第44話 立ちゴケ
立ちゴケ。それはライダーにとって最も不名誉なコケ方である。信号待ち等で止まっている、ただ跨っているだけの単車を転倒させてしまう。みっともないことこの上ない。
原因は様々だ。右足で支えていて左足に代えたら路面の左側が低く、予想以上に傾いて支えきれなくなった。単に身の丈に合わない重過ぎる車体を操っている。着いている足が滑った。挙げれば切りが無い。
それを昨日やってしまった。
計器のセッティングのため交差点を曲がったところで路肩に停車し、スイッチ類を触った後、発進しようと左から乗車した。鉄馬を右に起こす。ところが起こし過ぎ勢い余って右に。ある角度を超えて傾斜した二輪車は異常に重い。斜め四十五度くらいで三十秒以上、粘ったが、病み上がりの体では立て直せず結局、路上に寝かせてしまった。
交差点のスターである。横断歩道の人々、停止線のドライバー、皆の視線を一身に集める。
そうなると如何にスマートに引き起こし、その場から消えるか。これで頭がいっぱいだ。
何故か跨いだ状態では四十五度でも無理なのに、そういう時は九十度、ばったり寝た状態からでも、ひょいと立てられる。火事場の何とやらだ。
被害を確認する。あまりにもゆっくりと倒した為か、ブレーキレバーとマフラーの角の塗装剥げ、メインステップバンクセンサーの軽い削れ、だけで済んだ。
バンクセンサーとはカーブで車体を傾けていった時に最初に接地して「これ以上は危険」と知らせるための物なので、削れても構わない。レバーとマフラーは剥げただけで損傷はないのでタッチペンで誤魔化せる。実質、ダメージ、ゼロである。
「助かった」
正直な心の声だ。
何事もなかったかの様に颯爽と乗り去る交差点のスーパースター。
ヘルメットの中で汗を感じた。顔が真っ赤だったのは間違いない。
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