第71話 ピースサイン

 そうそう、あのウッドストックの。と、思い浮かべられた方、それはピースマークである。冗談はこのくらいにして。


 ピースサイン、ご存知だろうか。人差し指と中指を出しチョキにして掌側を前に向けて高く掲げる。要するにVサインである。


 で、バイクに乗らない方には想像も付かないかもしれないが、二輪車と二輪車が擦れ違う時に挨拶として用いられる。


 古くは昭和の時代からで、現在でも、それも若いライダーの間でも習慣、礼儀として行う方がいる。


 しかし、やはり時代は流れるのでピースサインを出さない運転者も増えた。そこで私は向かってくる相手が先に手を挙げた時のみ応えるようにしている。勿論、すれ違い間際ギリギリや、見通しの悪いカーブで、こちらに対してサインを掲げられると反応できない時もある。誠に申し訳ない限りだ。


 ここまででバイク乗りの間でのピースサインのあらましはご理解いただけたと思う。


 ところが先日、クルマ、四輪車に乗っていて前方から来るドライバーからピースサインを出された。乗用車同士でピースサインを交わし合っていては大変である。何しろ数が多いのだから。それでも、その方がピースサインを掲げられたのには理由がある。乗っていたのが昭和のトヨタ車だったからだ。序でに触れると搭載されるエンジンも私のクルマと同じものだ。つまり、同類、仲間と見なして挨拶したのだ。


 クルマを運転中にピースサインを出されたのが初めてだった私は当然、反応できず、固まったままやり過ごしてしまった。この場を借りて詫びておく。貴重なる昭和二桁ナンバー乗りよ、申し訳なかった。


 それにしても最近、駐車場に停めていると待ち受けていて写真を撮らせろ、という人はいるし、ガソリンスタンドではエンジンを見せてくれとフードを開けられるし、横断中の歩行者が信号待ちしている私に話しかけるし、とどめが上述のピースサインである。私はあくまでも日常の脚、普段使いの道具としてクルマを扱っているのだ。「旧車扱い」にはどうにも困る。


 確かに後、一ヶ月で製造から三十六年目に入る。だからといってクラシックカーとして大切に扱ったりしないし雨の日もバンバン乗る。エンジンの調子を保つため回転計も使い切る。クルマなんて走ってナンボ、だ。


 というわけで、実に複雑な思いで受け取ったピースサインだった。



お詫びと訂正

青い歌

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896158125

内の「宣教師」と「ピクニック」でコピペを誤り、終盤が掲載されず、本来の意図と全く違ったものになっていました。先ほど訂正しています。既にお読みいただいた方々、申し訳ありませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る