き、それ以外は高蘭、陳明から馬術と弓術を教授してもらうことになっていた。将たるもの馬に乗れなきゃ話にならないし、万一の時に弓は役に立つと高蘭に言われたからだ。高蘭が馬術を、陳明が弓術を教授することになった。何でも陳明の弓術は天下でそれなりに知れた腕前なのだという。高蘭は名手と思っているらしい。
───まず基本を徹底的に身体に叩き込むことが大事だよ
ある日、練習している龍二らに弓の名手陳明はそう助言した。
高蘭・陳明の教え方が上手い為か、そんな日数が経たぬうちに馬術や弓術はその辺の雑将よりは上手くなり、中でも安徳の弓術は劉備軍内、若しくは天下一の腕となった。
「私にかかれば、このようなもの、ちょろいもんです」
例の如く自慢げに言う安徳のことは無視したかったが───。
「いやぁ、サスガダネ」
と三人は片言の言葉で褒めた。
と言うのも、かつて一度彼の自慢話(?)を無視したことがあったのだが、その時は安徳の好意の実験───と思っているのは安徳だけで、龍二達三人や端から見ている者にとってそれは地獄のようであった。更にいえば、この後二日くらい原因不明の高熱・吐気・悪感に襲われたという───に付き合わされたからである。
「すご・・・・・・まだそんな経ってないのに」
「
「うん・・・・・・・・・」
この上達っぷりには弓の名手陳明も度肝を抜かれた。高蘭は噂通りで安心したように微笑していた。
「劉備殿はよく人の才を見抜く眼をお持ちでいらっしゃる」
だから任せて良かったと高蘭は思った。
ある日、劉備の元に一通の書状が届けられた。差出人は朝廷より賊討伐の総司令に任命された車騎大将軍・何進であった。
内容は、簡単にいえば救援要請であった。
───現在、我が軍は賊の総帥・張角率いる本隊と交戦中であるが、敵の妖術により非常に不利な状況にある。
そこで、先々の戦で戦功をあげている貴軍に救援を求めることにした次第である。どうか我々に一臂の力を貸してはくれまいだろうか───
とおよそこのようなものだった。
上から目線が気に入らない。大体書状の何進自身が元は肉売り商人であったと聞く。たまたま妹が帝の眼に留まり宮廷入りしたから召し抱えられたに過ぎない。それからというもの、あの男の態度のデカさは折り紙つきの悪評という噂だ。
───権力は時として人を狂わせる
が、官位ある人間は無官の人間に対して常に見下した態度を取ることを劉備は知り尽くしていた。
───彼もかつては見下された側であったのに・・・・・・・・・
劉備は無性に虚しかった。
せめて、と書状は握り潰した。
劉備は、即日討伐軍の本隊がいる冀州へ向かうことを告げ出発した。
この時、高蘭はある人物を探していたのだが見つける事が出来なかった。
高蘭が探しているその者は、龍二らの少し後方で彼らをじっと見ていた。
(アイツが俺の───。ふん、粋なことをしてくれる)
進軍二日で劉備軍は討伐軍本隊のある冀州に着いた。
討伐軍総帥・何進は大喜び───形だけであろうが───で出迎え、少しばかりの酒宴を催した後、作戦会議に移った。
敵は総帥・張角率いる本隊約四十万。対する討伐軍は半分の二十万。
しかも、敵の張宝・張梁らの妖術により進軍が困難で苦戦を強いられているらしい。
そこで、劉備軍には張宝・張梁のどちらかを討ってもらい、張角までの進路を確保してほしいとのことだった。
調子のいいことをと思いながらも劉備は快諾し自軍に戻るや、早速諸将を召集して軍議を開いた。
「───まあ妥当な線で言えば、手薄な張宝の所を攻めるのが定石ですが・・・・・・・・・と言っても八万はいますがね。対する我が軍は四万弱ですからね~」
軍師孔明は気楽な物言いで言うが、その頭ではさてどうやって攻めてやろうかフル回転で思考中であった。
「なあ孔明。メンドくせぇから二つまとめてブッ倒しゃぁいいじゃね?」
「バカかお前は!? そんなことしたらこっちが先に全滅しちゃうでしょっ!」
単細胞バカにほとほと呆れたように関羽は張飛に脳天唐竹割を喰らわせた。
「さて、あんなバカはほっといて・・・・・・・・・」
強烈な一撃を喰らい悶絶している張飛を無視して、孔明は構わず作戦を伝える。
「兵が少ないので軍を二つに分け奇襲をかけたいと思います。まず、雲長殿とそこでうずくまってる単細胞バカが各一万ずつを率いてこの地に伏せてもらいます。いわゆる伏兵というやつですね。ここには
徐庶は任せろと馴染みの孔明に親指を立てる。
「我が殿には残り二万弱を率いて敵の正面に布陣してもらいます。要は囮となってもらい敵の注意を惹きつけてもらいたいのです。ここには万一に備え私がつきましょう」
諸葛亮は地図上を指しながら作戦を伝える。
「適当な時に私が合図を出します。元直はそれを機に二将軍に、二将軍は元直の合図に横槍から敵にぶち当たって暴れてください。本隊もそれを見てから攻撃に転じます」
では、と孔明は人員配置を書いた紙を諸将の前に提示した。
劉備隊(囮部隊)──劉備・諸葛亮・劉安(安徳)・周平(泰平)・陳明・月英ら二万二千
関羽隊(奇襲部隊)──関羽・張飛・徐庶・趙雲・趙蓮(龍二)・司馬尚妃(達子)・高蘭ら二万
「さ、て・・・・・・そこの単細胞バカ。くれぐれもヘマやらかさないで下さいよ?
───もし、ヘマなんぞしでかしたら、私の実験に付き合ってもらいますからね? いいですね?」
「サ、サー、イエッサー!」
出陣前、諸葛亮は張飛のもとまで歩み寄り暗い笑顔で忠告した。そのやりとりを、偶然通りかかった三人は
(・・・・・・マッドサイエンティストだ)
と、ネットの二次小説よろしく悪魔の一面を持っている諸葛孔明を垣間見てしまった。瞬時に彼らのブラックリストに記入された。あれは安徳と高蘭と同じ人種だ。
関羽隊が先に出陣し、指示された茂みに隠れた。関羽隊が先発した後、張飛隊が出発し最後に劉備隊が出陣した。
敵陣の正面に布陣した劉備は、指示があるまで待機するよう隊に命じた。数で不利の相手にわざわざ突貫するバカはいない。
「とはいっても、どうやってあいつらをこっちに来させるか、そこが問題だな」
「そこなんですね~。数で不利なこっちから攻めるのはバカバカしいですしね。はてさて、どうしたものやら」
おそらくこの場に龍二がいたら「考えてねぇのかよっ!」とツッコんでいただろう。
しかし、残念ながらこの場にいたのは、あの安徳であった。
「アイツらを、ここまで越させればいいのですね?」
安徳が訊くと、諸葛亮はそうですと頷いた。劉備は彼の不気味な笑みに、心の底で何か嫌な予感がした。
「一体、どうするんだい?」
そういった感じを表に出さずに、劉備が念の為に訊くと
「まあ、見ていて下さいよ」
と薄気味悪い笑いを浮かべて言った。
それをたまたま横眼で見ていた泰平は、とてつもなくこの上なく限りなく最高極上超絶に嫌な予感がした。杞憂であってほしかった。
が、しかしそれは安徳が手に持っていた弓を見て無情にも悲しくも確信に変わってしまった。
泰平はいつにもまして運命とか宿命とかいうものを心底恨みたくなった。
「あー・・・・・・明欣さん? 兵士達に迎撃体制をとるよう言ってくれません? 今すぐに」
心の中で、人を巻き込んで何かしでかすんだったら他の人にまず説明してからやりやがれこのバカ徳と吠えた。心の準備をする時間くらい寄越しやがれ。
「へっ?」
陳明がポカンと口を開けている間に、安徳は隊の一番前に行くと弓を限界まで引いた。泰平はさっさと迎撃体制をとっていた。陳明は取り敢えずその場にいた兵士達に迎撃体制をとるように伝えた。
「あぁそうだ皆さん、私が矢を射たらすぐ攻撃出来るように準備しておいてくださいね?」
安徳は泰平とほぼ同じ内容を味方兵士に告げた。
兵士達が困惑しているのも構わず、安徳は矢を射た。
矢は直線に進み前線にいた猛将として知られる敵将・李延の真額を見事射抜いた。両軍は唖然とした。かなりの距離が離れていたのにも関わらず、矢は失速することがなかったのだから。
敵大将・張宝は激怒して全軍に突撃命令を下した。
賊は討伐軍を見くびっていた。所詮は寄せ集めの烏合の衆。大将さえ討ち取れば、勝手に瓦解する、結束のない雑軍。その程度しか思っていなかった。その分、自分達は結束があり、尚且、天公将軍・張角の加護がある。だから負けるはずがない。
ところが、その緒戦で討伐軍の若僧の弓によって猛将李延が討たれてしまった。これで激怒せずにいれようか。
「皆殺しにしろっ」
地公将軍張宝は
劉備の予感は的中してしまった。
「おお。劉安君、やってくれるね」
劉備は最早感心するしかなく、半ば呑気に隣の孔明に言った。孔明の顔は引きつっていたが。
「そのようですね。
───ほら、早く兵士達に指示しないと」
孔明が注意すると、劉備はそうであったと剣を突き出して兵士達に命じた。
「全軍、迎撃せよ」
そんな安徳の一矢を引き金とした賊の突撃の一部始終を、茂みの中から見ていた関羽隊は感心していた。ただし、龍二・達子を除いて。
「・・・・・・まあ、予想はしてたけど、な・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・やると思った」
呆れてため息をついた。きっと泰平も同じだろう。少しは他人の気持ちを考えて行動しやがれ安徳。
戦況は、諸葛亮の作戦通りに劉備隊がある程度まで頑張って諸葛亮の号令で脱兎のように後退を始めた。それを見た賊軍は張宝の怒声により怒濤のごとき追撃を開始した。全て諸葛亮の読み通りにことは運んでいる。
徐庶は諸葛亮の合図で機が熟したと見るや、側にいた関羽に指示を出した。
「時が来ました。雲長殿、今です!」
「よし。皆、始めるわよ。準備して」
「よっ、待ってました」
「翼徳殿、立ち上がらないで下さいっ。バレたら意味ないでしょっ!」
反対側の茂みから、徐庶の合図を見てはしゃいで立ち上がろうとしている張飛を趙雲は懸命に抑えようとしている。もう少し待ってくれと言わんばかりに精一杯懇願しながら。
その間にも劉備隊は賊の猛追撃を受けみるみる数を減らしていく。
「今だかかれぇー!」
関羽が茂みから立ち上がり大号令を発す。待ってましたとばかりに伏兵が茂みからわらわらと現れ、賊の側面に突撃に次ぐ猛攻を開始した。こと張飛は張り切って敵軍に突っ込んでいき蛇矛を手足のように自在に操って賊を屠っていた。
突然の伏兵に完全に混乱している賊を見て
「全軍反転! それ、賊共に思い知らせてやれっ」
劉備が叫ぶやそれまで逃げていた劉備隊は一斉に反転、攻勢に転じた。
効果てきめんであった。勝利を確信してに攻めていた賊は、まさかの伏兵出現により混乱状態になり、
安徳は隙を見ては矢を射、接近戦になるや長光・宗兼の自慢の二刀を用いて賊を斬りまくった。
『ヤスっ。僕らも負けてらんないねっ』
陽気な口調で玄上から玄武が声をかける。
「ははっ。人殺しはあんまやりたくはないけど、アイツには負けたくはないからねっ!」
安徳に撃破数で負けたくない泰平は、闘争心を燃やして進んで賊を屠っていく。勿論、龍二・達子もそれは同じである。何でもかんでもあんな奴に負けてたまるかというライバル心のなせる技である。
本来なら妖術を使い蹴散らす張宝であるが、先の安徳の一矢と関羽ら伏兵による奇襲攻撃の為乱戦状態になり、下手に使えば自軍にも被害が及びかねなくなってしまったので、それが出来ない状況にあった。
正直、張宝は切羽詰まっていた。
「誰かっ、早くあの者共を討ち取れ!」
武才皆無の張宝は部下にそう命令をぶつける他なかった。
特に誰とも分からぬ四人の若き将の暴れっぷりに肝を冷やした張宝は早くあの四人を討ち取れと周りの信者に怒鳴り散らした。それくらい龍二達の武才は際だっていた。
その時に、どこからともなく数本の矢が飛んできて、張宝の胸、首、真額を射抜き、張宝は断末魔をあげる暇もなくもんどりうって倒れた。傷口から鮮血を散らして二度と動くことはなかった。
「あっ張宝様!」
「張宝様が討たれたっ」
張宝討死の報はすぐに両軍に知れ渡り、賊は戦意喪失し次々に投降してきた。
『・・・・・・いいのか? 大将首、持っていかなくて』
白虎が宗兼の中から安徳に尋ねる。張宝を射ち討ったのは彼だった。
「別に。あんな雑魚の首、興味ありません」
興味がなさそうにバッサリ切り捨てるや、安徳は馬に股がり劉備の所へさっさと戻ってしまった。
(こいつ、以外に冷酷なきらいがあるな)
そんな主をを、白虎は一抹の不安を抱きながら宗兼の中から見ていた。
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