@blanetnoir

ある田舎に、大きな夢を見る少年がいた。


「有名人になる。」


その夢を叶えるために、場所を探し、仲間をみつけ、集い、支え、チャンスの時を待った。


仲間となったのは同年代の同性で、

同じ夢を持った彼らを家族のように大切に思った。


時に彼らが本当の家族とぶつかり合って傷ついた時には匿い癒し、


夢を掴んでからも降り続く苦労の中で励まし合い、


住まいを共にした時は母のように食事も世話し、


気づけば矢面にたつ場面が多く、持ち前の責任感から全てを引き受けた。



そうして苦労の先に得た成功は、何物にも変えがたいものだった。

だから、何を犠牲にしても守り、生きていきたいと願った。






時を同じくして、夢を見るもう1人の少年がいた。


彼は夢を叶えるために、場所を探し、仲間をみつけ、集い、支え、チャンスの時を待った。


「有名になりたい。」


出合い頭にこそぶつかったが、家族のような親しみと安心感を感じるのに時間はかからなかった。



こうして2人の少年が出会った。



苦労の先に夢をつかみ、仲間を得て、軌道に乗れば、その先に夢の蕾は更に数を増やし、その花はみんなで咲かせることができると思った。

そしていくつかの自分自身の望みも叶え、桃源郷のような世界を得た。


その世界を支える中心は、仲間であり家族でもある彼らだった。


彼らとの絆こそ、帰るべきホームとなった。


彼は、己の望みに自由に振舞った。





2人は努力を重ね、その苦労の先に成功を得た。その成功を積み上げるほどに、崩しがたい塔が建った。



だけどその礎と素材は多くの協力を得て頑丈に、壮大に、安全性の高い建物として形を生していった。



多忙を増し、実現した夢を多くの人と共有した結果、夢は労働になった。



それでも、幼い日に夢見た世界である今という現実を守るため、犠牲も仕方ないと、プライベートは二の次になっていった。



仲間の自由な男が、結婚し家庭を築いていっても、愛する女性が現れても、彼はひとりで塔の守り人のように、静かに一人でいた。



その時を10年、20年と重ね、「有名になる」という幼き日の夢を叶えた。







ある日突然その知らせは訪れる。



それは自由な男の個人的な行いによるもので、



彼を知る者に、つまり日本中に衝撃を与え、塔が揺れた。



その揺れは礎に傷を作った。



共に塔を建てた夢の共同作業者である男に、その知らせはあろう事か人伝に伝えられる。



礎には、彼の人生が全て注ぎ込まれている。



彼の全てを詰め込んで、多くの人の力も加えて立ち上がった塔は、何とか崩れず持ちこたえた。



それでも、目に見える大きな痕を残した。



その塔を、見上げる男の背中は、言葉が混ざりすぎて。



彼の心を読み取ることはできなかった。







彼はそして公の場から姿を消した。


また人伝に、彼から手紙が来た。


「また、いつか…」







約1年後、男はあることを報告する。



「結婚します」



男が、初めて自分のプライベートを動かしたことを、世間に知らせた。



孤独な塔の守り人だけではない、

ひとりの男として、彼の人生に寄り添う伴侶を得た。







手紙をくれた男は塔の前に立った。



久しぶりに見上げた塔は、自分が最後に見た頃とその姿を変え、そしてそこにいつもいた、彼の帰る場所には、その男はいなかった。

守り人は、自分の帰る場所を見つけ、

自由な男は、また、その塔を後にする。








塔はそれでも今も、立派に聳えている。なんならその傷も姿の一部のように、変わらぬ存在を放っている。


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