第43話 ぶっ飛ぶアンプ
また、ちょっと古い話になる。
我が身はその夜、チキンジョージの最前列にあった。チキンジョージとは生田神社横にある結構、有名なライヴハウスで、私はCBAのパフォーマンスを拝むため一番乗りを果たしたのだった。
(やや誇張して書いている。正確には何番乗りだったか記憶が曖昧だ。「最前列」というのも「最前列近く」だったかも知れない)
CBA、Char, Bogert and Appice。ちょっとロックをかじった方ならお分かりだろう。Beck, Bogert and Appice、BBAのJeff Beckを外し、Charがリードするユニットだ。
衛星放送の生中継も予定されていて、テレビカメラも何台か入っていた。そして私は一番目の列、Charのマイク前に陣取っていた。座席とテーブルは撤去され、オールスタンディングとなっている。
BGMがフェードアウトし照明が落とされる。湧き上がる観客。三人がステージに出てくる。
演奏が始まった。ちょっと弱いんじゃ、と、思ったが、兎に角、楽しもうと体を縦に揺する。首も振りまくりだ。そして何曲も汗を流した後、事件は起こった。
ジャーン。次の曲のイントロか。突然、音が止まる。CharがMatchlessのアンプスタックを蹴り倒した。そのまま舞台から去るChar。動揺するCarmine Appice。そう、ドラムのCarmineがミスったのである。
良く分からないがCharが激怒したのはその一瞬によるものだけではないらしい。色々と積もり積もって切れた感じだ。
私は、というと、もう冷や汗ものである。一メートル程の距離で接していた主演が全国生放送もなんのその、機材をぶっ飛ばし楽屋へ消えたのだ。恐ろしいにも程がある。
後ろの数百人も騒然となったが、Carmineが裏へ向かうとアンコールと同じ手拍子が起こった。ヒューヒュー口笛を鳴らす者もいる。
かなり長い時間が過ぎた。大人なTim Bogertがベースを弾きながらバラードを歌い、間を繋いでいる。
二人が帰ってきた。Carmineはドラムセットに向かい、Charはストラップを掛ける。笑っているようだ。仲直りしたのかな。
Timが大きく呼吸し、これでもか、と、長い声を発し、喝采を浴びる。キッチリ一曲、仕上げたTimが二人をみて微笑んだ。
Show must go on.
再びバンドが動く。ジャーン。さっきの曲から続けるらしい。
その後は通常の運行となった。
Carmineが懲りたのか、Charが避けているのか。単に機会がないのか。理由は不明だがCBAの再演は果たされていない。チャンスがあればまた、あの三人が遊ぶところを見てみたいものだ。全員もう還暦を過ぎたので、いくらか角も取れているだろう。
いや、丸くなったロッカーは面白くないな。いつギターが叩き付けられるか、スティックが目を刺すか。そんなライヴが相応しいかも知れない。彼らには。
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