第50話 豆腐屋死活問題
番外編一話を除き、今回で五十話達成である。第一話「二パーセントの潤い」を書いた時には考えも及ばなかった四万字だ。が、記念すべき第五十話は些か暗いストーリーとなる。
私は日頃、二つのスーパーを利用している。その片方に以前、一丁二十九円の豆腐が置かれていた。木綿も絹ごしも同じ値段でメーカーのラインナップはそれだけだった。
「こんなに安くて大丈夫なのか」
品質と豆腐屋の行く末を案じた。
二年後だったか三年後だったか。激安豆腐は消えた。ニュースでメーカーが倒産したのを知ったのは数ヶ月後だ。実は私も頻繁に其処の豆腐を手にしていた。なんのことはない。メーカー潰しに一役、買ったのである。
少し考えれば分かる。大量の大豆と水を使用して製造し、重い製品を長距離輸送する。小さくないコストをかけ、初期は四百グラム、後に三百五十グラムとなった豆腐を二十九円で売れるように卸す。無理が有り過ぎだ。
恐らくだが、スーパーが叩いたのであろう。現在、罪作りなスーパーには別のメーカーの製品が三十五円で並んでいる。そのブランドは少し賢いようで、品質を維持した価格帯の製品も販売させている。目玉は安くとも豆腐屋の魂も併売させる。戦略だ。
兎に角、二十九円の捨て値豆腐メーカーは無くなった。それから程なくして、もう片方のスーパーに同価格の豆腐が現れた。勿論、喜んで購入した。製造所と住所を確認する。住所は前述した破産メーカーの工場跡であり、スーパーの自社ブランドになっていた。
ライバル店舗で安売りし過ぎて潰れた工場を買う。そしてまた安売りさせる。戦国時代もここまで来たか。
されど競争は終わらない。自社ブランドを差し置いて別メーカーの豆腐を二十六円としたのだ。三円差をどう見るか、の話ではない。二十六円豆腐が続くわけがない。
予想は的中した。二ヶ月ほどで最安豆腐は撤退し、二十九円自社ブランドのみとなった。
ふと昔を想い出す。
軽のバンで巡回する豆腐屋がいた。スーパーカブの豆腐屋も。彼らはあの独特の笛を鳴らして客を呼び、人々はボールを持ち車やバイクを停めた。家の前で豆腐を買えたのだ。
価格に関しては想像も付かない。親と豆腐屋のやりとりは記憶していないし、今更、誰かに尋ねたところで答えは返ってこないであろう。しかし相応の額であったのは間違いない。
相応の額。詰まり二千二十年の二十九円よりは相当、高い。皆それを良しとしていた。
彼らが消えたのがスーパーの台頭が著しくなった頃だ。今も昔も豆腐の値段はスーパー次第か。
前置き通り寂しい文章になってしまった。悲しい安売り合戦の報告だけで中身はない。
安さに目が眩んで食品メーカー潰しに荷担するか。少し我慢して彼らの報酬に見合う額を用意するか。貴方次第だ。
と、締めようと思ったが意地悪に誘惑しておこう。合戦中の店舗には七十八円で美味い本格的な麻婆豆腐の素があるぞ。豆腐と合わせて幾らかな。ふふふ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます