第72話 一長一短、二兎を追え
突然だが皆さん、「音」に拘りを持たれているだろうか。ここで言う音とは普段、耳に入る音ではなく、テレビやオーディオ、ステレオ、ヘッドフォンなどから流れる音である。音質、方向性の定位、声の聞き取り易さ、その他、なんでも良い。これらの「再生される音」に拘りがあるという方はコメント欄に是非、その拘りを書き込んでいただきたい。
で、今日はなんだ、というとヘッドフォンの話だ。
私はリスニング、つまり主に音楽観賞用にはMDR-1Aなるヘッドフォンを用いている。他に楽器用としてはMDR-CD900STを持っている。どちらもそれぞれの用途では定番だ。結構な数のヘッドフォンを試したのでこの二本がリファレンスなのは分かっている。
そして新たにサラウンドヘッドフォンを追加しようと思った。映画鑑賞に使いたかったからだ。サラウンド、5.1チャンネルとか7.1チャンネルとかの包み込まれる音である。
きっかけは先月から今月にかけて放送されたエヴァンゲリオン新劇場版三作の4Kリマスターが5.1チャンネルだったことだ。似合わないかも知れないが私はアニメも嗜む。テレビ放送版で描写されたレイの死や創造現場、アスカの精神崩壊、シンジの身体喪失など重要な部分が多く省かれている分、新たな解釈が加わってストーリーが再構築された新劇場版。それをサラウンドで再体験したかった。(余談だが見逃した方には今月後半に三作とも再放送されることをお伝えしておく。尤も4K視聴環境が必要だ)
サラウンドにはヴァーチャルサラウンドとリアルサラウンドがある。前者はソフトやプロセッサで多チャンネルの入力を2チャンネルヘッドフォン用に処理し2チャンネル、要するにただのステレオヘッドフォンに出力する。出力された音は巧妙に時間差を付加した上、混ぜられており、あたかもその場にいて音に包まれているかのような立体音響が得られる。対して後者は片側、片耳用に四個、若しくは五個、左右、合わせて十個ものスピーカー、ドライバーユニットを内蔵し、多チャンネルの音を処理することなく、そのまま各ドライバーに出力する。本来、両方、聞き比べなければ判断できないが、構造的にはリアルサラウンドが勝っていると思われる。だがリアルサラウンドにはPC用しかない。
話が逸れた。兎に角、私はサラウンドヘッドフォンを入手した。そして映画を見た(残念ながら4Kエヴァではないが)。今までにない体験が出来た。それはそれで満足した。しかしステレオのMDR-1Aと聞き比べると愕然とする。いや聞き比べるまでもなく一聴した時から気付いていた。音が悪い。
そう、サラウンドヘッドフォンの音質は単機能ステレオヘッドフォンの足もとにも及ばないのだ。だが臨場感はサラウンドヘッドフォンが上である。
あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てれば、だ。結論としては音楽を聞く時には2チャンネルステレオヘッドフォンを、映画を見る時には5.1チャンネル等のサラウンドヘッドフォンを使えば良いのだが、何故メーカーは高音質のサラウンドヘッドフォンを作らないのだろうか。
構造的には簡単だ。MDR-1Aにヴァーチャルサラウンド機能を持たせるか、ヴァーチャルサラウンド音声を出力するプロセッサを付ければいい。それが出来ない理由を考えるとコストしかない。高額になって売れなくてペイできない。そこまで市場が求めていないからだ。
もしかしたら映画やテレビの音声自体が「呆れた音質」で、高音質の音楽音源に対応する必要がないのかも知れないが、やはりメーカーの意地は見てみたい。
そこの開発者さん、超高音質サラウンドヘッドフォン、それもテレビ等に簡単に繋げる奴、作ってみませんか? きっとサラウンドのリファレンス機になれますよ。その際はハイレゾ対応も忘れずに。
あぁ、最後に一つ良いことを書いておこう。MDR-1Aというか、ステレオヘッドフォン全般をヴァーチャルサラウンドヘッドフォン化する機能がWindows 10にはある。サウンドデバイス、サウンドカードのプロパティを開き立体音響タブで「7.1ch仮想出力(サラウンドサウンド)を有効にする」にチェックを入れるだけだ。試してみたがかなり有能だ。使える。パソコン上で再生出来るコンテンツで5.1チャンネル、7.1チャンネルなど多チャンネルの音声を含むものに限られるが使用するのも悪くない。
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