第9話 プレゼントの箱


「とても大事そうに持っているね、昆虫採集の箱なのかい? 」

コンコルドのお爺さんは搭乗者のロビーで、僕の膝の上に乗っている紙箱をいかにも興味深げに見つめた。


僕は今日このお爺さんに会えて本当に良かったと思った。何故なら話したいことが、きっとこう言ったらおじいさんは喜んでくれると思ったことがあったからだ。


「近所の叔父さんへのお土産なんです。この飛行機だったら早く着くからお菓子が悪くならない。どうもありがとう・・・ございます」


「ハハハ、私は設計者の一人にすぎないよ。飛行機は本当にたくさんの力で飛んでいる。君に初めて会ったのは本当に小さい時だった、もうこんなことを言う年になったのだね」

と笑いながら言った。


ただ、ちょっと心配なのは「お爺さんがお菓子を食べたいというんじゃないか」ということだった。きっと少し困った顔をしながら、僕はそっと箱を開いた。


「ああ、これは美しいね。この国のお菓子だね。小さくてそれぞれに美しい。桜、落ち葉、新緑、生菓子と言うものだね。でもこれは、一人の人間が作ったものではない、違うかい? 」


「そうです。色々なお店で買ったものを、おばあちゃんがくれた箱に入れました。そのほうが、楽しいかなと思って」


「それは素晴らしい! 素晴らしいアイデアだよ」


僕は恥ずかしいくらいにうれしくなった。何故なら僕はもうこの爺さんが

「今まであった人の中で一番すごい人」とわかっていたからだった。教えてくれることも、優しく注意してくれることも素直に聞くことができた。僕だけではない、他の子供たちもお爺さんのことが好きなようだった。


「すいません、お相手をしていただいて」以前キッズスペースで誰かのお父さんがお爺さんに言っていたけれど。

「いやいや、こちらの方が勉強になる。子どもの縛られない発想を体験できる貴重な場所だよ」

「先生は本当に勉強熱心ですね」とその時に一緒にいた若い男の人が話していた。


「きっとその叔父さんもとても喜ぶと思うよ。私は・・・どうもこのお菓子の中の甘い豆が苦手でね。見ただけでよい気分になれたよ、ありがとう」


僕の心配など吹き飛ばしてしまうような、お爺さんの笑顔を見ることができた。それを見て僕は久しぶりに嬉しい気持になれたけれども、帰ったらまた学校に行かなければいけない。


それはやっぱり嫌だった。





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海の真ん中の落書き島 @nakamichiko

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