第49話 車屋

 車屋とタイトルに付けたがディーラーのことである。自動車メーカー直下の新車ディーラーだ。


 私の車は昭和六十一年式である。父がディーラーから購入した。そして今もそのディーラーに修理や車検を頼んでいる。


 詰まり、三十四年間、新車を購入していない。車を買わない客だ。何故だか良く分からないがディーラーの店員は、そんな客を大切に扱ってくれる。


 何かあり寄り、サービス担当に話をすると、席に案内され飲み物のオーダーを訊かれる。車のチェックが終わると担当したメカニックがテーブルの横に跪き説明する。そこまでしなくても、と、恐縮するが店の方針なのだろう。


 で、対応は


私「エンジンからオイルが漏ります」

デ「この際だからオイルシールを全部、打ち換えましょう。」


私「オルタネータ(発電機)が壊れました」

デ「電装(屋)に当たったらリビルト(再生)出来るそうです」


私「エアコンのガスが環境規制で手に入りません」

デ「新しいガスを利用できるようレトロフィット(新ガス対応改造)にしましょう」


私「ラジエータファンが付け根から折れました」

デ「部品、無いですね。合いそうなのを持ってきてください」

私「ネットで買った汎用ファンです」

デ「付きました、以前より良く冷えるんじゃないですか」


私「エアコンが効きません」

デ「エバポレータ(室内側熱交換器)ですね」

私「作れますか?」

デ「メーカーに問い合わせたら少し時間はかかりますが、なんとかなるそうです」


デ「どうしたんですか、大きな音ですよ」

私「今、そこを走っていたら突然、マフラーが外れたみたいです」

デ「ナットが一つ無くなってますね、締めておきましょう、お代は結構です」


私「あちこちの駐車場で当て逃げされて、ボディの笑窪が気になります」

デ「デントリペアしましょう、内装を外し、専用の工具で塗装が傷まないよう押し出します」

私「高いんじゃないですか?」

デ「板金より遥かに安く綺麗に仕上がり修復歴にも載りません」


私「パーキングブレーキのワイヤーが切れました」

デ「純正部品はもう無いので探してもらえますか」

私「アメリカの互換部品メーカーのページによるとXX型XXXの部品と同じです、取れますか?」

デ「取れました、直りました」


私「ラジエータ液がジョイント(継ぎ手部分)から漏ります」

デ「必要な部品番号を印刷しました、こちらでは手配できないので探してください」

私「オーストラリアにありました」

デ「出来ました」


私「パワーステアリングフルードが漏ります」

デ「品番印刷しました、またお願いします」

私「アメリカの大河にありました」

デ「出来ました」


私「エアコンのセンサーが壊れたので交換したらガスが抜けます」

デ「センサーを取り付けているパイプにクラック(ひび)が入ってますね、寿命ですね」

私「部品、無いですよね?」

デ「はい、でもアルミホイールの修理を行っているところなら直せるかも知れません」

私「お願いします」

デ「出来ました」


 長さが諄くなったが、こんな具合である。他にもあるが、それこそ切りがないので書くのはやめておこう。


 こちらとしては何時、


「七紙野さん、もう諦めましょう」


 この言葉を聞くか。それを常に意識しているのだが、


「この車は未だ未だ保ちますよ」


 彼らの方が余裕がある。心強いばかりだ。


 ある時、ディーラーのお偉いさんと思われる方々が店を訪れていた。


「視察かな」


 余り気にも留めず修理代の支払いを終えてショールームを出ると、スーツ姿の偉い人々が、こちらを向き一直線に横に並んだ。車に乗り込みエンジンをかけると全員が深く頭を下げた。私は少し驚いたが礼を返しディーラーの玄関を出た。


 上から旧い車と客を大切にする姿勢がある。そう感じたのは言うまでもない。


 不具合を来せばあそこならどうにかしてくれる。信頼のディーラー。車の寿命は分からないが、願わくばもう暫くはお付き合いしたいものだ。

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