第2話 裸の箱



「そう言えば君たちは初めてだったか」


と先輩研究員があらためるように言った。一時期この遺品整理は宇宙中で流行ったことがある。同じ様なある研究機関がたまたまそれを引き受けた所、未発表の数学の公式が出てきて、それが宇宙の謎を紐解くカギになるかもと大騒ぎになった。僕が入った頃がその最盛期で、色々な発見もあった。それはブームのように去ってしまったが、確かに誰かがやった方が良いことではあるので、今手が空いているならば丁度いいだろう、という具合で任されたのだ。仕事がない訳ではない。ただどうしても研究というのは地味で時間のかかることななので

「ちょっとした息抜きの研究資金稼ぎ」に部長も久々に引き受けてきたのだろう。


「でも、地球時代のものって、そんなに残っているものなのですか? 」


無口な彼とは違ってもう一人の方は、おしゃべり好きな明るい人間だ。


「とにかく、まあ百聞は一見に如かずだよ、やることを見ているといい」


明日には届く荷物を僕たちはちょっと心待ちにしていた。


 


しかし次の日に僕が少し遅れて職場に入ると、みんな興奮気味だった。

「凄い! 凄い人の遺品ですよ!!! 」

「誰? 」

「ほら、データーの長期保管の方法を考えた、何千年も彼の方法に頼っていたって,

情報保存学のパイオニアですよ!  」


「ああ! そう言えば習ったな! すごいな! でも彼の物なんて逆にやりつくされているはずだろうに」


僕のその言葉は、興奮を一気に沈下させ、苦笑を生んでしまった。


「え・・・何かおかしなことを言いましたか? 」


「感が当たっているんだよ、実は彼の書簡や日記でね、ラブレターを含んでいるらしいけれど・・・普通のペンで書いてあったからそれは消えているんだ。正直、数式的なものはほとんど皆無の様だ。」


「ハハハ、で、残っているものもあるんですか? 」


「彼は死ぬまで研究し続けたからね、紙とペンの改良にも携わっていたみたいで、ノーベル・・・賞受賞後の大きな日記帳があって、それはその開発したもので書かれてあるんだ。だから保存状態もとてもいいみたいだよ。これはもちろん開けない状態での確認だから、とにかく箱を開けてみよう」


僕たちは新人たちの前、慣れた手つきで金属の一抱え程の箱を開けることにした。箱は同時期に作り替えられいるので、数年前と全く同じ作業だった。


まずは溶接で付けた上に何重にかのコーティングがされているので、まずはそれを溶かす。そちらの方に時間はかかり、金属本体を切断するのはほんの数秒で済む。そしていつものごとくコーティングの下からは、トロフィー同様その男性科学者の名前が刻印されていた箱が現れた。


「はあ・・・すごいよな、やっぱり名前の残る人って」


「調べたら、特にこの人は人間的にも優れていたって」


「それは珍しい! 」


「ハハハハハ」

と談笑している間に、溶接の部分に特殊な電波をぐるりとあてて、カタンとそれが完了する音がした。


「え? 」「ん? 」「あれ? 」「はあ? 」「なんで? 」


僕を含めた経験者全員は不可解な声を出した。


「どうしたんですか? 蓋をまだ開いていないのに結構カビの匂いがするんですね、驚きました」

「確かにかび臭い」

新人たちはほんの少し嫌そうな顔をした。


それを聞いても僕たちがあまりにも何も言わないので、年が一番下の僕が任されるように言わざるを得なかった。


「その全く逆だよ、おかしい、たったこれだけしか匂いがしないなんて」


誰かが空気の浄化システムのレベルを少しだけ上げた。

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