第56話 ポチ

 眠れない。仕方なくネットにアクセスする。積極的に筆を執ったり何かを理解しようとすると余計に睡眠から離れていくのでショッピングサイトを眺める。


「お洒落だけど嫌みがないコーディネートだな」

「このパーツの性能、どうなんだろう、試したいな」

「こんなコーヒーカップが傍らにあれば気分も弾むだろうな」

「そういえばインク、切らしてたな」

「美味そうだな」


 吠える。ポチが吠える。


「ポチれ、ワン!」

「遠慮は無用、ほらポチれ、ワンワンっ!」


 頭の中で震える声がポチを怒鳴りつける。


「要らない物は要らないんだよ、黙れ、出ていけポチ!」

「またまた。簡単ですよー、今ポチれば明日、届きますよー、ご主人様!」

「インスタントな幸せは人を不幸にするんだよ! だから出てけ!」

「ポチると安心して、ぐっすり眠れるワン!」

「それだけ翌朝の後悔が大きいんだよ!」


 ポチが去ったのか睡魔が勝ったのか。意識が遠ざかる。段ボールの山が届くことはなさそうだ。


 ポチらなかった幸せの分、良い夢が見られますように。


 おやすみなさい。

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